《0秒ー4秒後》
静かだった。耳が麻痺してたのかも知れない。そして不覚にも目を奪われた。目が麻痺してたのかも知れない。グロテスクで見るも無惨…なはずなのに。彼女は赤で。もうそれは彼女じゃなくて…。空を仰ぐと雲一つない青い空。青に赤。白なんて邪魔なものがなくて…。邪魔なものが…。感覚が麻痺してたのかも知れない。綺麗だって、呟いた。その声は震えていた。
彼女が赤になった後、4秒間は何の音もしなかった。誰も何も動かず…。きっと『彼女』を焼き付けていたんだと思う。赤くなって、動かなくなった彼女を。
4秒たった後、既に世界は元通りになり、多くの人は…いや俺以外の人は「ああ、またか」と、その程度に終わった。そうして…4秒遅れの日常が始まる。ある人は悪態をつき、ある人は気持ち悪いと顔をしかめ、ある人は何の関心も持たず。全てが終わり、そうして電車へ乗り込む。結局、彼女が世界に残せたものは、駅にいた人への4秒だけ。…俺以外の。
彼女が赤になる前。まだ、彼女が彼女であったとき。彼女は…━━━。
俺が最後に見た彼女は、泣いていた。今まさに、自ら命を絶とうとしている者とは思えないほど、何かにすがるように、助けを求めるように顔を歪めて。やはり俺は、どうして俺に助けを求めるのか分からない。俺は彼女の4秒以上にはなれなかった。だから彼女は赤になることを…死ぬことを望んだのだろう。俺が彼女のせいで、この世から消えられなかったというのに、どうして彼女がいなくなる。どうして俺にすがる。何も出来ない、無知で無力な俺に。どうして、なんで。なんで、なんで、なんで。
『またね。』
いつ会うと言うんだ。君はもういないのに。君が俺を生かしたのに。俺だって死にたかった。楽になりたかった。頑張ることが嫌いな俺には、この世界で生きることは辛かったんだよ。なのに…なんだよ。分かんないよ、分かんない。俺には君にとって4秒以上の価値があった?ねえ、俺は君に何も言ってないよ。憧れてたよ、もっと話したかったよ、知りたかったよ、もっともっともっと…。
力を入れすぎてたせいで、フェンスが歪む。手には血が滲んでいた。彼女が俺にくれたものは大きすぎて、俺は逃げ出したかった。楽になって、彼女に会いに行きたかった。なのに…あの時の泣き顔と言葉が俺をこの世界に縛る。彼女は俺が逃げることを決して許してはくれないようだ。
彼女が居てくれたから、俺は自分を嫌いになりきらなくてすんだ。俺は彼女に憧れていて、彼女は俺になりたかった。なら、俺は俺でいいんだろうか。馬鹿な俺にはそう結論を出すことだけで、精一杯だった。彼女がいないことを受け止めることも、俺を受け入れることも全て辛いことで。彼女はそれを望んでいる。
彼女の存在意義はあの4秒間だ。
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