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SparkingHeros ~聖獣の子守歌~  作者: 如月霞
第一章 出会いと旅立ちの序曲
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出会いと旅立ちの序曲 その7

 少年は、魔獣の森(まじゅうのもり)の南に位置する崖の上にいた。そこには、何かある度に訪れている、彼にとって大切な場所だった。それは、彼にとって全ての始まりの場所だったからかもしれない。けれど、彼はそれ以外にも何かを感じ、別の理由があるような気がしていた。


「………」


 そんな崖の上で、ボーッと景色を眺めているだけだったが、そんな時間が好きだった。


「また、ここに来ておったのか」


 ふと聞き慣れた声がすると、森の中からメルキドが顔を出した。


「まぁな」


 軽く答えた少年は、視線を移すこと無く、ただじっとその景色を見つめていた。


 2人にとって、ここは思い出の場所だった。メルキドが、少年を迎えに来てくれた場所であり、迎え入れてくれた場所でもあり、あの言葉を少年にかけてくれた場所だった。


「あれから、もう半年になるんだよな」


「ああ……長いようで、早かったのぉ」


 あの日から、少年はメルキドからあらゆることを学んできた。

 この世界の常識や知識、身を守るための剣術と体術、魔法と呼ばれるものの存在と力、魔獣の生態と恐ろしさ、そして多くの国が存在すること……たくさんのことを学び、たくさんのことを肌で感じてきた。毎日が勉強で、毎日が充実していた。そんな日々だった。


「ヒロ……おぬし、これからどうする?」


 メルキドは、少し考えてから、意を決して少年に尋ねた。


「どうするって?」


「言ったはずじゃ、わしは旅に出ようと思っておる」


 その言葉は朝と同じだった。今朝になって、メルキドは急にそんなことを少年に告げたのだ。彼が朝起きると、すでに支度を始めており、昨日の少女もいなくなっていた。少年には、なんのことかさっぱり分からなかった。ただ、旅に出るとそう告げただけだった。そのせいで、今日一日何をやっていたかさっぱり覚えていない。


「わしもこの年じゃ、おそらくこの旅が最後の旅になるじゃろう。下手すれば、もう帰ってはこれんやもしれん」


 その言葉は、メルキドの死を意味していた。

 確かに、少年も薄々とは感じていた。メルキドも若いわけではない、良い歳といえば変だが、地球の物差しでも老人に分類される歳だ。今旅に出れば、どんなに強くともいつか負けることがあるだろう。それは、仕方がないことだと割り切らなければならない。


「じゃから、あの小屋はお前にやろう。金も少し残しておく」


 淡々と話を続けるメルキドは、少年と同じく崖から見える壮大な景色をジッと見つめていた。

 視界いっぱいに広がる森と、少し遠くに小さく街が見え、遠くには大きな平原と地平線、そして森を囲む山々が広がっている。そんな景色が、ゆっくりと沈む太陽と共に、朱に染まっていく。


「………」


 少年は、何も言い返せなかった。

 いや、何を言ったら良いのか分からなかったというべきかもしれない。


「……ヒロ」


 そんな少年に、メルキドはその名を呼んだ。

 それでも、少年は何も答えることはない。自分でも何をしたいのか分からない。けれど、どこかで待っているのかもしれない、この場所だから、あの想い出の場所だから、きっと……


「一緒に来るか?」


 それは、あの時と同じ言葉だった。


「ばーさん、俺はこの世界に来てたくさんのことを学んだ」


 なぜか、その言葉を聞いたとき、胸がざわめいた。待っていたのは、この言葉だったのかもしれないと思えてきた。そう、彼は……


「けど、もっともっとたくさんのことがあるような気がするんだ。だから、俺はこの目でこの世界を見てみたい」


 そう答えた。


「そうか。なら、一緒に来るか?」


「お供するぜ、ばーさん」


 小さく笑みを浮かべて尋ねたメルキドと、満面の笑みを浮かべた表情で答えた少年。そんな2人を、沈み行く夕日は優しく照らし続けた。これで最後になってしまうかもしれない、思い出の美しいこの光景を、彼らの目と心に焼き付けられるように……





 翌朝、少年は少し大きめな革袋を肩にかけると、大きく息を吐いた。予想以上に重くなった革袋が、肩にドシッとのしかかってきたからだ。


「予想より重くなったな」


「仕方あるまい、最低限の荷物じゃ」


 そう言いながら、メルキドもさほど変わらない大きさの革袋を肩にかけて立ち上がった。決して軽くはないはずだが、少年が見ると、妙に軽そうに見えるのはなぜだろうか。


「それより、そろそろ出発するぞ。ほれっ!」


 軽々と投げられた剣を右手でキャッチすると、ズッシリとした重みが腕に伝わってくる。

 今までは、練習用として見ていた剣が、急に頼りがいのある強い剣に思えてくるから不思議だ。手にした重みもなんとなくいつもより重く感じるが、さすがにそれは勘違いだろうと自分自身の考えたことに苦笑した。


「それで、これからどこを目指すんだ?」


 そして、2人は小屋の扉を開いて外へ出ると、少年はとりあえずの目的地を尋ねた。


「まずは、”セレモニ”で準備を整えるぞ。手持ちの金も少ないし、そこで仕事を探して旅の資金を手に入れなければなるまい」


 メルキドの言葉に、思わず納得してしまう。確かに、旅をするにも経済的な面は重要だ、食う寝るだけでも必ず金が必要になるものだ。


「………」


 そんな事を考えながら、少年はふと振り返った。


「どうした、やはり名残惜しいのか?」


 メルキドの後を追うように歩きだそうとした時、何故か後ろを振り返ってしまう自分がいた。そんな少年の姿に気づいて、メルキドはそう尋ねた。それは、彼女にとって大切な言葉だった。


 少年にとって、その山小屋は第二の故郷にある家、色々な思い出が詰まった大切な場所、だからこそ、振り返ってしまったのだろう。


「うん。けど、良いんだ」


 少年は、愛すべき我が家を見つめながら、そう答えた。そして、自分の胸が高鳴ってしかたないことを、隠すことなくすがすがしい程の笑みを浮かべる。ドキドキとワクワクが止まらない、昨日の夜もあまり眠れなかったくらいだ。そんな最高の気分を感じながら、少年は……


「ありがとう」


 そう山小屋に向かって告げると、再び前へと振り返った。それは、全ての感謝と思いを込めた言葉だった。だからこそ、もう振り返ったりはしない。そう、心に堅く決めた。


「そうか……」


 そんな少年の姿を見つめながら、メルキドは僅かに笑みを浮かべて呟いた。自分の育てた弟子が、騎士見習いとはいえ旅立とうとしている、そんな姿が少しだけ誇らしく思えたのだ。だからこそ、今は寂しさを打ち消すように出発を告げよう、そう考えたからこそ、彼女は大声をあげた。


「よし、行くぞ!」


「ああ、行こう!」


 そして、少年もまた大声で答えると、2人は歩き出した。

 そう、それは異世界から来た少年と老騎士メルキドの旅の始まりを告げる朝のことだった……






To be Continued...

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