初めての戦い、運命の邂逅
バトルだぁぁぁぁぁぁ!!!!
紫暗先生の号令が響くと同時に、東条が思いっきり地面を踏み込む音を耳が捉えた。
そしてそのまますごいスピードで突進してくる。
風を切る音が戦闘機みたいだ。ソニックブームが出るんじゃないかとすら思ってしまう。
だけど、見える。強化魔法のおかげかな、不思議と速いの女の子が走るくらいの速度にしか感じない。
(いける、戦える)
見えない、分からない、とかなら無理だが、認識できるなら話は別だ。頭の中に数式を描き、それを現実に落とし込んでいく。
そして突進のスピード、軌道、体勢、それらを見て人体の構造上最も可能性が高い攻撃を計算した。
(大振りな右のパンチ、と見せかけた左のフックだな。蹴りは……あの体勢からじゃ撃てないでしょ、関節の構造上)
そして予想通り、東条は振りかぶった右手を振らずに左拳を選んだ。それに対して、私は昔テレビで見たボクシングの見様見真似でガードを組む。そして正面から左拳を受け止めた……はずだった。
しかし、東条は左手の勢いを利用して瞬時に体をひねり体勢を大きく変えた。あまりに予想外のことに計算が追いつかず、咄嗟にガードを試みる。
「遅い!!」
「っ!?」
しかし、その漬け焼き刃のガードは下から飛んできた蹴りによって引き剥がされた。まさに爆発、そんな轟音が響き渡り腕に激痛が走る。
「痛った……」
咄嗟に腕を抑えるが、それが良くなかった。腕を庇ったことで、私は無防備になったボディを守ることができない。
そして、もろに連打を食らいその場に崩れ落ちた。呼吸できないくらいの、吐き気と激痛と共に。
「ア゛ッ!?ゲホッゲホッ、ゲホッ……」
「え、よわ。想像してたよりも脆いし雑魚いのね、あなた」
地べたに這い蹲る私は、見下す東条を見上げることしか出来なかった。今わかった、こいつがここまで傲慢な理由が。
こいつの才能は確かだ。それもベクトルが違うだけで、大きさだけで言ったら多分私と同じくらい。こいつは、格闘の天才だ。
「えー、もっといい勝負すると思った。鏡ーもっと頑張ってー」
「せんせー、佐倉さん弱いのでせんせーとやりたいです」
東条は私に興味を無くしたのか、紫暗先生の方へ歩いていく。だが、その緩い空気は今の発言によって消し飛んだ。
「……私とやる?自信があるのはいいけど、あんま調子に乗らない方がいいよ。まだ早い」
紫暗先生からとんでもない殺気が放たれ、東条は咄嗟に後ろに跳んだ。いくら格闘の天才とはいえ、相手は何年経験を詰んだかも分からない軍人。はっきり言って、踏んでる場数が違いすぎた。
「冗談ですよ。肌で分かりますし、せんせーが強いの」
「なら、いいよ。過信で相手の力を見誤るのは、戦場で最も死に繋がりやすいから注意して」
二人の会話が耳に入るが、私は完全に蚊帳の外だ。未だに、激痛が身体の中で何度も何度もスパークする。
だけど、と苦しくはなかった。そしてわかった、自分がこんな状況なのに笑っているということに。
私だって動物だから、ダメージを喰らったら動けなくなる。でも、心は高揚の高鳴りを抑えられなかった。
地べたに這い蹲るという屈辱的な敗北、こんなのは生まれて初めてだった。
やっと出会えた、知らない強さ。やっと味わえた、敗北の味。それに対する我ながら異常な好奇心だけで、私は立ち上がった。
「待っ、て……もういっ、かい……」
「……あれを喰らって立てるの?あなた、格闘技経験者?それはないか、私の事知らないし」
「うん……全然、未経験……」
「やるわね、ちょっと見直したわ。でも何度やっても同じ、死ぬ前に辞めといた方がいいわよ。凡才は、天才には届かない」
かろうじて立ち上がったが、自分でもわかるくらいフラフラだし、視界も歪んで見える。
東条がこっちに向かってくるのはわかるが、表情や何を言っているのかはあまり聞き取れない。
「鏡、もっかいやるの?正直戦えるようには見えないけど」
「せん、せい……やらせて、ください……」
「ふーん、面白そう。じゃあ、やろう」
東条が構えをとるのをみて、私もボロボロの腕を上げる。先生はそれを見てナイフを上に投げ、落下を待った。
「始め」
ナイフが地面に突き刺さると共に、号令が響いた。神経を研ぎ澄ませ、かろうじてその声を捉える。
そして、同時に思いっきり土を蹴った。フラフラな人間の捨て身の突撃、なるべくそう見えるように。だらしなく腕を下げ、目も虚ろに。最悪一撃食らってもいいくらいの覚悟で。
「あなた頭いいと思ってたけど……バカね!!」
東条はカウンターを構える、そしてすぐに私に向かって振り下ろされた。狙い通りだ、思わず口元が笑みで歪んだ。
私は瞬時にぶらぶらさせてた腕の遠心力、これを利用して体を捻った。そしてさっきの東条の体勢をできるだけトレースする。
振り下ろされた腕を目掛けて思いっきり足を伸ばして、東条の見よう見まねでその腕を弾き飛ばした。
とは言っても力では遠く及ばないから、ほとんど東条の拳のベクトルを変えて弾き飛ばしただけなんだけど。
「なっ!?」
ここで大事なのは、意図したカウンターだと思われないことだ。わざとらしく蹴りの後に体勢を崩し、“まぐれ”を演出する。
ボロボロの弱者が倒れかけた時に腕に当たった、そんな感じだ。
「そこっ!!」
だがそれでも東条は焦る、私から一撃を受けたことに。プライドが高いこいつのことだから、一瞬で勝負を決めに来るだろう。
そこでこの隙だらけの演出だ。格闘の天才ならわかるだろう、今が決め所だと。私の体制は、重力に従って倒れているだけなんだから。
だが、それこそが狙いだ。さっきよりも単調に振り下ろされる拳、カウンターの気配もない。それを見て、私は地面に倒れ込む瞬間に手を地面について逆立ちの姿勢を取った。
そして落下の勢いは、そのまま踵が振り上げられる勢いへと変わっていく。足と腕、いくら速度は向こうが上でもリーチでは圧倒的に有利だ。
視界外から振りあげられた私の踵は、そのまま計算通り東条の顎を捉え、東条は思いっきり後ろに吹っ飛んだ。
「かっ……何っ!?」
「おぉ、やるぅ」
東条を吹き飛ばすことには成功したが、さすがに回転して受け身を取られた。それを見た紫暗先生が、感心したようにこっちを見るのを視界の端に捉えた。
そしてそれを最後に、私の視界は真っ黒へと変わった。
◇
東条美炎を吹き飛ばし、佐倉鏡は倒れた。
さっきまで熱い激闘の地だったこの場所には、今は冷たい風と空気に包まれていた。
東条は顎を抑えながら倒れた佐倉鏡に近づいていき、そのままその身体を抱き上げた。
「佐倉さん、一つだけ謝っておく。あなたは強い、格闘未経験で私に一撃当てるなんて……」
その目はもう、見下してはいなかった。格闘技未経験、どう考えてもド素人。
そんな佐倉鏡が自分の連打を食らってなお立ち上がり、さらに一撃をも与えたのだ。彼女から見ても、それは賞賛に値することだった。
「やっぱり二人とも才能は確かだねー。面白いものが見れた」
「そうだね、ボクもそう思うよ」
響き渡る第三の声。その音色を聞いた途端紫暗は咄嗟に振り向き、その視界に大好きな恋人を捉えた。風にツインテールを靡かせ、視線を佐倉鏡へと向ける白河明里。
紫暗は思わず駆け出し、そのまま思いっきり明里に抱きついた。
「明里なんでここに来たの?おうちからここ結構遠いのに」
「なんだか紫暗が面白いことやってたからね。急いで見に来たってわけさ」
「そう、それで気に入った?私の生徒」
「ああ、大収穫さ。二人とも大したものだよ、全く」
紫暗と明里がゼロ距離密着してイチャついてるせいで、東条は鏡を抱えたまま置いてけぼりだった。
そのまま暫くぽかんとしていたが、鏡の治療をしなくては行けないことを思い出し声を出す。
「あの、お楽しみのところ申し訳ないんですけど、この子の治療しないとじゃないですか?正直結構殴っちゃいましたし……」
「あー、それなら大丈夫さ。ボクがここに来たのは、そのためでもあるしね」
明里は紫暗に抱きつかれたまま東条の方へ歩いていき、抱き抱えられている佐倉鏡を見下ろした。手を前にかざし、明里は目をつぶる。
「……アンチリデア・スピリタス」
瞬間、明里の周囲が光に包まれた。その光は佐倉鏡を覆い、暖かな安らぎを与える。そして気づいた時には、あれほどの傷が完全に消えていた。
「すごい……」
東条は息を飲んだ。さっきの紫暗の瞬間移動といい、超常現象の連続に興奮が止まらなかった。
「これでよしっと。紫暗、その子を寮に送ってくれたまえよ。もう訓練も終わっていい時間だしね」
「……やだ、ベッド行こ」
「紫暗、言うことを聞いてくれよ……。ボクだって仕事で疲れてるんだ、本当はそうしたいけどキミにだって仕事があるだろう?」
「わかった、帰ってきたら……ね?」
紫暗は渋々東条の手を取り、次の瞬間明里の視界からは全員が消えた。それを見て、明里はツインテールのリボンを取り屋敷へと帰って行く。
「しおんの、ばか」
期待に火照る身体を抑え、フラフラと歩みを進める。しかしそうなりながらも、明里は佐倉鏡に見た可能性、そして触れた時の事を思い出していた。“光が強まった”ような、あの共鳴のことを。
この邂逅が、運命を動かしていく。
動き出した歯車はもう止まらない、約束されたあの決闘まで。白河明里が、光を失うまで。
◇
読んでくれてありがとうございます!!!!
いや、ね。長いよねごめんなさい。どうしても最後のシーンは入れときたかった、明里と紫暗のイチャつきも。
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