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粗悪品  作者: パールハーバーさん
1/1

粗悪品とわかるまで


「うん、ADHDの特徴とあてはまってますね。」



・・・・・?


ぼろぼろな精神状態だった私に丸まったような白衣の老人は坦々と告げた。このどことなく惚けたというか失礼だがボケたような老人はとある病院の精神科医。面談室の机に座った私とこの精神科医とあと、わざわざ遠い地元から駆けつけてきた母の3人は文字通り私の診断の結果についてここにいる。

私はどこかで聞いたような単語が読み上げられるも既にグロッキー状態のぼろきれ精神では衝撃とか特になかったけれども・・・・



何処かで歯車が噛み合ったような気がしたのを覚えている。








 × × ×






社会人として2年めに入ろうとしたころ・・・・そう、ちょうど某企業で新入社員が自殺し社会的に話題になった頃。私の勤めていた会社は実際のところ、繁忙期になれば深夜まで勤務し休日でも平日の負担を減らすために返上しつづけるそんな会社だった。しかし、例の話題があったために会社の上層部は新入社員である私はそれらをさせず、定時で帰してくれた。ありがたい話だ。おまけに給料もそこらの下手な田舎企業なんて目じゃないくらいで専門卒の姉や非正規同然の母には給料を見せるやなんでこんなにもらってるんだって驚かれた。正直、あんまり向いてない仕事とは感じつつも調子に乗っていた時期。先輩社員に怒られることや人間関係でストレスを感じることはあったけど良い職場だったなと今でも思う。そんなある日のこと・・・・







「・・・・前から話はしてあったのを覚えていると思うが転勤だ。」


小さい会議室に上司に呼び出された私は転勤の辞令を出された。いや、正直なところあまりにもミスや問題を起こしていたためにクビをきられるんじゃないかのビクビクしていた私は内心、安堵した。べつに、忘れてこそいたが新入社員は2年目は地元で経験を積んでから他所の店舗でより消費者に近い場所で働いて経験を積むということが採用の時と新人研修の時に話をされていた。あ、ああそうだったけ?という心情のもと私は隣県のとある小さな店舗に転勤することが決まったとのだ知る。もちろん、土地感も無いし知り合いなんていない場所だったが拒否するつもりなど全く起きなかった。なんて言ったてはじめての一人暮らしである。姉と妹はすでに専門学校時代に経験して両親は経験なんぞしたことのない一人暮らし、そりゃあ気分も高揚する。部屋を借りて、自分の趣味に文句を言われずに気ままに生活するなんて夢のようだ。すぐに、了承の返事をしてそれから1ヶ月の間は両親とともに引越しの準備に奔走することになる。不安が無かったかといえばもちろんあったが、私はその気持ちをはるかに上回る事態が待ち受けているとは全く知る由も無い。








「・・・・職場を確認しおこうよ。」


確か、母が言ったはず。転居する物件の候補まわりの最後に私は同意した。父から借りたSUVのハンドルを握る母はカーナビを頼りに私は新しい職場へと向かう。上司の話から数週間、準備は着々とすすんでおり事は全て順調に思えた。が・・・・


「ここみたいだけど・・・・」


大通りに面する店舗。うん、確かに店舗なんだけど想像していたものとはだいぶ違った。まず、店舗の入り口は大通りではなく住宅街に分岐する小道にあった。別にこの時はふらりと一般客が立ち寄りにくいぐらいにしか思わなかった。適当な駐車スペースらしき場所に車を止めて降りると店舗の中を覗きこむ・・・・古い錆びれた倉庫に旧い時代を思わせる内装に店舗というにはあんまりにも最低限で業務に使用する機械も地元の職場や研修では見たことがないほどの古いバージョンのもの。なにより、驚いたのは人が全くいないことだった。たしかに、その日は休日で一般的な労働者だったら休んでも不思議ではない。しかし、店舗はたしか順番で休日で出勤することが普通にはず・・・繁忙期のピークを過ぎたといえ誰もいないのは些か妙に思えた。

薄暗い店内と静けさが私の不安を煽りだす。振り返れば、もともと興味がないことには流行だろうがなんだろうが見向きもしない性格は学業の低迷にも繋がっていたし案の定、社会人生活にも影響を及ぼしていた。商品の知識はまるで頭に入らないし同期や先輩といった職場の人間とのコミュニケーションはろくにとれなかった。そうなればそうなるか?答えは簡単、仕事はうまくいかないし同期たちからは孤立していくのである。そんな状態を新人世話役の人事や先輩に上司が把握しないわけがない。適材適所なんて言葉がある。有能な人材はより利益を産み出すところに置いておくのが会社として正しい判断だろう。しかし、裏返してみると碌に利益にならないどころかマイナスになりかねない人間はどうなるだろうか?





まっさかぁ・・・・・・ねえ?そう、気鬱だと思いたかった。





× × ×




「・・・・・ううん、俺としては新人じゃなくてそれなりに作業ができる人が欲しかったんだけど。」


まあ、会社の意思なら仕方ないよねと新しい先輩社員の彼は語る。中年で痩せ体型でもうかなり育ったお子さんもいるらしい。そんな話をいつも奥の談話室のような小部屋でしていた。昼食は決まって私は出勤時に買う菓子パンにカップ麺とプリンかヨーグルトだった。それを、ソファーで先輩と相対しながら食べる・・・それが日課な転勤生活。以前は先輩社員の方たちに取引先に行くついでに行き着けのラーメン屋に連れて行ってもらうなんてことがあったが現在の職場ではそんなことはない。店舗という都合上、いつ来るやも知れぬ客をじっと待つのが常だった。別に、会社としても臨機応変の対応力と現場での連携・接客を身につけるという目的で配置したのだから間違いはない・・・・・



・・・・・・・・客が来ないこと意外は



語弊がある。昔ながらの常連しか来ないのだ。店長の顔なじみが来て仕事を依頼して業務をこなす、もしくは商品を提供する、それが一連の流れ。しかし、常連といってもひっきりなしに来店するわけではないし、大通りに出入り口がない立地と一昔前の建物独特の近づきがたい雰囲気とあいまって新規の一般客などまずこない。故に客が一日中来ない日などザラにある。加え、先も言ったようにあらゆるものが旧い新しい職場はただでさえ効率と物覚えの悪い私の仕事をさらに悪化させていく。店長としてもお得意さま失う事態は避けたいので私に任せる仕事は自然と減らしていく。と、なればやることは商品知識に関する座学か掃除といった雑用にシフトしていくのは当たり前だった・・・・

座学は朝来たときに業務はいいからこれを覚えろとカタログを店長に渡された。いきなり全部というわけではないがかなりの数。無理とは言えない、本来の業務も任されないのではごくつぶしだ。というわけで、一日中カタログとにらめっこするわけだがまあ頭に入らない。とりあえず、絞って覚えようとするも気がつけば眠気と格闘する始末。なんとも我ながら情けない。最終的に、退勤前に店長にテストをされ覚えていないため怒られることとなる。やがて、いつしかこれも日常になっていった。


流石にいくら能天気でお気楽と言われてきた私もまずいと感じるようになる。どうにかしなくてはと帰り道に100円ショップに駆け込み学生なんかが買う単語カードをいつ以来かぶりに購入。実は、地元勤務の新入社員時代はやろうとも思わなかったことだ。それだけ私の勉強嫌いは徹底していた、褒められたもんじゃない。晩御飯は近所のラーメン屋で手早く済ませて単語帳をカタログを参考に記入していく・・・それから、受験勉強さながらの勢いでといえば大げさだが暗記へと走る。






× × ×





数日後、会社に持ち込んだ単語帳が店長に見つかる。



別に隠すつもりはなかったし、努力はしていると察してくれると思っていた。だが、状況は好転の兆しどころか予想しない方向にいく。




「よし、これからテストするぞ?」


退勤時間が迫る暗い時間、店長が手にしていたのは私の単語帳。そう、テストが私の作成した単語帳で行われるようになったのだ。たぶん、普通の人ならすらすらと答えられるかもしれないが、「・・・・・XXXXのZZZは?」と質問された途端、


私の頭は真っ白になった。


いや、パニックになっていたのかもしれない。すでに、退勤前のテストに怒られることと嫌味を言われることが常態化していた私は通勤そのものに高いストレスを感じるようになっていた。そして、ストレスがピークになるのがこの時間。今でもこの時は思い出したくもない。

ええっと、ええっと、と繰り返し答えられるはずのものが出てこない。店長はため息をつき、俺だってこんなこと言いたくないと嫌味を向ける。なんとか答えられてもさらに踏み込んだ知識や単語帳には無いことを問われて言葉に詰まる。そして、嫌味。


別に店長が人柄が悪いとかそんなわけではないと思う。ただ、人には許容の限界があるわけで愛想が尽くとかそいうことがある。店長も私に対して許容の限界が近かったんだろう・・・最初は恵比寿さまのような顔も鬼に見える。



「別に頭に障害があるとかじゃないだろ?」




よく言われた言葉だ。このとき、まだ私にとってそれはまだ事実だった。もちろんですと応えて、じゃあなんでできないの?と問われて言葉に詰まる。最後は店長の溜め息で締めくくられる・・・そんな毎日がどんどん私を壊していった。









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