文字武器(レターアーム)
伊賀将生・・・この物語の主人公。『ニフザグ』の国王。
壮太縑・・・伊賀の親友。クラス一の秀才。『ニフザグ』の副王。
スナイリー・・・『ニフザグ』の統帥。
シン・・・『ニフザグ』の宰相。
俺は『ニフザグ』の王城に向かっていた。
シンの後ろに俺を乗せた馬は、森の中の一本道を駆けている。
シンは俺と馬に相乗りすることが決まったとき、「ああ、王と相乗り出来る日が来ようとは……」と目から滝のように涙を流しながら喜んでいた。というか、初めて滝のように流れる涙を見た。恐るべき異世界。
「というか、なんで俺が王様に選ばれたわけ?」
と、この世界のに来てから一番の疑問を背中越しにシンにぶつける。
「それはですね、貴方の魂の型が初代 王の魂と一致したからです」
「ほんとに俺で合ってるの? 俺は成績も優秀じゃないし、スポーツもそんなやってないし、特徴と言えば焦げ茶の髪と目だけだし、自慢と言えばおじいちゃんが東大出身てだけだし。」
まぁ、正確にはおじいちゃんは俺が生まれる前に亡くなっているけど。
「横にいる壮太の方が相応しいんじゃないの?」
そう言うとシンは真面目な顔で答える
「逆に質問しますが、貴方は何故私の言葉が分かるのですか? 私は貴方の世界の言葉で話していませんよ。」
スナイリーと相乗りしている壮太が、横から口を挟む。
「ああ、実際日本語では無い。魂に蓄積された昔の記憶を呼び覚まして、無意識に和訳しているから俺達には日本語に聞こえるだけだ。話す方も日本語をしゃべっているつもりだろうが、無意識に翻訳されている。」
壮太の話から察するには、魂が翻訳してくれているからこの国の言葉を理解出来て話すことも出来るらしい。おそらく、壮太の魂も、前世はこの世界のものなんだろう。もしかして、壮太の魂は初代副王のものなのかもな。などと考えていると、スナイリーの声がが俺の思考を途絶えさせた。
「貴方が知らないはずの言語を私達が話しているのに、何の違和感もなく理解し、さらに話している。これでお分かりでしょう? さらに、文字武器が使えればいいのですが……」
れたーあーむ? 何だそれ、手紙でも書くのか? とか思っていると。いきなりシンとスナイリーが馬を止めた。
「チッ! 追ってかよ。」
スナイリーが吐き捨てるように言い放つ。
「陛下に文字武器を見てもらえるいい機会だと思いますよ。」
「閣下、字書は持って来ました?」
「いつでも発動できますよ。」
と、シンが言うと懐から一枚の紙を取り出す。どうやら『虹波』と書かれているようだ。
「そんなら、ちっとばかし見ててくださいよ陛下!!」
見た目とは反対に言葉遣いが少し荒々しいスナイリーが馬から飛び降り、着地してそのまま駆け出す。スナイリーは走りながら軍服のポケットからシンと同じような紙を取り出した。
取り出した紙を二つ折りにして人差し指と中指の間で挟み、話し始める。
「天界に住まう神々よ、我が和族の叡智と力の結晶を字力によりこの血の前に具現化したまえ。」
そう言い終えると、挟んでいた紙が光だし、紙と紙の隙間から一際明るい光が漏れ出す。スナイリーはそれを掴むと、刀を鞘から抜き出す様に引っぱる。すると、日本刀のような形になる。
「文字武器『獄刀』召喚!!」
勢い良く言い放つと光が一斉に四方八方に飛び散り、黒い刀だけがスナイリーの手の中に残っていた。
「あいつ、画数の高い文字武器を使いやがるぞ!?」
追っ手の一人がそう喚く。
すぐに、追い討ちをかけるようにシンも文字武器を召喚するための詠唱に入る。
「文字武器『虹波』召喚!!」
シンが言い放つと光が飛び散り、緑色をした短剣と赤色をした短剣がそれぞれ両手に収まっていた。
「ひぃっ! 文字武器持ちが二人かよ!? 聞いてねぇぞ!!」
「怯むな、こっちは12人いるんだ、囲めば問題な」
追っ手の一人が叫んだが最後まで言えずに、スナイリーに首をはねられた。
初めて人の首が飛ぶ瞬間を目撃した俺は、腹の奥からせり上がってくるものを感じた。
「陛下!? 大丈夫ですか?」
顔色が悪くなったのに気づいたシンが俺に近づいてくる。
「陛下は見ない方がいいかもしれませんね。」
そう言って、俺を茂みの奥に隠して、スナイリーに加勢しに行った。
壮太は? 壮太はもう慣れているのか?あいつは何をしているんだ?
「ぐぎゃぁぁぁ!」
「がぁぁぁぁぁ!」
「ぐぼぁぁぁぁ!」
連続して追っ手の断末魔が聞こえてくる。すると、さっきの首が飛んだ瞬間がフラッシュバックし、さらに強い嘔吐感がこみ上げ、一気に吐き出す。とても酸っぱいものが口の中いっぱいに広がり、焼けるような痛みに襲われる。最後の断末魔が森の中に響き、文字武器を字書に戻した二人が迎えに来た。返り血を浴びて赤黒く染まった手を見て、さらに吐く。内蔵まで出てるかもしれないと思うほどに吐いた。
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