動き出した崩壊譚
バトルや!!!!!!
ただこちらに歩いてきているだけ。
それなのに、私たちは何も行動を起こすことができなかった。
怖いとか、そういう次元じゃない。何か、今動くことを生物としての本能が拒否している、そんな感じだった。
「いい、あなた達……よく聞いて。私が近接をやる、佐倉さんは中距離と私のサポート、柳田さんは佐倉さんのサポートをして」
震えながら、それでもはっきりと東条はそう言った。戦略として妥当だ、この状況でよくそんな冷静に考えられるものだ。
「私が3つ数えたら突っ込む、佐倉さんは着いてきて。柳田さんは遠距離、いい?」
頷くしかない、それに頼るしかない。心臓の音、全員の呼吸、草の動き、そんなどうでもいい音ばかりが鮮明に聞こえる。
「3」
喉が鳴る、呼吸が早くなる。
「2」
額の汗をより強く感じる。吹き抜ける風が、まるで熱風のようだ
「1」
拳を握り込む。手汗が染み付いていてかなり気持ち悪い。敵を見据え、ついに構えを取った。
「0!!」
瞬間、東条が飛び出した。踏み込みで爆発のような轟音が鳴り響き、土埃が高く舞い上がる。
「へぇ、キミ中々速いね」
「ぬかせ!!」
対する白河明里は構えも取らずまだ歩いてくるだけ。だが東条が間合いに入っその時、その音は響いた。
まるで何か、世界が切れたみたいな音。それと共に空気が揺れ衝撃波を産み、後ろを走る私も足を止めさせられた。
「これを避けるか、いいねキミ!!」
だが、東条は既にそこにいなかった。高く舞い上がり、燃え上がるような炎を纏っている。
「炎か、いい出力だね。ボクには効かないけど」
「それは、どうかしらっ!!」
言葉と共に炎の槍のように東条が回転しながら下に落ちてくる。ここだ、ここに合わすしかない。
上空からの炎の槍、ならば地上を光で埋めつくせば避けられないはずだ。だけど威力を殺しちゃいけないから、ところどころ強いのを混ぜながら、広範囲に。
光属性、いきなり使えと言われても使い方は分からない。でも、白河明里に触れてからずっと胸にある感覚を信じれば、打てる気がする。
「東条!!合わせろ!!」
「私に命令するな凡才!!」
口ではああ言うが、東条は若干速度を落とした。今!!光なんて言うんだから最速であってくれ!!
「イメージしろ……とりあえずー、弾丸!!」
手を前に突き出すと、私の後ろからイルミネーションが現れた。一枚の布を形作るかのような、薄く広がった光の雨。
それらは私の視界を真っ白に染め、草原を切り飛ばして舞い上がらせる。
それと同時に東条の蹴りも着弾して、辺りに爆音が響き渡った。
「だーかーらー、効かないって。避ける必要ないんだよ、全く」
「なっ……木刀一本で……」
土埃が開けると、そこには木刀で東条を受け止める白河明里が立っていた。炎に対しての木刀だぞ。どうやってるか分からないけど、効いている様子はないし焦げた匂いもしない。
渾身の蹴りを軽く止められ、東条のサングラスの奥の目が揺らぐ。だが、これはチャンスだ。
片手が塞がっている今、今こそ最大火力をぶつける!!
「凛!!強いやつ!!」
「わかってるって、凛ちゃんは遠距離担当だからねっ!!」
凛が構えをとる。すると、白河明里の周辺に強い風が吹き荒れた。
「風か、キミは火力不足……」
「と、思うじゃん?東条ちゃん、離れて!!」
咄嗟に木刀を足場に、東条が高く飛んだ。
間髪入れず、白河明里は炎の竜巻に包まれた。
「おおっ!?嘘、二属性かい!?」
「鏡!!今のうちに強いの!!」
「はいはい!!」
さっき一人一属性と言っていたのに、凛は二つ使える。なんというかすごいな、不思議と横顔もかっこよく見える。
やっぱり凛も天才なんだな。私も、負けてはいられない。この竜巻を無駄にしない為にも、トドメの一撃を出さないと。
強い光、と言うとやっぱり波の干渉だろう。なるべく計算して光を強め合わせろ、最大威力に。それでいて、なるべく発射口を狭めて広範囲に!!
両手を前に突き出すと、半径だけで私の身長くらいありそうな極太のビームが飛び出した。
そのまま光はソニックブームを出しながら進み、確実に炎の竜巻の中を捉えた。
「やった!!」
「いやー、凄い凄い。初めてでこの出力が出せるのかい?紫暗はいいセンスしてるねー、いい子達だ」
「っ!?」
声が、響いた。それも、“真後ろ”から。
竜巻はずっと出ていた、隙なんて無かったはずだ。人間なら、あの中を突っ込めるわけもない。
「凛っ、逃げ」
声を出し切る前に、凛が倒れた。
音すらなかった、何も分からなかった。
音を出さない、すなわち空気を揺らすこともなく動く。
人間にそんなこと可能なのか?
少なくとも私は凛から目を逸らしていないのに、凛が勝手に倒れたようにしか見えなかった。
「あれ食らったらボクでもやばいかもね、ボク防御の方は自信ないし。まあ、避けちゃえばいいんだけどさ」
「佐倉さん、私に合わせなさい!!超近接なら直線的なスピードは出ない!!」
「わ、わかった!!」
ビビる暇もなく、竜巻の傍から戻ってきた東条と共に突っ込む。連打、蹴り、併せの打撃。全て木刀と最低限の体の動きだけで避けられ、一撃も当たらない。
「速いね、ここまでの格闘技術を二ヶ月でか。ボクがキミ達くらいの歳だった時は……っ、お姉ちゃんに甘えてただけだったなぁ、すごいね」
喋る余裕すらあるのか、この打撃の雨の中で。そんなのどうしようもない、これが最高速度だ。
瞬間、腹と首に激痛が走る。的確に急所を撃ち抜かれ、骨が軋む音が響く。さすがに立っていられず、重力に身を任せその場に崩れ落ちた。
息ができない、酸素が足りない頭じゃ思考も回らない。全身に響くような痛みと逆流する胃液。もう起き上がることなど出来なかった。
「キミは特にいい動きするねほんとに、経験者?」
「この私を、あまりっ、舐めるな!!」
「キミごときが“この”は、まだ早いよ。ボクくらいにならないと最低……ねっ!!」
「ガッ!?……ゲホッゲホッ、ゲホッ……」
東条も崩れ落ち、ついに全員が戦闘不能になった。皆汗にまみれ、地面に這いつくばり、荒い呼吸音だけを認識している。
焼け付くような痛みと、むせ返るような息苦しさが、私たちから立つ気力を奪う。木刀じゃなかったら全員死んでた、絶対に。
そんな中でも一人だけ汗ひとつかかずに涼しげにしてるこの白河明里は、やっぱり化け物としか言えない。
「いやー、想像以上だったよ。魔法初心者、戦闘初心者とは思えないね~。ね、紫暗?」
「うるさい、カッコつけないでバカ明里。そんなことしても浮気は許さないから」
「ほんとに?紫暗、ボクに惚れ直してくれないの?」
「…………惚れ直した、けどさ。意地悪……大好き」
ぼやける視界と、霞む聴覚が、かろうじてそんな会話を捉える。あれだけのことをして、私たちはこんななのにイチャついてるのか?
余裕すぎる、異常なほどに。本当の戦場でもこうしているみたいな自然さだ。
格が違う、あまりにも。確かに私が戦い初心者だと言うのもあるだろう。でもそれよりも、何か生物としての格が違う気がした。
だけど、それでこそだ。それでこそ、私がここに来た意味がある。
挑むなんて初めてだ、勝てないと思ったのも初めてだ。だから皆は楽しいんだなって思った、こういう感覚だったのか。
「でも明里、この子達治してあげて。いい加減すごい辛そう」
「あ、そうだねごめんごめん
アンチリデア・スピリタス」
身体が暖かい光に包まれ、心に安らぎを感じる。まるでのどかな朝日に包まれているような、そんな感じ。
目のぼやけも治り、気持ち悪さももうない。耳は再び、草の揺れる音や風の吹く音を捉えた。
あの怪我が治った?一瞬で?現代医療のどの論文にもこんなこと書いてなかった、医療界の革命じゃないか。なんなんだこの人、本当に。
「キミ達、よく頑張りました。さすがは紫暗の教え子だね、感心感心」
「いや、ほんとに……もう無理僕おうちに帰りたい……」
「ダメだよ?キミ達合格だから、これから追加訓練だしね」
その言葉を聞いた瞬間、元気なはずなのに視界がぼやけ始めた。呼吸も苦しいし、立っていてフラフラする。
お願いだ、帰らせてくれ。凄く楽しかったけど、正直もう嫌だ、疲れすぎて戦いを楽しめる気すらしない。
「明里もしかして……」
だが、今度は紫暗先生までも顔が青ざめた。いつもの雰囲気からは想像できない、必死で止めるような視線を白河明里へと向けている。
「そのもしかして、かな」
「ダメ!!まだ早すぎる!!」
「ダメじゃない、紫暗。この子達は多分将来軍を背負う。なら、今がベストだ」
そして白河明里の放つ雰囲気も、再びナイフのように鋭く重苦しくなった。まるで息をする度に喉が切れるようだ。
「キミ達の追加課題、それはボク達零特の夜間任務に着いてくることさ。そして大事なのはそこで……」
紫暗先生は白河明里に再び止めるような視線を送る。だが、白河明里は首を横に振った。
嵐の前の静けさ、とはこの事だろうか。風はもう止み、草の揺れる音は聞こえない。ただ呼吸音だけが、静寂を支配していた。
「人を一人、殺してもらう」
自分の喉が鳴る音、目が乾く感覚。多分私は一生この感覚を忘れない。そして一生恨み続けるだろう。
この、運命が動いた日を。
読んでくれてありがとうございます!!
なんというか、今までの百合百合学園(?)ものから一区切りついた感じですね。こっからが描きたかったものかな、多分。
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