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第四話 助けてくれた命の恩人は親友の病室にやってきました

あの日の続き。

――正直、ここから先は、夢だったんじゃないかって今でも思う。

わたしたちを狙っていた青いアメリカ軍の戦闘機が、もう一度こちらへ向き直り、またあの不気味な笑い顔がどんどんど近づいてくる、そのとき。

上空から、まったく違う音が突っ込んできた。

さっきまでの「敵の音」じゃない。

鋭くて、速くて、怒っているみたいな音。

次の瞬間。

青い戦闘機が、爆発した。

え?

え?

なにが起きたの?

炎を吹き出しながら、ぐるぐると螺旋を描いて、わたしたちの頭上を通り過ぎていく。

そして――

ドォォォン!!

多摩川の水面に、巨大な水柱。

わたしはその場にへたり込んだ。

もうだめだと思ってたから。

絶対に、死んだって、思っていたから。

それから、キーンという音とともに、ものすごい速さで別の戦闘機が頭上をかすめていった。

低い。

低すぎる。

多摩川の水面をなめるみたいに飛んで、川べりの学校の窓ガラスがばりばり割れる音がした。

校舎にぶつかるんじゃないかって、息が止まる。

でも、ぶつからない。

ひらり、と身をかわすみたいに急上昇していった。

……かっこいい、とか思ってしまった自分がいる。

いやいや、今それどころじゃない。


もう一機のアメリカ軍の青い敵機が、その戦闘機を追いかけはじめた。

でも、さらに別の戦闘機が急降下して、バババッって音が聞こえてきた。

数秒後、黒煙をあげて墜落していくアメリカ軍の戦闘機。

そして多摩川の河川敷は、静かになった。

本当に、静かになった。

「助かった……の?」

弟を庇ったまま、わたしは空を見上げた。

すると。

さっき最初に敵機を撃墜した戦闘機が、戻ってきた。

操縦席の窓が開いている。

翼の日の丸が、くっきり見える。

そして、ゆっくりとわたしたちの上を旋回した。

操縦席の中の人と、目が合った。

ゴーグルを上げた、若い操縦士。

わたしは、弟を抱きしめたまま、必死に手を振った。

声は出なかった。

でも、振った。

ありがとうって。

生きてるよって。

その人は、にこっと笑って、手を上げた。

それからゴーグルを下ろして、もう一機と合流して、南の空へ消えていった。

あのとき。

あの瞬間。

わたしは、一生忘れないって思った。

――そして、本当に忘れなかった。


◆◆


だから。

病室で目が合った瞬間。

「あ……」

「あ!」

ってなったのは、当然だった。

号泣する軍人さんと桜、なだめる美沙子さんを残して、わたしとモモと操縦士さんは病院の中庭に移動した。

小さな木に囲まれた、静かな場所。


わたしは、深呼吸して。

そして、勢いよく頭を下げた。

「ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございました!」

ぺこっ。

もう一回。

ぺこっ。

「い、いえ! たまたま横須賀上空に向かう途中で……それに任務ですから!」

操縦士さん、めちゃくちゃ恐縮している。

いや、あなた任務って言うけど!

命の恩人ですよ!?

「あの時は……弟と一緒に死ぬんだと思った!」

思い出したら、涙が勝手に出てきた。

これって、思い出し泣き!?

「怖かった、怖かったよ! うわあああん!」

気づいたら、その場に座り込んで泣いていた。

あの日と同じ。

操縦士さん、めちゃくちゃオロオロしている。

「間に合ってよかったです……」

ほんとに、それだけ。

それだけなんだけど。

その「間に合った」がなかったら、わたしは今ここにいない。

しばらくして落ち着いたわたしを、操縦士さんはベンチに座らせてくれた。

泣きすぎて、しゃくり上げながら自己紹介。

「門倉紀依って言います。桜の同級生で、東京湊高等女学校の五年生です」

ちゃんと名乗る。大事。

「自分は本田史郎、陸軍軍曹です。赤羽の飛行第百九十一戦隊で……見ての通り戦闘機の操縦士をしています」

飛行服を指して、ちょっと恥ずかしそうに笑った。

あの時、空にいた人が目の前にいるなんて、ちょっと信じられない。

「本田……史郎さん……」

わたしは、じっと見る。

命を救ってくれた人。

「桜とはどういう関係なの?」

すると本田さん、ちょっと固まった。

「え、えーとですね。桜さんは自分の上官の伊吹中尉が妹のように可愛がっていてですね……」

しどろもどろ。

あ、これ。

なにか、ちょっと複雑なやつ?

横でモモが腕を組んでいる。

事情聴取モード。

わたしは思った。

戦争は怖い。

でも。

あの日、空で戦ってくれた人がいて。

今日、ここで再会して。

世界は、全部灰色になったわけじゃない。

まだ、ちゃんと繋がっている。

そんな気がした。

――まさかこの再会が、これからわたしたちの運命をさらにややこしくするなんて、このときのわたしは、まだ知らなかったんだけど。

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