ジェイク=ウェイサム(盗人)
「いやあ、昨日はいい仕事をしたなあ」
少年ぽさの残る痩躯の青年――ジェイク=ウェイサムは満足げにひとりごちる。
「これは――」
彼の手から光の粒が舞い上がり、それはもう一度その手の中へ戻った。
「かなりのモンだ」
その光の粒の正体は、宝石だった。ただし、それは彼のものではない。いや、彼自身はもう己が物であると思っているが、それは紛れもなく盗品だった。
彼の風体から考えれば、出来心で盗んでしまったようにも見えるが、彼にとってそれは日常でしかなかった。なぜなら彼の生業は――盗人なのだから。
その宝石は丘の上に聳え立つ城の周囲を取り巻くように広がる城下町――通称『貴族街』のとある富豪の家から盗み出したものだった。
それをどこで売り捌こうかと算段していると、視線の先に人が倒れているのが見えた。
急いでその人物の許へ駆け寄る。盗みを働いている時点でおおよそ良識を持っている人間とは言えないが、その事実を除けば、彼は困っている人を見過ごせる性格ではなかった。
倒れていたのは自分よりも幼いであろう少年。精悍な顔立ちをしており、今まで盗んできたどんな金品より美しい金髪金眼は、気品を感じさせた。
「おーい、大丈夫?」
声をかけてみるが、返事はない。呼吸も弱々しく、細身の彼の体はずいぶんと重く感じられるほど脱力していた。
どうしたものか、と思案していると、遠くに人の姿が見える。その人物はエアリム二型を運転していた。向こうはまだこちらに気付いていないようだ。
とりあえず、その人物がいま自分の腕の中で項垂れる少年を助けてくれるだろう、とやや他人任せな思考を展開し、その場を離れることにした。
しかし、そこでジェイクの足が止まる。そして、視界に入ったものを見てニヤリとした。
「あ~あ、駄目だよね、こういうことしちゃ。迂闊だよ、う、か、つ」
おもちゃを見付けた子供のように目を爛々(らんらん)と輝かせながら呟く。
次の瞬間には彼の姿は細い抜け道の中へと消えていった。工場の影になった小道にポツリと浮かぶのは、改造を施されて法定以上の速度を出す靴型のエアリム五型に埋め込まれた輝石の緑色の光。
そして、彼の手には盗品である宝石以外の重量が加わっていた――――――。