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それはお菓子に込めた日曜日

作者: あまやすずのり

この作品は前回「五月ちゃんの恋物語」の登場人物が一部出てきますが

こちらのみでも楽しめる内容になっております。


 日曜日、沈みかけた太陽と共に終わりを告げる週末

 明日からまた新たな一週間が始まると嫌がおうにも思い知らされる。

 そんな夕暮れ時に私、柊 紗英は

 実家のお店『スィート・ヒイラギ』の店番をしていた。

 いつもの事ながらこの時間帯は来客もほとんどなく、

 店番といっても残り僅かな商品と共にただ閉店時間が来るのを

 ひたすら待つだけ。

 平日なら社会人や学生の帰宅前の拠り所となるが、

 さすがに日曜日となるとそういった人達も少なく暇となる。

 そんな仕事ではあるけど、

 私にとってはちょっと特別な時間でもあった。

「今日も走って来そうね……」

 店に飾られているアンティーク調の時計で時間を確認。

 まもなく17時50分、閉店10分前。

 残り時間が1桁になるその時に現れる出来事に少々胸が高鳴る。

 私自身最近感じ始めたその感情、それは何かはよく分からない。

 だけど心地よく感じる確かな一時ではあった、特に最近は……

 その先の事をボーと考えながらいつもの準備を始めたその時だった。

 カラーン、開くドアと連動して鳴り響く鐘と息を切らす音。

 あぁ、今日もやっぱり走って来たのね、そう思いながら

「いらっしゃいませ」

 閉店ギリギリの店に1人の男性客を向かい入れた。


「シュークリーム4つで480円です」

 いつもと同じ数のシュークリームを丁寧に箱に詰めながら

 私は少しソワソワしていた。

 目の前の男性はいつも通りニコニコしながら、

 箱に入れられるシュークリームを確かめ小銭を取り出す。

「今日もありがとね、紗英さん」

 そういって男性、遠藤 進さんは手慣れた手つきで

 皿に金額が見えやすくなるよう小銭を落とす。

「いえ、確実に買いにきてくれるお得意様ですから」

 私の素っ気ない返答に気を損ねることなく、

 笑顔を絶やさず梱包作業を見つめている。

 進さんは、ここ1年くらいのお得意様であった。

 店のシュークリームがいたく気に入ったようで

 毎週日曜日に必ず来店しシュークリームを4つ買っていく。

 それが日常になり始めたとある日、

 その日はシュークリームの売り上げがよく

 進さんが来店時にはすでに完売してた事があった。

「うわぁ……マジか……」

 その時の進さんはショックで顔面蒼白だった。

 この世の終わりを感じさせる顔、とよく言うが

 私はその時の進さんがまさにそれだったと今でも確信出来る。

 そして当時の私はそれに心を痛めた。

 だから突発的に提案してしまった。

「あの、毎週日曜必ず来店してくださるならシュークリーム取り置きします」

 それが進さんとの初めての会話だった。

 男性との会話は正直苦手だった私。

 でもこの時は自然と言葉が出たのを覚えている。

 私の大好きな店のお菓子が品切れで悲しむ人がいるのは正直私も悲しくなる。

 だからその時はただ同じ事がないようにと思い提案した。

 そして、進さんも最初戸惑いを見せたが二つ返事で了承した。

 取り置きする数を決め、口約束ではあったが交渉は成立。

 両親にも了解をもらって当店初の週一取り置き客となった。

 その時のマミィはなぜかニヤニヤしてたのだが。

 それから私が店番中に進さんが来店すると色々と話すようになった。

 高校生で私より一つ上、陸上部に所属し長距離を走っていること、

 今は家庭の事情で実家に1人暮らし、部活もあってどうしても

 閉店間際に来店することが多いこと。

 時に些細な事やくだらない会話もあったが進さんと話しをしていると

 素直に楽しかった。

 それは友人である桜や五月と会話してるようで

 でもそれとはちょっと違うような気がした。

 進さんと話しをすると時折心にもやが掛かる。

 どうしてか、なぜだか分からず出て来る、

 それが違う点だった。

 しかし、それすらも心地よく感じるため今日も進さんと話しをする。

 そして、会話の流れを見逃さないようにタイミングを計り、

 それを実行する。

「……今日はお得意様の進さんだけにおまけつけておきます」

 そっと、私はシュークリームの間に小さく梱包した包みを入れた。

 それは私が焼いたクッキー。

 将来私はダディと同じパティシエになりたいと思っている。

 ダディが作るお菓子はとても甘美で憧れで、

 こんな小さな住宅街でも大人気で。

 そんなお店を私も続けたいし、助けたいと思い

 密かに修行をしている。

 その一環でよく作るお菓子を友人に食べてもらい

 感想をもらうのだが

 今回はなぜか進さんに食べてもらいたい気持ちに駈られた。

 陸上というスポーツはあまり分からないけど食事管理もあるだろうから

 とりあえず塩分と糖質控えめなクッキーにして。

 作り終えた後、なぜだかすごく恥ずかしい事してる気になったのは

 ここだけの話。

 そんな唐突な私の言葉にも笑顔を絶やさず受け入れてくれる。

「ほんとに?ありがとう紗英さん」

「……いえ……」

 なぜか進さんの顔を正視出来ずうつむいてしまう。

 顔もやたらと熱い、気がする。

 そんな私の異変に疑問をもたれる前に言葉を紡ぐ

「あの、おまけはクッキーなんですが、私が焼いたものなので……」

 気恥ずかしさが前に出て語尾がかき消える。

 それでも、察してくれたのか進さんはひとつうなずくと

「なるほど、味をみてほしいって感じなんだね、分かった」

 1人うんうんとその場でさらに納得したように

「来週感想伝えるから覚悟しててね」

 ニヤリと悪戯を思いついた子供のような微笑み。

 私はそれにクスリと答え

「はい、お待ちしてます、来週もちゃんと取り置きして」

 いつの間に消えた恥ずかしさと入れ替わるように

 心地よい気持ちで今日も進さんを見送る。

 こうして私の週末は今日も無事終わりを告げるのであった。

紗英弟「ねーちゃんがクッション抱えながらニヤニヤしてるー」

紗英妹「ほんとだー悶えてるけど可愛いね」

あまや「あーこんな姉ちゃんほしいわー」


最後までお読み頂きありがとうございました。

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