静けさの裏側
2話!!激メロ女の片鱗が……
次で出てきます!!
軍に入る。あの決断をしてからの日々は急速に早送りになった。学校では寝ているだけということを加味しても速く、気づいたら視界は雨模様から桜並木へと変わっていた。
「いよいよだねー、鏡。僕の人生で、まさかほんとに軍に入っちゃうなんてびっくりだよ」
「びっくりできるくらいがちょうどいいでしょ。驚きも雑音もない人生なんて、面白くないじゃん」
「それもそうだね!!僕は鏡と一緒にいられればいいし」
高校まで、凛とはずっと一緒に近所の道を歩いて登校してきた。その道が、今日から変わる。決まりきったループは再生中止して、新しいものへと鞍替えだ。
「にしてもさぁ、鏡よく家族の許可おりたよねー。僕の家は基本放任主義だけど、鏡のおうち厳しいじゃん」
「あ、いや全然許可降りてないよ。なんならすごい怒られて学費出さないって言われたし」
「…………へ?」
「まあ、めんどくさいよね。だからとりあえずあの日から株とか色々やって、一応前金と二年分の学費と家賃は稼いだんだ。ここ国立だから安いし楽勝だったよ」
「なんか、鏡ってほんとに……色々おかしいよね、うん。やっぱり結婚したら僕養ってもらう予定だから、よろしく」
凛はげんなりした表情でこっちを睨んでくる。別にやろうと思えば凛も出来ると思うけどな。
そうやって他愛もない話をしているうちに、周囲の人間がどんどん増えていった。ついさっきまで見えていた横の桜並木が、今は人の波で見えない。
そしてそびえ立つような大学の門の前にたった時、その門ですら姿を隠してしまうくらいに、人だかりは大きくなっていた。
「え、これもしかして全員軍の入学者?物好きも多いもんだね」
「うーん、多分あれじゃない?ほら、条件緩いし今軍とか多分仕事ないし、遊びに来た連中ばっかなんだよ」
確かに、『軍』と名前の威圧感は凄まじいものの、書いてあることといえば「18歳以上、全寮制」のみである。まあ名前を見なかったらただのゆるゆるお遊び大学だ。
でも何故だろう。私から見たらこの学校はお遊び大学だには思えなかった。名前を抜きにしてもどこか不思議と漂う不気味さや、えも言えない胸のざわめきが、それを許さなかったから。
人の波に流されるように校門をくぐると、目の前にはもっと異様な光景が広がっていた。広大な敷地、その一面に綺麗な最新設備が立ち並ぶ中、正面で入学者に紙を配っている何十人もの大人たち。
この膨大な情報量に私でも少しびっくりする。それに、配っている人達の顔は一切笑っていなくて、いわゆる“新入生歓迎会ムード”でないのは明らかだった。
「これ、ホールの各席にペンが置いてあるんで。入学式前に自席でサインしておいて下さい」
「はい、分かりました」
凛も私も紙を受け取り、みんなが吸い込まれていく巨大なアリーナへと歩をすすめた。圧巻と言えるほどのビジュアルとは対照的に、アリーナの中は普通の体育館チックな構造をしている。
だがあの外見の大きさに対してはあまりに狭すぎる、どう計算してもこの体積には合わない。建築の観点、軍事の観点、どちらから見たとしても空間を狭めることに理由があるだろうか。
私からすると答えは“No”だ。これには、やはりここには何かある、そう思わざるを得なかった。
「いやーにしてもほんとに人多いね。凛ちゃん人混み嫌いだからやになっちゃうよ、鏡慰めて~」
「はいはい、えらいえらいありがとね」
「えらい?ご褒美のキスは?」
「あるわけないでしょ、アホなの?それに、それどこじゃないことくらいわかってるくせに」
「……まあね、それはちょっと思ってた。なんて言うか、うーん、“狭すぎる”」
凛の目が一瞬で真剣な光を帯びた。やっぱり感じるよね、ただ狭いだけじゃない、不思議な不気味さを。だから今言葉に詰まったんだろうし。
しかし、そんなことも露知らず周りの人達はキャッキャ騒いでいるだけ。いつもと同じ、私達だけ違う世界を見ているかのようだった。
「まあ、細かいことは後々わかるでしょ。とりあえずこの紙にサインすればいいんだっけ」
「実は僕、さっきフライングでこの紙見ちゃったんだけど……やばいよ、これ」
「何が?」
「いや、書いてあることが観光地のバンジージャンプみたいなんだよね。死亡した場合一切の責任を~とか、守秘義務~とか」
「……私そういう長いつまんない文章読みたくないの知ってるでしょ。凛、要約お願い」
「おっけー。お嫁さんのために要約すると、ここは軍です死ぬかもしれない、嫌ならここで帰っても大丈夫、その場合返金しまーす。だってさ」
なるほど、道理で。反対のドアから出ていってる人も結構いるのはそういうことだったんだ。さすがにこんな文章見せられたら、帰りたくもなるだろう。それに言っているのが国立大学、言ってしまえば国なんだから尚更だ。
「ありがとう。まあそのくらいは覚悟しないとね、仮にも軍なんだし。私はただの脅し文句だと思うけど」
「ちっちっちっ、鏡、お礼の言い方が違うよ。そこは『私のためにありがとう、マイスイートダーリン♡』でしょ?マイスイート……」
「あ、入口閉まった。多分そろそろ式始まるよ」
「……はーい、凛ちゃんは黙りまーす」
その後すぐに、何人かの制服を着た大人がみんなの紙を回収して行った。そして全員分の紙が確認されていよいよ式が始まる。
一体どんなものを見せてくれるのか、どんなことを言ってくれるのか期待に胸が高鳴った。……が、始まったのは高校の時と同じような、形式的で凡庸で退屈な決まりきった言葉。
『兵器』とか『戦争』とかの、期待していたノイズは耳に入らない。ただただ授業みたいな退屈なお遊戯会がつらつらと続くだけだった。
(これが、“軍”?ほんとうに、あの紙の文言はただの脅し文句だったの?)
隣で既に凛は爆睡してるし、周りも少しづつ和やかムードへと移行していくのを肌で感じる。まあ、私みたいに何かしらの波乱を求めている方がおかしいんだけどさ。
その後も卒業式と似たような空気感で式は進行されて行った。途中から少しだけ空気が重苦しい圧を放っているよう気がしたが、ただそれだけだ。話の退屈さは何も変わっていない。
そしてついに、進行係が閉式を宣言してしまった。
「部屋割りは既に各自の携帯に送られています。それに従って、退出してください」
これを合図としたかのように、皆がザワザワと動き始めた。周囲の沸き立つような喜びムードに、なんだか少し息が詰まる。
これじゃあただのお遊び大学と何も変わらないじゃないか、なんだったんだあの衝動は。この時私は初めて、本当に人生で初めて、自分が馬鹿だったと唇を噛んだ。
「……鏡、落胆するのは早いって。まだ授業始まってないじゃん、カリキュラムは軍っぽくて面白かったよ?」
「うん、そうだね」
「凛ちゃんはずっと一緒だから、ね?」
俯いてる自分の足しかなかった視界に、凛の片足が加わった。自然と腰に回された手はいつもと違って気持ち悪くなくて、振りほどく気にはなれなかった。なんというか、振りほどいてしまったら倒れる気がしたから。こんなおぼつかない足じゃ、当然か。
◇
全入学者が退出してしばらくした後、進行役がどこかに合図を送る。すると途端に、アリーナの壁が後方へと倒れ始めた。まるで巨大なプレゼントボックスが開くかのように、ゆっくりと。それでいて、とても静かに。
「ふー、お疲れ様皆。やっぱりこの魔法を維持するのは疲れるね、何度やっても慣れないものだよ、全く」
アリーナの壁が開ききったそこには、鏡達が予測していたような巨大な空間が広がっていた。入学式の“アリーナ”を取り囲むかのように何人もの軍人が立っていて、そこに巨大な魔法陣を生み出している。
真っ暗闇の膨大な空間に、淡い魔法陣の光だけが薄く輝き、それがより一層不気味さを放っていた。
「たいちょー、もう帰っていいですか?全員の“魔力データ”取れましたし、クラス分けもやったしー」
一人の軍人が白髪の少女に声をかける。よほど疲れているのか、全身汗まみれである。
「あ、うん帰っていいよ。データはボクの端末にでも送っておいてくれ」
その言葉を皮切りに、立っていた軍人全員がその場に座り込んだ。帰る許可が降りた、それでもすぐには帰れないほどにみんな疲労が溜まっていた。
それに対して白髪の少女は、鼻歌混じりに携帯を取り出すと資料を読み始める。その額には汗の雫すらなく、透き通った白い肌が涼しげにあるだけだった。
「ん?この子の数値の尖り方、これは……いや、考えすぎかな」
少女は一瞬スクロールする指を止めたが、すぐにスピードを取り戻した。ただ一つの名前「佐倉鏡」だけを、その記憶の片隅に残して。
読んでいただきありがとうございます!!
いやーついにメロ女の影を出すことができました。この子書くためにこの小説書いてる。
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