不運な場所でこそギャンブルは生まれる-1
「それで、騎士ってのは何をしたらいいんだ?」
酒場の帰り道、ジェイドは夜の街中で一緒に歩く少女であり主人のエミリーに話しかける。
「簡単に言えば主人を守っていることですね。主人のことを肌身離さず守り、傷の一つでも付こうものなら腹を切って詫びを入れるという感じです」
「ケッ、バカらし。腹切ったって臓器と血が出てくるだけで、片付けが面倒だろ」
「エェ⁉ わ、私、血は大丈夫ですけど、臓器なんて見たくないですよ! ジェイドはもし私が傷ついても腹切りなんてしなくていいですからね!」
「元々するつもりねぇよ。もしそんな状況になったら何としてでも俺は逃げるね」
「それはちょっと寂しいものがあるというか……。あ、ここは右に曲がりましょう」
話していると突然、エミリーが立ち止まり、右に曲がろうとジェイドの服の袖を引っ張ってきた。
「急にどうしたんだ? ここをもう少しまっすぐ行ったところに俺の荷物を置いた宿があるって言ったじゃねえか」
「そ、そうなんですけど……。この先は危険というか……、危ない場面が見えたというか……」
「どういうことだ?」
意味が分からなかったジェイドはエミリーに何故かと問う。するとエミリーは、何やら困った様子で「言っていいのかな……」と呟いていた。
その様子を見たジェイドはため息をついて話す。
「あのな、俺たちはまだであったばかりでお互いのことはほとんど知らないわけだ。だからこそお互いに腹を割って話すってのが信頼につながるんだよ」
「そうですね……。わかりました、話します」
エミリーが軽く深呼吸をし、気持ちを整えると、ジェイドに何故右に曲がろうとしたかを語った。
「リュウグナシア王国の歴史はご存じですか? あの、建国の時に初代国王が竜神様と契約を結んだというおとぎ話です」
「よく子どもたちに聞かせるってあれか。あれがどうかしたのか?」
「実はその話、おとぎ話ではなく、実際にあった話なんです。竜神様はこの国の平和を条件に、私たち王族に力を与えました。そして、私の力は導く力。より良い結果を作り出せる力です。その力によって、私はここをまっすぐ行くと危険だということを感じたんです」
「へー、なるほどな。もしかしてあれか? 俺と初めて出会ったのに名前を知っていたのも、その力のおかげなんか?」
「はい! そうですよ」
「もしかしてだが、その力ってすごいんじゃないんか?」
「そ、そうなんですよー」
エミリーは何故かジェイドと目を合わせず、何なら目が泳いでいて、さらにはピューピューと口笛まで吹いていた。
隠し事が下手すぎるだろうとジェイドは感じながらエミリーに聞く。
「まだなんか隠しているだろ?」
「フェッ⁉ そ、そ、そ、そんなことは……」
「言ってみろ」
少し強めの語気でジェイドが言うと、エミリーは観念したように話し出した。
「じ、実は私たち王族の力を最大限に発揮するには、竜器というものが必要で……。慌てて城から逃げ出したせいか、部屋に忘れてきてしまって……」
「それじゃああれか、今お前の力は制限を受けている状況ってことか?」
「簡単に言えばそうです……」
ジェイドはよく城から逃げて自分のもとまでこれたなと感心する。まあ、力を使ったからなのだろうけど、それでも抜け具合からして、見つかってしまいそうだと思う。
そのようなことをジェイドが考えていると、話を変えたかったからか、エミリーが元気よさそうに「次はジェイドが話す番ですよ」と言った。
するとジェイドはかなり悪い笑みを浮かべて、エミリーに、
「俺のことを話すって言ったっけか?」
と言う。
エミリーは予想だにしていなかった言葉で、口をぽかんと開けていたが、我に返ってジェイドに問い詰める。
「私は話したんですよ! ならジェイドも話すのが筋じゃないんですか!」
「そんなもの知らねぇな! 俺は別に信頼してもらおうなんて少しも思っていないからな!」
「卑怯です! そんな横暴、許されませんよ!」
「卑怯で結構。ガキには場だ早い大人の交渉術ってやつだ。いい勉強になっただろ?」
「ぐぬぬぬぬ……」
悔しさでうなっているエミリーを置いて、ジェイドはまっすぐに歩き出す。
エミリーは自分が話したこと的に、ジェイドは右に曲がると思っていたので、おかしな行動にびっくりしてしまう。慌ててジェイドに駆け寄り「こっちですよ」と袖を引っ張るが、ジェイドはそんな言葉を無視して、まっすぐだけを見つめている。
「あ、そういえば言い忘れてたことがあるんだけどよ」
「な、なんですか。それよりも右に曲がって……」
「俺は危険だとか言われたら余計に行きたくなっちまう質なんだ。だからよ」
ジまっすぐ先に指をさして言った
「この道はまっすぐ進む。危険なところにギャンブルってのは転がっているものなんだよ」
そう言うとジェイドは宣言通り、まっすぐ進み始めた。
エミリーは右とまっすぐを交互に見ていたが、結局、ジェイドに付いて行ってまっすぐ進むのだった。




