表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

『カリスマ』

第3話!!俺が大好きなクソメロ女が出てきます!!

あの入学式から一晩が明けた。一昨日の夜は、遠足前の子供に戻ったような気持ちだったのに、今は逆に社会人でもなったかのような気分だった。


それほどまでに、あのお遊びは私の期待を打ち砕いた。せっかく、望まれたねじ曲げたのに、曲げた先がまた退屈な道へ続いてたなんて、我ながらお笑いであろう。


「鏡~、いい加減機嫌直しなってー。この授業ももしかしたら面白いかもしれないじゃん」


私の肩に頭を乗せながら、隣の凛はそう囁く。


だけど、今いる大講義室は昨日のアリーナと違って不気味さすらないし、何より周りにいるやつらの舐めた空気感が充満していて気持ち悪い。こんな場所に期待しろなんて、無理な話だと思う。


「なんか……バカみたい。なんでこんなとこに来ちゃったかなー」


「バカ!?鏡が自分にそんな言葉使うなんて……末期だね。よしよし、僕はここにいるから」


頭に凛の暖かさを感じ、少しだけ気持ちが楽になった。いつぶりだろうか、中学だかで吹っ切れるまではこんなことをやって貰ってたっけ。

周りに馴染めなかった私を、慰めるかのように。


「あ、先生来たよ!!ほらあそこ!!」


凛の指さしたにいたのは筋骨隆々な軍人……ではなく、ヨボヨボのおじいちゃんだった。

そんないかにも“普通の大学の教授”って感じの姿に、周りの和やかムードも加速していく。


「あれが、先生?本当に“軍”の先生なの?」


「あー…………ま、まあまだわかんないじゃん!!話聞いてみようよ!!」


確かに話を聞かないと分からない、だけど周りのお喋りがうるさすぎて聞き取れない。


なんというか、もう最悪だ。私までこのお遊びの空気感に飲まれているような、そんな胸焼けに少し吐き気がした。


「えー、君たち全員入学式の同意書は書いたね?今だったらまだ、辞めますと言っても返金は受け付けるよ」


辛うじて、おじいちゃんのその言葉だけは聞き取れた。同意書?同意書って言ったらあの、観光地のバンジージャンプみたいなやつのことだろうか。


あれをこの場で引き合いに出す、なんだか嫌な予感が私の頭を刺した。


「発言者がないということは全員同意でいいかな?じゃあ、開始」


瞬間、ただのヨボヨボのおじいちゃん、だったはずの人からとんでもない圧が放たれた。


私も凛もただ前を向くことしか出来ず、さっきまで私語に満ちていた教室は、今や静寂と重苦しい空気だけが支配していた。


そして次に目に入ってきたのは、一瞬にして自分の前に現れたひとつの水晶。咄嗟に隣を見ると、凛の前にもひとつの水晶が現れている。


何が起きたのか、分からなかった。水晶を誰かが置いた気配もなかったし、置かれた音すらなかった。


だが、水晶はまるで最初からそこにあったかのように鎮座していた。物理学とかそういう『常識』、それを一気に飛び越えた現象が今目の前にあった。


「貴様らには今から私の元、戦い方である魔法について学んでもらう。まず基本として……」


「ちょっと待てよ!!なんだよこんなの聞いてねえよ!!」


「そうよ!!魔法なんて、おとぎ話の中のものでしょ!?」


淡々と授業を進めるおじいちゃんに、ついに後ろから怒号が飛んだ。どうやらさっきまで周りの連中と喋っていたやつらの何人かが、ついに耐えられなくなって声を上げたらしい。


それに続くかのように、周りの取り巻きたちもいっせいにおじいちゃんを非難する。


「魔法については説明する。だから黙って聞け」


「そ、それに戦い方だぁ!?戦争なんてもう何年も起こってねえんだ、何言ってんだ!!」


「そうだ!!俺たちは就職のために、楽そうな国公立大学に来ただけなんだよ!!」


同意書で帰ればよかったものを、未だにそんなことを言う学生からの非難が止まらない。


だけど私にとってはそんなことどうでもよかった。

今はただ胸の中心が激しく揺れる音と、神経が震える感触だけが私を支配していた。


しかし、その時私の感覚に再び外の音が戻った。

教室のドアの前から響く一つの足音が、私の耳にこびりつく。


ほかの怒号の方が遥かに大きいのに、その足音だけが私の心を引き付けていた。運命を選んだあの日に感じた引力、まるでそれと同じ力が働くかのように。




「たーのもー!!」




そして勢いよく開かれる教室の扉。それと同時に風が廊下から舞い込み、重苦しい空気を逃がしていく。


吹き抜ける空気に靡く白いツインテール、差し込む光を反射して輝く赤と青のオッドアイ。

ポスターで見た白髪の少女、まさにその本人がそこに立っていた。


私は、目が離せなかった。彼女が視界に入った瞬間、再び頭痛が脳内を突き刺す。だがやはり苦しくはない、むしろどこか懐かしいような、そんな痛みだった。


「た、隊長!?なぜこのようなところに!?」


「暇つぶしのつもりだったけどー、キミの焚き付け方が相変わらず乱暴だからね。さすがに生徒たちが可哀想になったのさ」


「ですが……」


「い・い・か・ら、黙って任せ給えよ。それともこのボクが信用出来ないかい?」


おじいちゃんは白髪の少女を見た瞬間、頭を下げ壇上を譲った。堂々とした様子で歩くその姿は、美少女であるはずなのに不思議と強い覇気を纏っていた。


さっきまでとはまた違うタイプの圧が、部屋を書き換える。今回ばかりは私を含め皆息を飲んで、彼女の発言を待つしかできなかった。


「まず初めに言おう、キミ達の気持ちはわかる。いきなり魔法だとか、死ぬだとか言われて戸惑うのも、当たり前だろうね」


チョークを指で遊ばせながら、彼女は喋り続ける。その一挙手一投足が、みんなの視線を引き込んでいく。


「だけどよーく考えて欲しい、人間はいつか必ず死ぬ。そしてもしここに来ていなかったら、それはきっと事故死だとか、病死だとか、はたまた寿命だとか、そんな退屈なものになっていただろう。普通の人生の終着点なんて、そんなものさ」


「だからこそボクは君たちに祝福を送りたい。キミたちは選ばれた、“美しい死”ができる人間なのだから」


もうざわめきは起こらない。とんでもないことを言っているのはわかる、だがそれ以上に彼女の持つ異様な魅力が、不思議な説得力をその言葉に持たせた。


みんなの頭にあるのは“確かに”という納得だけ。理性では馬鹿げた理論だとわかっているのに。


「かつて憧れたことはないのかい?御伽噺のような仲間を庇っての死、託しての死、信じての死……そんな美学に溢れた死や、それを実現させる魔法の美しさに」


「そしてここではそれができる。死なないことが一番だけど、もし死んだとしてもそれは最も美しく、そして誰もができるような死じゃない」


言いながら、彼女は自分の腰に刺さった剣に手をかけた。響く金属音と、少しばかりの無音、そして皆の息遣い。教室にいる全員の視線が、その剣に集まる一体感を肌で感じた。


「そしてその生き証人こそが、このボクさ!!焦がれるならば着いてこい、このボクに!!光り輝く未来の、より美しい終着点に!!」


彼女が剣を抜いた瞬間、真っ白な刀身を持つその剣が太陽のように輝き出した。高く掲げられたその光は教室、そしてみんなの心を包んでいく。


もう誰も、帰ろうだとかそんな考えは微塵も持っていなかった。ただこの人のようになりたいという熱が、心を動かす原動力になっていた。


「最後になるが自己紹介をしておこう。ボクは白河明里、フラルド軍部第零特殊戦闘部隊の隊長さんさ。楽しみにしてるよ、キミ達の中の誰かと共に戦える日を」


軽く手を振った後、白河明里は踵を返して教室を出た。それと同時に、生徒たちから拍手喝采が巻き起こる。


示し合わせた訳でもなく、ただそうしたいから彼らは拍手を送った。一人のカリスマ、白河明里に。


教室を出てすぐ、明里は早足で自分の部屋へと向かう。勢いよくその大きなドアを開き、中心にある自分の椅子に座った。


そして明里がツインテールを結ぶリボンを解いた瞬間、その目はさっきまでの“カリスマ”ではなく、揺らいだか弱い少女の目へと変化した。


気配にも覇気がなく、そこに居たのはハラリと落ちた髪のヴェールに包まれた、一人の女の子だけだった。


「……紫暗しおん


名前を呼ぶ。その瞬間空間に黒い亀裂が走り、中からツインテールの黒髪少女が現れる。紫暗と呼ばれた彼女は明里を見るなり何も言わずに、その背中に抱きついた。


「はいはい、どうしたの?」


「“私”、もう嫌だよこんなことするの。『より美しい死』?『輝かしい未来』?バカげてるよ、そんなの……戦って死ぬのなんて、痛いに決まってるのに……」


明里の目から涙がこぼれる。紫暗はそれを見た瞬間椅子に座った明里を抱き抱え、そのまま来客用のソファーへと腰掛けた。


安心させるように、ここにいると伝えるように、紫暗は明里の綺麗な髪を撫でる。


「明里は悪くない、何も悪くないよ。ただ無感情な兵器みたいに死ぬより、英雄を夢見て死ぬほうがずっと幸せだよ」


「でも……でもっ!!私は嘘をついた!!死ぬことなんて綺麗じゃない、かっこよくもない!!」


「ううん、違うよ。明里は夢を与えただけ。無気力だった人間を、生き返らせただけ」


「そんなこと言っても……」


「それに言ってるでしょ?明里の業は、私もずっと一緒に背負うって。だから、もう泣かないで?」


紫暗は明里の涙を拭い、その唇に口付けを落とした。窓から差し込む光が二人を包み込み、まるで世界から切り取られたような二人の世界を作り出した。


キスは明里の嗚咽を止め、静寂だけが二人の間を支配する。流れるように、紫暗は明里の服に手をかけた。明里もそれを見て、身体を紫暗に預ける。


『逃げられないなら、共に背負う』、『忘れられないなら、忘れさせる』。その愛情を込めながら、紫暗は一つ一つ明里の軍服のボタンを外していった。


ソファーに沈み込む二人の、甘い時間。それは同時にどこか儚さをも孕んだような、そんな一瞬でもあった。

読んでいただきありがとうございます!!

やっぱね、こういう百合が一番尊い。共依存は神。

ブクマや評価は創作の励みに、感想は改善の際の参考になるので、やってくれたらクソ喜びます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ