表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泡沫戦争メモワール  作者: ハル
4/18

第四話 再開

つ[続き]

初めましての方は初めまして。そうでない人はいつもありがとうございます。

二藍少女~Another Avantより先にこっちの方を片付けようかなと思います。



人影のない夜の住宅街をフェンリルは屋根から見下していた。

人の足音は無く、虫のさざめきが遠くから耳に入り、薄暗い街灯が道路を虚ろに照らし、目に映る家の窓はどこもシャッターが閉まっていた。

彼女は営みの無い街に違和感を感じながら、過去を回顧し、今を考察する。彼女の脳裏にははっきりと映っていた...。それは、前回の宝石戦争の記憶だ。それよりも過去の記憶を呼び起こそうにも、全く思い出すことはできなかった。

彼女が覚えた違和感はそれだけではなかった。それは、オリヴィエの応対だ。オリヴィエの今日の応対は、まるで初めて会った...、いや、一度剣を交えたような気迫が感じられなかった。

彼女の推察から、彼女が導いたのは、『宝石戦争での記憶は、回を跨いで投影することはできないかもしれない。』という仮説だった。それは、彼女自身が反例である。じゃあオリヴィエだけが、記憶を継承できなかったのか。その可能性もありうる。けれど、彼女がその仮説が正しいと思う理由はそれ以外にも有った。

それは、優希から供給されるエナジーの質が、前回の主と酷似していたことだ。従属者にとって主のエナジーというのは電力供給みたいなものだ。主からのエナジーが途絶えた従属者など、魂が抜け、そのへんに転がっているガラクタのようなものだ。

その供給されたエナジーの類似性から、彼女は同じ宝石戦争に再召喚されるかの如く、この宝石戦争に呼び出されたと、仮定した。

彼女は暗い顔をしていた。けれども、握りしめる手には強い意志が現れていた。今度こそ、敗者から勝者へと……。



窓から差し込んだ朝日が、カーテン越しに流れ込む。優希は目を覚まし、目覚まし時計へと目をやる。日頃の起床時間より早いことは、昨日の早寝から納得がいった。優希が部屋を見渡すと、床に直接寝ているフェンリルの姿が目に映る。優希はやれやれと息を少し吐いて、自分がさっきまで被さっていた掛け布団をフェンリルに掛け、部屋を後にした。

玄関へと行くも、優希の母親が帰った形跡は無かった。母親が出張で家を空ける時は多々有ったが、いつもなら前もって一言入る。けれど、今回は何も断りがなく、心配になって優希は、家の電話の子機を手に取り、母親の携帯電話の番号に電話を掛けた。接続中の電子音が数周期鳴り、「ガチャ」と受話器が取られるような音が鳴る。

『おーどうした優希』

優希の母親の声が流れる。

『どうしたこっちのセリフだよ。数日間も家空けて何してんの?』

『何って、強いて言えば仕事? 優希、テレビ見てるか?』

優希はそう言われて、居間のテレビの電源を入れる。映ったのは、煙を上げてる線路や、ボロボロになった橋。炎上した建物だった。テロップに目をやると、場所が八王子であることがわかった。優希はその光景に言葉を失った。

『な?そんな状態じゃ私だって安心して帰れやしない。まぁ、私は無事だから安心しな。寝場所も飯も会社から出てるし。』

母親の言葉で、優希の意識が現実へと戻る。

『そう。なら良いんだ。』

『ま、優希も気を付けろよ。いくら郊外のド田舎とは言え、野暮な奴が流れ着いてもおかしくはないからな。』

『うん。わかった。』

優希はそう返答し、子機を戻した。流石にフェンリルのことや、宝石戦争のことは未だ言えそうになかった。優希は台所へ向かい、今日の弁当の準備を始める。

「えーと、確かここに……。あ、あった。」

優希は予備の弁当箱を取り出す。フェンリルの分だ。優希は弁当箱を軽く水で埃を落とし、ご飯をよそい、冷蔵庫から常備菜を取り出し、弁当へと配膳していく。弁当への配膳が完了した後、優希はお椀にラップを敷き、ご飯とふりかけを入れ、ボール状へと握る。それを四個ほど用意し、その1つを手に取り、口へ運ぶ。後ろから足音が聞こえ、扉を開ける音と共に、フェンリルの姿が見える。

「おはよう。よく寝れた?」

優希は麦茶を入れながら訊ねた。

「ああ、問題ない。」

欠伸混じりにフェンリルは答えた。

「本当に?」

「......本当だ。心配は要らない。」

そう、と優希は相槌を打ち、お茶を飲む。フェンリルは机に置いてあるラップに包まったおにぎりを食べだす。優希は制服に着替え、リュックの中に、2人分の弁当箱を入れた。教科書はいつも学校に置いているから、スペースには特に困っていなかった。


昨日と同じ道を、優希は歩いていた。フェンリルは透過魔術を使い、優希の横を歩いている。

『のうのうと歩いて学校だなんて、何か策でもあるのか?』

テレパシーのように優希の脳に直接語りかける。この通信方法は従者1人に1回線分あるらしい。

『策は……無いね。けど、このまま放おって置くってのも性に合わない。』

優希は答えた。

『私はユーキの従者だ。だから、決定に歯向かうつもりはない。だが、犬死するだけなら、その限りではない。』

フェンリルは呆れた口調から、固い口調へと変化させながら言った。

『おれだって無駄死になんかしたくない。だから、ヤバそうだったらすぐ逃げる。今日はリリスの囲いがどういう類なのか。それが分かればいい。』

『……結局、行くことには代わりはないんだな』

『ああ。学校を長々戦場にはしたくはないしね。』

優希は、琴音が住んでいる場所の方向を一瞥し、言った。

『そうだ、フェンリル。潜入とかは得意か?』

『上はいっぱい居るが、あの囲いに物理的探知が無ければ、この状態で掻い潜れる。』

『そうか。なら先に調べに行ってくれ。ヤバそうだったらすぐに逃げろ。』

優希の言葉にフェンリルは得意げな声で。

『ああ。任せろ。』

と言い、優希の元を離れた。



通学路の山を越え、野球部のフェンスの上澄みが見えだす。その向こうには市街地の景色が、活気というオーラと共に映し出される。今日も琴音は学校に行けないようだった。優希が学校の校門が見える距離に立った時、彼は校門前に数台のパトカーが駐車してあったのが目に映る。こんな朝早くから何事だろうと思い、優希は校門前まで走る。すると、校門から正面に見えるグラウンドには、救急車一台と、ブルーシートが直方体のような形をしていたものがあった。その周りには朝練でジャージ姿の野次馬が数人居た。

なぜブルーシートで囲う必要が有ったのか。優希は行き着いた思考に、ぎょっとした。あのブルーシートの囲いの中には死体がある。そのブルーシートの囲いは、校舎の屋上からの丁度落下点だった。


優希は焦燥感に駆られ、一直線へと屋上へ向かっていく。隠密行動とは対象に、大きな足音を階段に響かせながら、駆け登っていく。屋上入り口の重たい扉を開き、白い日光が視界いっぱいに降り注ぐ。

そして、目に映ったのは竹垣の姿だった。

「やぁ、優希。珍しいね。こんなに朝早く。」

竹垣の声はどうも誰かを見下しているように聞こえる。

「竹垣、お前か」

と、息切れをしながら唸るように優希は呟く。

「? 何がだ?」

「下の奴。お前が落としたのか。」

「さぁね。そういや、従者はどうしたんだ。まさか丸腰なんてなかろう。」

竹垣は話を逸らすかのように、答えを濁した。

「ま、そいつを仮に落とした所で、証拠は無い。それは君を落としても一緒のことだ。俺が突き落とした証拠は無い。殺れ、リリス。」

彼のその言葉に呼応しリリスが右に映り出る。

優希は腕を強く握りしめ、竹垣とリリスを睨んだ。


次回、リリスvsフェンリル。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ