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第七話「発動! これぞ星光変換だ!」 

プリンセスオーガナイト「WEB小説を読むときは――」

蠱毒成長中「いい加減飽きたわその前書き。つーかお前誰だよ!?」

 エンジェルピーチがフレイムハウンドスターの次に変身した亜種形態は、名を『サンダーモンキースター』と言う。前回のラストで述べた通り鮮やかな黄色と淡い緑色のカラーリング(胸元にある宝玉の色は黄色)が印象的なこの形態はその名の通り各所にサルを思わせるパーツが目立ち、黄色で全体的に刺々しく変化した髪型の通りに雷の力を宿している。

 長剣『エンジェルセイバー』から斧槍『ハウンドハルバード』へと変化した専用武器は次なる変化の過程で二つに分離し、両手に備わる鉤爪状の刃三本を備えた籠手ガントレットへと姿を変えた。正式名称を『モンキークロー』と言うこの武器はその形状から取り回しが良く抜群の切れ味を誇り、更には敏捷性・機動力を向上させるというサンダーモンキースターの仕様も相俟って、決定力には欠けるものの高い汎用性と柔軟性を誇ることからエンジェルピーチもそれなりに気に入っていた。

 然しながら――


「っだ、は……な、何、なの、よ……何で……こんな……その図体とパワーで、そこまで動ける、なん……てっ……」


 幾ら敏捷性や機動性を底上げし複雑な軌道での高速移動と精密動作を実現したとしても、化け物男の不可視防御壁や得体の知れない衝撃エネルギーの攻略には(少なくとも彼女の運用センスでは)正直な所無用の長物であったし、何より彼もどういうわけかサンダーモンキースターとなったエンジェルピーチと同等かそれ以上にスピーディかつテクニカルな動きをモノにしているらしく、結果として彼女はまたしても化け物男のサンドバッグにされてしまうのであった。


「……お前、バカか? それとも記憶力がねえのか? いや或いは、これまで色々ありすぎたもんで記憶がこんがらがって少し前の出来事も失念しちまったか? ついさっきの、私とあのルージとかいうカイワレ野郎がやり合うのを見てたんだろうが……その事をしっかり覚えてたんなら、私が並大抵の速度特化型とも対等に渡り合える……つまり『速度特化型の形態なんてなるだけ無駄』って事に気付いても良さそうなもんだが」

「五っ、月っ、蠅いわねぇ……だったらあんた如きじゃ対応できない領域での戦い方を見せたげるわよっ!」

 ボロボロになりながら尚も立ち上がったエンジェルピーチは、声高に宣言する。

「宣言、星光変換『バード』!」

 胸元の宝玉が黄色から青になり、少女の全身はライトブルーの結晶――というよりは絵に描いたような氷塊――に包まれる。氷塊はすぐさま砕け散り、中から青いポニーテールに変わった長髪と、青及び空色のカラーリングから成るスーツが露わになる。二つの手甲鈎は結晶のような意匠のある機械的な水色の弓と、青い鳥の描かれた矢筒――中には勿論無数の矢が備わっている――に姿を変えた。

「次は飛び道具か? 悪いが飛び道具なら私も持ってるぞ。決して対応できねえ領域なんかじゃ――

「バカね! 誰がこの『ブリザードバードスター』を単なる氷属性で遠距離攻撃特化形態だって言ったのよ!」

「(あ、氷属性か。まあこれまでの流れと変身過程からしてそんな気はしてたが……これで全部鳥類だったらある意味私の対応できねえ領域だっただろうな)」

「その顔……まだ私の言いたいことを理解できてないって感じの表情ね」

「(私の顔、基本的に表情ってもんがねぇんだけどなー。まあ多分適当に言ってんだろうなー)」

「なら教えてあげるわ……展開、『バード・ウイング』!」

 宣言に応じるように、エンジェルピーチの背中へ大ぶりな青い鳥の翼が生える。

「(鳥の翼バード・ウイングって……まんまじゃねぇか。もうちょっと捻れよ)」

 読者の気持ちを代弁したかのような化け物男の独白を他所に、エンジェルピーチは背の翼を力強く羽撃はばたかせ空高く飛び上がる。

「どうかしら!? これこそブリザードバードスターの真骨頂、バード・ウイングを用いた高速飛行よ! 幾ら見えない壁を使った力押しでこれまで私を退けてきたあんたでも、この高度からの射撃には一溜りもないわよねぇ!? 何せ虫の癖に翅の一つも持ってないあんたにとって、空ってのは対応できない領域だものねぇ!」

 上空から高圧的に煽り立てながら、エンジェルピーチは専用武器である水色の弓『バードコンパウンドボウ』に専用の矢である『アイスフェザーアロー』を番える。

「さあ、自分の無力さを思い知りながら呆気なく惨めで哀れな最期を迎えるがいいわ! 死になさい、『エターナル・フォース・アブソリュートアロー』!」

 放たれた一本の矢は青白い光の筋となり、無数に分裂したそれらは地上へ降り注ぎ炸裂。ばら撒かれたオーバーセンス由来の凍結エネルギーは半径凡そ十メートル圏内の地表上にある物体を巨大な青白い氷塊で包み込み、数秒して内部の物体諸共粉々に砕け散る。やがて氷は蒸発し、その場は僅かな起伏もなく不自然な程平坦になっていた。

「ふっ、勝った……」

 エンジェルピーチは勝利を確信する。『エターナル・フォース・アブソリュートアロー』は、バードコンパウンドボウから打ち出されたアイスフェザーアローを変化させた凍結エネルギーの塊で対象物を氷漬けにし、そのまま粉砕する事で動きを封じつつ死体も残らないレベルまで殲滅する技である。その威力は絶大で、対象を空間ごと氷漬けにするという特性上如何なる防御も無力であり、攻撃範囲を自由自在に拡大可能な為回避もままならない。そのような技を食らった以上、化け物男が生きている可能性などゼロを通り越しマイナスであろう――彼女はそう確信していた。

「……どれだけ強くなろうと所詮は虫。虫は冬になると冬眠せざるを得ない。どころか夏の間しか生きられないのもいる。つまり全ての虫は寒さに弱い。これ常識。冷凍ガスの殺虫剤だってあるくらいだし……そう考えると最初っからこれで行ってた方が良かったのかもしれないわねぇ。ま、過ぎたことについてあれこれ言っても仕方ないし、結局勝てたんだから結果オーライってヤツだけどごぶっ!?」

 刹那、後頭部への衝撃がエンジェルピーチを襲う。瞬時にそれが何者かからの攻撃であることを悟った彼女は慌てて真後ろへ向き直り、そして絶句した。


「誰が、誰に、勝ったって?」


 眼前数メートルの位置に浮かび佇む、一匹の異形。

 肉食獣とも蝿ともつかない化け物を人型に整えたような醜いそれは、つい先程彼女が完全に殺した筈の化け物男そのものであった。ただ、その背中には虫の翅と蝙蝠の腕を混ぜ合わせたような翼が生えており、彼はどうやらそれで宙に舞い上がったらしかった。


「あ、あん、った……何で、空を……っていうか、あんた……死んだ筈じゃ……ま、まさか、幽霊っ!?」

「はあ? 何を寝惚けた事抜かしてんだてめえ。ヤクでもキめてんのか? さっき殴ってやったんだから認めろよ、お前は私を殺せちゃいねぇって事実をよぉ」

「で、でも、さっきの『エターナル・フォース・アブソリュート・アロー』は相手を周囲の空間ごと凍らせて砕くからどんな防御も無意味な最強技なのよ?」

「ああ、そうらしいな」

「だ、だったら……だったら何であんたは無事なのよ? あんたのオーバーセンスってその姿になる変身系と見えない壁を貼って何でも跳ね返す防御系でしょ? 翅が生えて空飛んでるのはまあ虫だからまだわかるとしても、所詮虫だし寒さには弱い筈じゃない。一体どうやってエターナル・フォース・アブソリュート・アローをやり過ごしたの?」

「……色々と致命的な勘違いだらけなもんで一々訂正すんのもめんどくせぇしいっそ今すぐ殺した方が楽は楽なんだろうが……まあ仕方ねえ、忍耐強い読者連中もそろそろ痺れ切らす頃だろうから序でに教えてやる。まずお前のそのアホ丸出しな名前の技だが、別段大した事はしちゃいねぇよ。着弾前に範囲外まで逃げただけのことだ」

「逃げた、ですって?」

「そうだ。便利な言葉があるよな。『当たらなけりゃどうってことはねぇ』って。私はあのシリーズ知らねえし興味関心も更々ねえ、所謂世間一般からすりゃ非国民だ人擬きだ何だと糾弾されるクチなんだが……その理屈に関しては中々的確だなと考えていてよ。見た瞬間避けようがねえと読んでオーバーセンス使って全力で逃げた、と。ただそれだけの事だ」

「そ、そんな……確かにルージには逃げられた事あったけど……あんたまで……って、ちょっと待って? それって何かおかしくない?」

「あぁ? 何がだ?」

「だって、あんたのオーバーセンスって変身するやつと防御するやつじゃない。変身すれば確かに身体能力は上がるのかもしれないけど、その姿ってそんな足早そうに見えな――

「何を勘違いしてやがる。私のオーバーセンスは『変身と防御』なんかじゃねえよ」

「へ?」

「いや、より正確に言うなら『変身』の方はまあ合ってんだがよ、『防御』ってのが違えのよ」

「そ、それじゃ……一体……」

「お前が『防御』だと思ってた私のオーバーセンス。その正体は『斥力操作』さ」

「セキリョク……?」

「二つの物体の間に発生する相互作用、引力の対……つまり物体同士が反発し合い、互いに離れようとするエネルギーの事だ。相手の攻撃に作用させりゃ防御壁になり、自分の攻撃に付与すりゃ破壊力が増し、瓦礫を銃弾のように飛ばしたり、自分自身に作用させりゃ素早く動いたり空を飛ぶこともできる。軌道が直線的なんで細かい調整には手足や翅を使わなきゃならねえが、さっきみてえな広範囲攻撃から兎に角逃げるって時にもなりゃこれほど頼りになる移動手段は他にねえ……さあどうするねエンジェルピーチ。確かにお前の放つ氷の矢が強力なのは認めよう。私もまともに食らえば一溜りも無かっただろうからな。だがお前の武器は弓。慣れで解消できるとはいえ少なくとも連射向きの得物じゃねえよなぁ。それ以前に飛び道具である以上、間合いさえ詰めちまえばこっちから殴り放題……こういう事を言うのも何だが、あの一撃が不発に終わった以上別のヤツで戦った方がいいんじゃねぇかなぁ?」

「(ぬっ、ぐ、くぅうううううううううう! 味方にならまだしも敵に言われるとか滅茶苦茶腹立つーっ! でも正論は正論だし、ここは大人しく言う事聞いておいてあげるわ……そうよ……精々調子に乗ってるがいいわ……絶対に後悔させてやるんだから!)」


 心中そんなことを思いつつ、エンジェルピーチは腹の底から叫ぶ。


「聖光転神!」

次回、第八話「絢爛! 煌めきの聖光転神!」 お楽しみに!

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