第三話「激突! 剛力の闇騎士レドー!」
タコダーゴン「タコダーゴンだギョマ! WEB小説を読むときは、部屋を明るくして画面から離れて読むギョマ!」
「……トリックなんてねえよ(然し追加で出てきた方はレーヴァテイン……今度は北欧神話かよ)。……で、次はどっちだ?」
吐き捨てられた言葉に応じる形で、ダーク・ジャンヌは苛立ちを隠しもせず言い放つ。
「あいつ……よくもうちのルージを……レドー! 行きな! ワルジャークトップクラスと言われるあんたの破壊力で、あの化け物野郎を粉々にしてやるんだよ!」
「勿論で御座いますダーク・ジャンヌ様! 我が同士らの仇は必ずやこのレドーめがとって御覧に入れまする!」
歩み出た巨体の闇騎士は、歳経た雄象のようなフルフェイスヘルムを震わせ未だ背を向けたままの化け物男に向かって叫ぶ。
「名乗らせて貰おうか、怪物よ。ワシの名はレドー・ヒル!」
「(クレイン……ヒル……鶴岡ってか? 然し奴は重装備の割に武器無しだ。普通ああいうタイプが騎士なんて名乗ってりゃ、ウォーハンマやモーニングスター、メイスやランスなんかを持ってそうなもんだが……剛力って二つ名の通りマジで殴りに来るつもりか? そうだとしてもガントレットだのナックルダスターなんぞは持ちそうなもんだが……いや、或いは……)」
「先程は運良くルージを倒すことができたようだが、あのような都合の良すぎる偶然がそう何度も続くとは思わんことじゃ……ぬうんっ!」
レドーの武道家を彷彿とさせる構えを合図に、鎧の両肩部分が機械音を立てながら変形し始める。
「(野郎、やっぱ鎧に武器を仕込んでやがったか……しかもありゃあ、飛び道具ってヤツじゃねえか)」
レドーの両肩に現れたのは、小ぶりな丸太椅子程もありそうな太短い大砲であった。
「暗黒剣術剛力奥義、終焉破砕砲!」
力強い掛け声に応じるように両肩の大砲は火を噴き、その口径に見合った特大サイズの砲弾が発射される。それも一発や二発ではなく、十数発から二十発余りが連射され、それらは一斉に化け物男の付近で示し合わせたかのように爆裂。かなりの範囲を吹き飛ばしたようだった。
「ぬわっはっはっはっはっは! 他愛もない……他愛もないのう!『何が来ようと反射すればいい。反射できずとも防御はできる筈』などと馬鹿げた思い込みに陥り砲弾を避けようともせず、挙句呆気なく木っ端微塵に吹き飛んでしまうとはのう! ぬぉわっははははははー!」
爆風によって生じた土煙も晴れない内から勝利を確信したような物言いのレドー。そんな彼を見た熟練の読者諸君は恐らく『敵を殺しきれた確証もない内から慢心しきって勝利を確信しているお前の方が馬鹿げてる』などと思っていることだろう。だが彼のこのような物言いは決してただの慢心などではない。何故なら――
「(フフフ……流石はレドー、まさに余裕の火力だねぇ。兎も角これであの化け物野郎は死んだってわけだ。こっから見てたあたしだって分かるよ。何せあいつはああいう奴の殺し方を心得てる――というより、ああいう奴を相手にした時こそ本領を発揮するタイプだからねぇ)」
一体どういう事なのか。地の文で語るべきことなのだろうがここは敢えてダーク・ジャンヌに語らせることにする。
「(神速の闇騎士ルージ、剛力の闇騎士レドー……その名前を聞いた奴は大抵『こいつらの通り名は持っているオーバーセンスに因む』と思いがちで、実際それは半分正解さ……そう、ルージについてはね。あいつの持ってるオーバーセンスは通り名通りの『神速』……全てを振り切る超スピードの動きを実現するってヤツだよ。けどレドーの怪力はあくまで鍛錬の結果であって、オーバーセンスとは全く別なんだ。奴のオーバーセンス……それは『同類殺し』! つまり相手のオーバーセンス発動を無力化して自分の攻撃を確実に通す能力! まあ防御に使えなかったり持続力は無かったりと万能じゃないけど、その程度の弱点をカバーするような戦いができないようなレドーじゃない。偶然で勝てるような相手じゃないのさ……抜かったね、化け物野郎。相手が悪かったってヤツ――
「なっ、何ぃぃぃぃぃぃ!?」
「あん?」
余裕綽々なダーク・ジャンヌの独白は、レドーの素っ頓狂で間抜けな叫びに遮られる。そして――
「ほわあああぁぁぁぁぁ!?」
彼女自身もまた、ある一点に目を向けた所でレドー同様(或いは彼より遙かに素っ頓狂で間抜けな)叫び声を上げざるを得なくなる。何故なら……
「な、何で……何であの化け物野郎が無傷のまま突っ立ってんのよぉぉぉぉ!?」
そう、あらゆるオーバーセンスを無力化し如何なる物体をも吹き飛ばすレドーの砲撃を何発と受けた筈の化け物男は、どういうわけか無傷のまま――普通なら肉片を通り越して消し炭になっていておかしくないにもかかわらず傷一つなく、ただ爆風をもろに受けたためか幾らか吹き飛ばされた状態で――それでも平然と佇んでいたのである。これにはレドーもダーク・ジャンヌも、そしてただ茫然と戦いを見ていることしかできない為に今の今まで空気と化していたエンジェルピーチや、タコダゴーン死亡により墨の効果が切れその拘束から逃れながらも脱水症状で動けない民衆たちもただ只管唖然とするばかりであった。
一方この場で唯一落ち着き払っている化け物男はと言えば……
「どうした今川焼、俺が死んでねえのがそんなに信じられねえか」
「あ、当たり前じゃろうがっ! お前がルージに勝てたのは都合のいい偶然が重なったことともう一つ、何でも止めて押し返すそのオーバーセンスがあった故! ならばワシの持つ『同法殺し』のオーバーセンスを乗せた攻撃で貴様の防御を打ち消し圧倒的火力で焼き払えば余裕で倒せると、そう踏んでおったのじゃ! それだと言うのに貴様は一切の傷も追わずに平然と立っておる! そのような状況をどうして信じられようか! どうして認められようk――
「やかましい」
「がふらっ!?」
刹那、化け物男が投げた――というより、手元から飛ばした――特大サイズのアスファルト塊が、レドーの顔面を直撃する。鍛えた人間でも八割方即死しそうな一撃だったが、レドーは少しよろめいただけで体勢を立て直す。
「ぬっ、貴様っ……よくもやってくれたな……!」
「いやあその、不意打ちは別に闇の騎士道に反する行いじゃないって言われたし。つーか今更だけどさぁ、正々堂々とか言っときながら半ば不意打ちで何発も大砲ぶっ放してくるお前ってわりと騎士じゃなくね? その大砲出す技も暗黒剣術つってっけど剣じゃねーし」
化け物男があくまで軽く、嘲るように言ったその瞬間、鎧に包まれたレドーの顔面が怒りに染まる。
「……! きっ、さ、まぁぁぁぁ! よくも、よくも! よくもよくもよくもぉ! 言ってはならぬ事を言ってくれたなぁぁぁぁ!」
「あ、それ禁句だったの? つかそこはせめて何か言い返してくるのかと思ったが普通にキレただけだし。よし、ここは……地雷踏んじゃった♪ 地雷踏んじゃった♪ くだらねぇことで地雷踏んじゃっ――
「何を余裕こいて歌っとるかあああああああああああああああ!」
「いやあ、何か空気淀みまくりだし歌っときゃ何とかなりそうかなって」
「何とかなるかああああ! 許さんっ! 許さんぞ! 貴様はこのワシ、レドー・ヒルが素手で捻り潰してくれるっ! ふあっ!」
怒り狂うレドーが両腕を前方に掲げると、両肩の大砲は格納され背中からロケットブースターが顔を出し、同時に両手にはトゲ付きのナックルダスターが現れる。
「暗黒剣術剛力奥義、爆砕覇道拳!」
「惜しいな。それで拳の術と書いて拳術と読ませつつ、どこぞの屁理屈捏ね回して大物ぶってる厭味ったらしいハゲ眼鏡のクソジジイからパクったような大砲なんぞ使わなけりゃ完璧だったのに」
軽口をも無視しつつ、拳を振り上げたレドーはブースターから火を噴き化け物男に突進する。
「この爆砕覇道拳は我が最強奥義! ワシはこの技によって数多の敵を葬って来た! この技を使い負けたことは今まで一度もなぁい! よって貴様も死ぬのだ怪物! このワシの圧倒的な力に抗う術もなく、まさに蝿が巨岩に押し潰されその生涯を終えるが如くに!」
ロケットブースターの推進力を得たレドーのスピードは凄まじく、一向に動こうとしない化け物男へ急接近した彼は今度こそ勝利を確信する。この距離なら自分の拳の舎弟範囲内だ。ここまで来ても逃げる気配がないのならもう死ぬ以外に道はない――
「ぬぅわははははははははは! 死ねい、怪物――う?」
――筈、だったのだが……
「な、何だ、これは! 何故……何故、こんな、ことに……!」
それは当事者にとっても周囲にとっても実に信じ難い光景であった。
化け物男目掛けて猛スピードで突進していた筈のレドーが、何故か空中で静止している。
全力で繰り出されたレドーの拳が、何故か化け物男の細腕によって受け止められている。
「ええい、これはどういうことだ! 何故ワシの拳が止められておるのだ!? それ以前に何故ワシの身体が空中で押し留められているような……っく、有りえん……こんなこと決して有りえんというのに、何っ――
「やかましい」
「故ぇぇぇぇぇぇえええ――――!?」
瞬間、巨大な拳を両手で受け止めていた化け物男がその手を離しつつ上へと押し上げる。それと同時にレドーは拘束から解放され一先ず真上へと逃れる。
「くっ、何だったんじゃ今のは……まあ良いわ、ここは一先ず仕切り直しじゃ。このまま上に逃れつつ距離を取り、奴が油断しきった所を再度爆砕覇道拳で粉微塵にしてくれる……」
思案しつつ、レドーは方向転換を試みる。このロケットブースターは元々突進攻撃の為に作られた装備であるためそれほど長時間の飛行には適しておらず、このまま無駄に飛び続ければ燃料が尽きてしまうためだ。然し……
「さて、そろそろ頃合いかのう……待っておれよ怪物。何故か初撃こそ失敗したが、このような偶然二度もありはせん――ぞ……?」
ここでまた、彼に異変が起こった。方向転換ができないのである。鎧全体にさしたる故障が見られない以上(もし故障があればその瞬間に警告音が鳴る)、すぐにでも方向転換が成り立つ筈なのだが、一体これはどういうことか?
「なっ、どうなっとる? ハンドルは確かに動いておるというのに、何故方向転換ができんのじゃ? おい、待て、このままでは大気圏外に放り出されて即死――否、それ以前に燃料が尽きて地上に真っ逆さまじゃ! 早う旋回せねばならんのにから! くそっ、くそ、くそーぅ!」
レドーは必死で手元のハンドルを操作し何とか真上以外の方向へ進まんと必死の抵抗を試みるが、そんな彼を嘲笑うかのようにロケットブースターはただひたすら上を目指し進み続ける。
「だぁぁぁぁぁあああああい! 何じゃこりゃあああああああああい!? 曲がれっちゅうとんじゃコラァァァアァァァアアアア! えぇい、くそっ! いいから、早う、曲がらんかいっ!」
自棄を起こしたレドーは壊れんばかりの勢いでハンドルを切る。そして――
「ぬおおおおおおおおおお――お、おお?」
ぐわん、といった感じの、身体が縦に180度回転する感覚があった。目に映る風景が一面の青空から近付きつつある地面に変わる。レドーは自分が方向転換に成功したのだと確信する。
「よ、よし! やったぞ! 旋回に成功したっ! これで燃料切れの心配はなくなった! 待っておれよ怪物め、今度こそ我が爆砕覇道拳で貴様を粉々に砕いてくれるっ! ぬふ、はは、ぬわっは! ぬわーっはっはっはっはっはぁーっ!」
高笑いを上げながら地上へ向かって進んでいくレドー。その軌道は彼の武人としての生き様を現すかのように一直線であり――
「ぐわーっはっはっはっはっはっは――」
――余りにも一直線過ぎた。
「――はっはっはっはっはっhおぶぐ!?」
レドーはそのまま地面に腰まで突き刺さり、以後ピクリとも動かなかった。
次回、第四話「決戦! 闇姫騎士ダーク・ジャンヌ!」




