プロローグ
「大将。酒、追加だ」
リュウグナシア国、王都の外れにある酒場で、髪の赤い大男がカードを片手に声を上げる。
彼の目の前には険しい表情をして、額からは汗を流し、赤髪の大男と同じカードを持っている男。
二人の間にある机には束になるほどの紙幣。男が二月ほど食うに困らない金額はある。
赤髪の大男が、冷や汗をかきながら顔を青くしていく男に余裕のある声で話しかける。
「どおした? 余裕、なさそうだな」
そう言うと、赤髪の大男は大声で笑いだす。もう一人の男は見る見るうちに顔を青くしていき、遂には勝負を諦めて「負けだ……」とカードを机の上に置いた。
「それじゃあこの金は俺のもんだな」
赤髪の大男は豪快に札束を取ると、服の中にしまう。丁度、カウンターから出てきた男が赤髪の大男に近づき、酒の入ったジョッキを赤髪の大男に渡す。
「ジェイド君、これで何勝目だい。そんなに勝たれたら客の金が無くなってうちが破産してしまうよ」
「そりゃあ悪かったな。そんじゃあ今日はこの買った金で俺がこの店を救ってやるよ! お前らも今日は俺がおごってやるからもっと飲めよ! 俺に負けたやつはダメだけどな!」
赤髪の大男、ジェイドが大声でそう言うと、酒場にいた客たちが「ほとんどお前に負けたけどな!」とつっこみを入れる。それを聞いてジェイドはまた、大きな笑い声を出し、先ほど受け取った酒を豪快に飲む。
そんな時だった。酒場の入口が開き、この時間帯では珍しく客が入ってきた。さらにその客は、ここに来るには異質で、ここにいるどんな奴よりも二回りは小さい少女だった。
その女の子は薄汚れたローブで身を隠し、深くかぶったフードの揺らしながら、辺りをきょろきょろとしている。どこかから迷い込んだスラム街の子どもだろうか? そのように普通ならば考えるだろう。
だが、観察力の高いジェイドには少女が身を隠しているローブがぼろぼろでも、かなり材質のいいものだと見抜いており、明らかに面倒ごとになりそうだと感じていた。
面倒だし、迷子にでもなっただけで面白みはなさそうだなと思ったジェイドは少女から視線を外す。しかし、ジェイドの考えは外れていて、少女はジェイドを見つけると駆け足で寄ってきて、ジェイドの目の前に座った。
「もしかして、ジェイドさんですか?」
ジェイドは名乗ってもいないのに突然、自分の名を言われて少し驚くが、すぐに落ち着き「……ああ」と返す。
すると少女はぱあっと明るい表情をして「やっと見つけた」と言って喜ぶ。少女が喜びを見せた時、ジェイドはフードの中から少女の顔が見えてにやりと笑みを見せた。
そしてジェイドは少女からのお誘いを受ける。
「ジェイド。私、エミリー・リュウグナシアの騎士になりませんか?」
「喜んで。あんたからのお誘いに乗ってやるよ」
絶対に面倒なことになる。しかしジェイドはそんなことよりも、これから起こるであろうワクワクに心を躍らせるのであった。




