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第一話「大苦戦! 強敵タコダーゴンの触手地獄!」

やあ、よい子のみんな。元気かな?

私はこの小説の作者、蠱毒成長中だ。


……え? 読み方がわからない?

わかった。じゃあカタカナで言うぞ。

私が、この小説の作者のコドクセイチョウチュウ、だ。みんな、宜しくな。

さあ、『星光少女エンジェルピーチ』の始まりだ。星光変身っ!

 時は西暦2000年代。

 深刻化する環境問題、経済の破綻、世界情勢の混乱、相次ぐテロ行為、高度化し増加の一途を辿る犯罪……数多の厄災により、人類文明が微妙に疲弊しきり緩やかに絶滅へ向かいつつあったかもしれない時代。

 誰もが絶望しきっていたこの時代に光を齎したのは、世界各地に突如現れた"英雄"であった。"英雄"達はそれぞれ異なる特別な"力"を持っていた。人知を超えたその力はまるで彼らが空想世界から飛び出してきたかのようであり、彼らの尽力により世界は嘗ての輝きと活力を取り戻していく。

 それから幾年。"力"に目覚める人類は増加の一途を辿り、彼らもまた自らの力を活かして世界をよりよいものにすべく行動を開始する。

 だが力に目覚める人間が必ずしも正しい心の持ち主とは限らず、また元々正義の心を持っていても何らかの要因で歪み堕落してしまう者もいる。そうした"悪しき力の持ち主"達は当然、己の力を悪用する存在へと成り下がる。そしてこうした悪に対抗すべく"正しき力の持ち主"達は奮起し悪へと立ち向かう。

 人々はこれら二者の内、社会を害する悪を"スケイズ"、それに立ち向かう善を"アビター"、二者の持つ力を"オーバーセンス"、その持ち主を総じて"トランセンデンス"と呼ぶようになる。やがてスケイズは団結し組織を形成するようになり、これに伴いアビターも国連や各国政府等と団結するようになっていった。


 今や善も悪も組織で活動することが基本の時代になのである。


 桃葉桃知ももはピーチはそんな時代にありながら敢えて単独での活動を貫く若きアビターである。

 現在17歳、さる私立高校に通う彼女は、学生生活の傍ら周囲の人々を悪から守るべくオーバーセンスを用いて『星光少女エンジェルピーチ』に変身、戦いに身を投じるのである。

 小柄だがスタイル抜群トランジスタグラマーである彼女は生来の明るく正義感の強い性格もあって多くの人々から愛されており、一種のローカルアイドルとして認識されつつあった。


 エンジェルピーチと敵対するスケイズは数多く、それらのほぼ全ては『ワルジャーク』という組織に属している。

 この世の在り方に不満を募らせた悪党どもの結成したワルジャークの目的は世界征服であり、彼らはその下準備と称して『ジャークモンスター』なる超常の怪物たちを生み出しては市街へ放ち荒らし回るという悪行を定期的に繰り返していた(その度エンジェルピーチに撃退されるのがオチだったが、それでもワルジャークは懲りずにジャークモンスターを送り込み続けている)。




 そして今日もまた、町で暴れるジャークモンスターがエンジェルピーチと交戦するという、最早この街では御馴染みの光景が繰り広げられていた。


 そう、いた……のだが……




「うっ、ぐ、くぅぅ……」

 エンジェルピーチこと桃葉桃知。現在彼女は、絶体絶命のピンチに陥っていた。

 身体に目立った外傷こそ見られないものの、可愛らしさと実用性を兼ね備えた戦闘用スーツは所々が破損しており(特に胸元や腰回りが重点的にボロボロにされている)、太い触手に四肢を拘束されているのに加え体力の消耗が激しく満足に動くことも出来ない。


「おーっほっほっほっほっほ! 惨めなもんだねエンジェルピーチ!」

 曝されるように拘束されたエンジェルピーチを眺めつつ嘲笑うこの女の名は『闇姫騎士やみひめきしダーク・ジャンヌ』。抜群の美貌とスタイルを誇るワルジャークの女幹部である。

 軍帽にボンテージ、黒いマントにハイヒールの革製ブーツというふざけた身なりながら同組織では女性構成員随一の武闘派として名高い人物である。

 好戦的な性格から前線に立つことが多いためにエンジェルピーチとの交戦経験も多く、今では互いを一種のライバルと認識する程の間柄でもあった。


「流石のお前もタコダゴーンの超絶再生力と触手のパワーを前にしては為す術もなかったってこったねぇ!」

『そりゃ当然ですギョマ、ダーク・ジャンヌ様あ! 何せ我輩のパワーは触手一本でナイルワニの口を縛れるほど! 再生力はトカゲの尻尾の一億倍! 幾ら百戦錬磨連戦連勝のエンジェルピーチと言えど勝ち目などあろう筈もございませんギョマ!』

 ダーク・ジャンヌに続いて得意気に宣うのは、魚の頭に蛸の触手を持つ怪物『タコダゴーン』。

 対エンジェルピーチを想定しワルジャークの科学者が産み出したジャークモンスターである。

「ま、そりゃそうだねぇ! 最新最強のジャークモンスターたるあんたなら確かに、この程度朝飯前ってわけだ!」

『タコにも――あいやイカにも! タコながらイカにもその通り! 仰有る通りでございますギョマ、ダーク・ジャンヌ様あ!』

 芝居臭いやり取りの後、女幹部と怪物は荒れ果てた街道に笑い声を響かせる。一方拘束されたエンジェルピーチはと言うと、絶体絶命の状況下に在って尚活路を見出ださんと思索していた。

(……悔しいし不本意だけど、何から何まで奴らの言うとおりだわ。後先考えずにエンジェルセイバーのエネルギーを使い切っちゃうなんて……でもお陰で攻略法も見えてきたわ。こいつに普通の剣は再生されちゃうから意味がない。だったら再生させなきゃいいのよ。ハウンドで燃やすとか、バードで凍らすとか……ああ、でもエネルギーが足りないんだった……時間経過で溜められるけど、そうなるとこのジャークモンスターに何されれかわかんないし……いやでも、みんなを助ける為ならこのくらい……うん、耐え抜いてみせる!)

 これから始まるであろう生き地獄を何としてでも切り抜けようと心に誓ったエンジェルピーチであったが、然しここで彼女はまた新たな問題に直面する。

 それは――

「(はっ……! そういえば、みんなが……街のみんながジャークモンスターの吐いた墨みたいなので動けなくなってるんだった……あの墨はゴキブリホイホイとか接着剤みたいで、一度ついたら人間どころか車だってひとたまりもない……この炎天下で道路から動けないってだけでも危ないのに、ましてそうさせてるのがあんな真っ黒な墨だとしたら間違いなくみんな死んじゃう! ……こうなったら一か八か、聖光転神でゴッデスピーチになるしかない! ゴッデスエナジーの波動ならこいつの触手だって消滅させられるし倒すのなんてわけないもん! そうとなったら――

「ああ、そういえば言い忘れてたけどね」


 刹那、エンジェルピーチの思考はダーク・ジャンヌの一言に遮られる。


「エンジェルピーチ……あんたまさかこの状況で聖光転神してゴッデスピーチになろうって考えてんじゃないだろうねぇ? だったら悪い事は言わないよ、やめときな」

「っ……な、何で……かしら……?」

『それについては我輩が説明してやるギョマ! 我輩の墨はただ単に相手を拘束するだけでなく、中へ極小の爆破装置が仕組まれているギョマ! その破壊力は僅か九百グラムにしてダイナマイト一本分! 墨が十キロもあれば人間や乗用車はおろか田舎にある築数十年の古民家さえ木っ端微塵にできるギョマ! 更に爆破装置は我輩の意思に関係なく、付近でゴッデスエナジーが放出されれば一斉に作動するギョマ!』

「そ、そんな……!」

「つまりあんたがここでゴッデスピーチになればその時点であいつらは吹き飛ぶって寸法さ! 最もその装置もこいつ自身がくたばっちまえば意味をなさなくなるけど……聖光転神しないでこいつを倒すなんて今のあんたにゃ無理なのは明白……さあどうするね? ここであいつらを助ける為に今回こそ敗北を認め醜態を曝すか、はたまたあいつらを見捨ててでもあたし逹を倒すか! 選択肢は二つに一つだよっ!」

「っ……!」

「返事もなければ聖光転神する気もないってことは、敗北を認めるんだね? いい心構えだよ素晴らしいじゃないか! 民衆を守る為に自分を犠牲にするなんて、まさにアビターの鏡だよ! さあタコダゴーン、愚かで哀れなエンジェルピーチがあんたの触手によって蹂躙されていく様を衆愚どもに見せ付けておやりっ!」

『畏まりましたギョマ、ジャンヌ・ダーク様!』

 エンジェルピーチは敗北を悟った。だがまだ確信はしていなかった。

 例え何をされようと耐え抜いてみせる。

 確かに八方塞がり、まさに絶望的な状況だが、それでも必ず活路を見出して見せると、彼女は内心誓う。

 そしてそんな決意を嘲笑うかのように魚介の化け物の触手が汗ばむ少女の肢体へ迫り触れんとしたその瞬間、異変は起こる。



 擬音にして"ぼとり"というのか。

 或いは"どさり"か。

 兎も角そんな、湿ったとも乾いたとも言えるような、鈍い音がした。


 音のした方に目をやれば……どういうわけであろうか、タコダゴーンの触手が力なく――まるで生命力が途切れてしまったかのように――ぐったりと垂れ下がっている。


「なっ? ……ちょいとタコダゴーン! あんた一体何をやってんだい?」

 何が起こったのやら理解できない様子のダーク・ジャンヌは、魚頭蛸身ぎょとうしょうしんの部下を怒鳴り付ける。

 然し返事はなく、それどころか化け物は――まるで自身のみ時間が止まったかのように――ピクリとも動かない。

「……あんたっ、たかがジャークモンスターの分際で女幹部最強であるこのあたしの言葉を無視しようってのかい!?」

 痺れを切らしたダーク・ジャンヌは怒りのまま、動かぬ化け物を再び怒鳴りつける。だが――

「何か言われたら返事を――し、な……ああっ!?」

 刹那、タコダゴーンの巨体が"ぐどしゃり"といった感じの実に不愉快で気色悪い音を立てつつ崩れ落ちる。

 気付けばその眉間には穴が穿たれており、青い血がどくどくと流れ出ている。ぎょろりとした魚眼からは既に生気が消え失せており、それ即ちこの怪人が何者かにより射殺されたことと同義であった。

 ともすればその場に居た者達は皆面食らい、全くもって予想だにしなかった衝撃の出来事に目を白黒させている。ダーク・ジャンヌや墨に拘束されていた衆人は勿論の事、危機的状況から解放され逆転への好機を掴み取った筈のエンジェルピーチさえも、唖然としたまま動くことができずにいたほどである。

 そんな中……


「これが"最新最強"か? 聞いて呆れるぜゴミカスがぁ」

次回、第二話「決闘! 神速の闇騎士ルージ!」 お楽しみに!

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