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致死量の砂糖を乗り越えて

やっぱ嫉妬する女の子とか、メンヘラって書いてて楽しいのよね。かわいいし

あの初めての戦いから、気づけばもう二ヶ月が経った。あの日目が覚めたら寮のベッドの上で、凛が何故か添い寝してたっけ。


「何ぼーっとしてるの、あなたにそんな余裕ないと思うけど。慣れたからって油断してると、死ぬわよ」


「あ、ごめんごめん」


今は国内の森で、滝の水をひたすら防御魔法で弾き続けるよく分からない訓練をしている。


紫暗先生は滅多にここに来ない。なんでも自分の仕事に加え、書類から逃げ回る白河明里の捜索で忙しいみたいだ。


「にしてもほんと、紫暗せんせーは無茶させるものね。最近全然いないじゃない」


「ほんとに最初の方の、防御魔法が不安定で死にかけた時くらいしか見てくれなかったよね。まあ、最近は安定してきたからいいけど」


二ヶ月も経てば戦いや魔法にも慣れた。東条という割と最高なお手本がいるから、格闘もできるようになってきたし。


「二人ともー、おつかれー。だいぶ安定してきたね、いいじゃん」


「あ、せんせー珍しい」


相変わらずどうやってるのかは分からないが、紫暗先生がその場に一瞬で現れた。

毎回音もなく現れるし、本当に便利な魔法?だと思う。


「この感じならもういいかな、向こうよりもだいぶ早いけど……次のステップに行こう」


私達二人をじっくり見たあと、紫暗先生はそう呟いた。なんだがその目は、まるで全てを見透かしているようだった。


「じゃあいつも通り私の手を握って。今日は久しぶりに教室に……」


言いかけて、紫暗先生が止まった。そして次の瞬間、周りの空気が震え、滝の水が揺れ始める。紫暗先生の真紅の眼光はいつもよりもだいぶ細く、鋭くなっていった。


「……昨日はお仕事ほっぽって朝帰りしたくせに。こういう時は都合よく呼ぶんだね、明里」


「せ、先生?」


思わず声をかけるが、空気の揺らぎは止まらない。聞こえた限りで考えるに、白河明里がまたなにかやらかしたんだろう。この人は白河明里が絡まない限り冷静だしね。


「ごめんね、美炎。一回一人で教室で待っててくれる?新しく特選クラスに入る子もいるし」


「あ、はい分かりました」


まばたきをすると、もうそこに東条はいなかった。……私は?


「鏡、女たらし浮気野郎が君に会いたいらしいから、私達の家に連れてくね」


「えっ!?」


叫んだ時には、もう風景は屋敷の中に変わっていた。鼻腔を付く高そうな絨毯特有の匂いと、視界に広がるクラシックな豪邸。


そして何より圧巻なのは、目の前の人の圧だ。ズラっと並ぶメイドさんたちの列、そしてその先にいる白河明里。随分派手なお出迎えだ、私何かしたか?


「ようこそボクと紫暗の家へ!!こんなもてなししかできなくて申し訳ない、ボクは……」


「ねえ、明里……………。私がそんなくだらない話をしに来たように見えるのかな?」


瞬間、部屋の圧の色が書き換えられた。白河明里の『動の圧』から黒岩紫暗の『静の圧』へと。


重力が五倍くらいになったような空気の重みと、一瞬で喉が乾いてカラカラになったのを本能で悟る。目の前の白河明里も、いつものカッコつけポーズが崩れ冷や汗を流していた。


「いや、紫暗、あの、今はさ、ちょっと真面目な話を……」


「なに?それ。私の話は真面目じゃないってことかな?だーーーーい好きな彼女の浮気なんて真面目以外の何ものでもないよね?ねえ?」


「だから、浮気はしてな」


「は?今日帰ってきたのいつかな?明里。朝のさ、八時だよね。暗いお部屋で明里のこと待ってた私の気持ち考えたことある?ないからこんなことできるんだよね?」


紫暗先生が一歩、また一歩と歩く度に黒い稲妻が駆け巡るのが見えるようだ。あの白河明里もただ下がることしか出来ず、気づけば壁際に追いやられてる。


「……ご、ごめんって紫暗。確かにボクが昨日書類仕事を君に全部放り投げて、部下の子と飲んでたのは謝る。で、でも」


「でもじゃないでしょ?明里の為に頑張ってお仕事終わらせて、夜はベッドでいーーーーっぱいサービスしてくれるはずの彼女のことを楽しみにして。帰ってきたらいない、何……コレ?」


ついに紫暗先生が壁際に到着した。蛇に睨まれた蛙とはまさにこの事だ。


もはや白河明里は、以前見たようなカリスマの光を放ってはいなかった。紫暗先生の放つ強烈な闇が、それを全て飲み込んでいた。


というかいつまで見させられるんだ。喉は乾くし、空気に押しつぶされそうで口を開く気にもなれない。


「ボクは書類仕事嫌いだし」


「私だって嫌いなんだけど」


「ほ、ほんとに浮気はしてないよ!!ボク家に泊まっただけで、何もされてないし何もしてない!!」


「…………大事なことがわかってないね、明里。私はね?明里が私に対して何をしようが別にいいの。でもさぁ……」


その時、空爆でも落ちたかのような轟音が屋敷に響き渡った。白河明里はその場に崩れ落ち、その横にはクレーターと化した綺麗な大理石の壁。いや、どんな壁ドンだこれ。


「私は明里から知らない女の匂いがするのがほんっっっっっっとに嫌いなの、わかる?あと夜抱かせてくれないと充電が切れるの、わかる?ねえ、わかるかって聞いてるの!!!!ばか!!!!」


「ごめんごめんごめんごめん!!も、もうしないよお泊まりしないし、朝帰りもしないから!!許して紫暗!!」


白河明里は叫ぶ、すると空気がとたんに軽くなった。部屋には湿度が戻り、張り詰めた圧迫感はもうない。


ようやく楽に呼吸ができる喜びで、思わず深呼吸をしてしまう。それほどまでに、あの紫暗先生の圧は私から“立ち止まる”以外の行為を奪った。


「…………明日、休み取って。今日は絶対寝かさない」


「あ、はい……」


もう、喋っていいのだろうか。ひょっとして、この痴話喧嘩を見せつけるために呼ばれたの?だとしたらとんだ砂糖の大量摂取だ、糖尿病で死んでしまう。


「鏡に用があるんでしょ?だったら早くして、私帰ってるから」


言い残して、紫暗先生の姿は消えた。メイドさんは何も言わずに砕け散った大理石を片付け始めてるし、多分日常なんだろう。


こんなのがいつも通りとか苦労してるんだな、ほんとに。メンヘラすぎるでしょあの人。


「あー、えー、では気を取り直そうか!!佐倉鏡、今日呼び出したのは他でもない、このボクがキミに用があるからなのさ!!」


汗でびしょびしょになった体を、精一杯輝かせる白河明里。今から虚勢を張るのは、さすがにこの人でも無理だと思う。


「それで、なんの御用ですか?」


「まあ、無駄な説明は省こう。少し手を前に出してくれ」


言われた通り手を前に突き出す。すると、白河明里はしばらくキョロキョロ周りを見渡すと、私の手を握った。


……恋人繋ぎで。いや何考えてるんだろうこの人、さっきあれだけ浮気でブチギレられてたのに。


そんな邪念がよぎった時だった。私の中に、心地よい光に当てられた感覚が駆け抜けた。それと同時に、自分の輪郭が溶けてこの人とひとつの光を形作るような気持ち悪さも感じる。


(なんだ、この感じ……)


嗅覚が捉えた白河明里の香り。それはほとんどが紫暗先生のと同じだったけど、その中に少し懐かしい香りが混ざっている。


なんというか、まるで故郷を思わせるような匂いだ。漠然としているし、よく分からないが。


「……なるほど、やっぱりそうか。まさかとは思ったけど、本当にそうだとはね」


「あ、あの、これはなんなんですか!?」


「いいかい鏡、魔法には一人一つの属性がある。そしてキミの属性は……いやキミを器に選んだのは__」


その時、頭に再び頭痛が走る。そしてまたあのホームページを見た時のように、世界から私と白河明里だけ切り取られたような静寂が、周りを支配した。


だが今回は前とは違った。ただの頭痛じゃない、これ。頭の中になにか情景が浮かんでは消えるのを、ひたすら繰り返している感じ。


なんだこれ、思わず手が震える。握られた白河明里の手も、心做しか震えてるように思えた。





「ボクの一族の呪い……光属性、さ」



読んでくれてありがとうございます!!


この明里と紫暗のくだりは個人的に大好きなので頑張りました、最高。


もし気に入って頂けたらブックマークとかしていただけると嬉しいです!!百合の燃料になるので。

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