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SparkingHeros ~聖獣の子守歌~  作者: 如月霞
第一章 出会いと旅立ちの序曲
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出会いと旅立ちの序曲 その5

 季節は流れ、少年とメルキドの出会いから、1年が経ようとしていた。




 静かな森の中、響く金属音と飛び交う火花と共に少年はいた。


「何をやっておる。その程度では、到底わしには勝てんぞ?」


 少年が振り下ろした一撃を、剣の腹で受け止めて、メルキドがにやりと笑みを浮かべた。しかし、彼もまたやられてばかりではない。


「いつまでも手が出ないと思うなよ! アーヴァイン流剣術”走撃(そうげき)”!」


 少年は、止められていた剣を引き抜くようにして、相手の剣と交差させたまま下へ走らせると、今度は剣が防御の内側に入ったのと同時に、勢いよく上に跳ね上げて、首元めがけて突きを繰り出した。走撃と呼ばれる体術の1つで、メルキドから教わった剣術技の1つだ。切り替わりのタイミングが難しいが、決まれば避けるのも受けるのも難しい一撃になる。


「ほれっ」


 難しいはずの一撃だったが、メルキドはそのまま仰け反って交わすと、後ろへ倒れ込んだ。それを見た少年は、すぐさま追撃しようと彼女の姿を追い続けていた。日頃の鍛錬で、少年が勝てる確率など無かったのだから、こういうチャンスは逃さないと一気に攻めに出たのだ。


「今日こそ貰ったぁ! アーヴァイン流剣術”雷撃(らいげき)”!」


 今度は、勢いのついた剣から左手を放し、剣の柄に上から乗っかるかのように体重をかけて振り下ろす一撃。雷撃と呼ばれる体術に全てを賭けた少年は、そのまま倒れ込むかのように勢いよくメルキドに襲いかかった。

 自分の重心も崩してしまう為、少々リスクがあったが、それでもこれなら取れると確信していた少年だったが、物事はそう上手くはいかない。


「そうはいかんぞ」


 今までにない程の激しい金属音が響いたかと思うと、少年の一撃は、見事に剣の腹によって止められてしまっていた。しかし、本来この勢いでの一撃なら、そのまま押し切れそうなものだが、なぜか壁にでもぶつかったように軽々と止められてしまう。


「今度はこっちの番じゃ、アーヴァイン流剣術”咆撃(ほうげき)”」


 そう言うと、メルキドの周りに僅かな風が吹くと同時に、鈍い衝撃音が響き、少年はまるで爆発にでも巻き込まれたかのように、剣ごと弾き飛ばされていた。こうなると、彼の体勢は無茶苦茶だ。この隙を、彼女が見逃すはずがなく、すぐさま蹴りが飛んできた。


 左右の蹴り、どちらが来るかを悩んだ一瞬の隙に、メルキドの右足蹴りが飛んでくる。半分体が浮いた状態の少年に避ける術は無く、まともに食らい、2~3回地面に跳ねながら叩きつけられた。

 しかし、これで諦める少年ではない。転がりながらも体勢を立て直すと、すぐさま次の一撃に備えようと、剣を構えていた。


「お終いじゃ、ヒロ!」


 次の瞬間、突然目の前にまで迫ったメルキドの姿が少年の視界に入り、すかさず防御の構えを取るが……次の瞬間!?


「なっ、なんだ?」


「なっ、なんじゃ?」


 大きな爆発音が辺りに響き、2人の動きは同時に停止していた。

 なんとも情けない声で、同じような台詞を口にして、キョロキョロと辺りを見渡すが、特に目に入る範囲には何も確認できない。そもそもが森の中、そんな場所で手合わせ中だったのだから、それほど視界は開けていない。それでも、見上げると木々の間から見える青空には雲1つ無く、何かおかしな様子は見当たらない。


「ばーさん、今の爆発音」


「分かっておる。かなり大きかったが、魔法が発動した様子は無かったし、火薬などこの森の中にはないしのぉ」


 かなり大きな音だったことから、選択肢は限られてくるが、こんな森の中でそれらが使われる可能性は極めて低かった。そもそも、この森で起きる大きな音など、魔獣同士の縄張り争い程度しかない。そんな縄張り争いなら日常茶飯事だが、それだとしてもこれほどの爆発音はそうあるものではない。ここまでの音だとすれば、超大型の魔獣だろうが、超大型の魔獣は数も少なく、超大型同士の喧嘩など、そう起きるはずもないのだ。そんなことを考え、原因を思い浮かべてみるが、答えなど出るはずもなかった。


「気になるのぉ」


 少し考える様な素振りをして少年を見ると、メルキドは何か決めたかのように小さく頷くと……


「ヒロ、ついてこい!」


 そう告げて、訓練用の剣を納めて走り出した。慌てて少年も後を追いかけるが、辺りは、木々の立ち並ぶ森の中、視界も遮られて悪く、地面も綺麗な平坦ではない。その中を、できるだけ早く走り抜けていく。


高見の丘(たかみのおか)に出るぞ、あそこからなら何か見えるやもしれん」


 メルキドが指示した目的地は、近くの小高い丘の上だった。正式な名称があるわけではなく、ただ自分達がつけた呼び名で、この一帯を軽く見渡せる為に名付けた名前だ。しかし、音がした方向を考えると、丘は逆方向になる。


「爆発音から遠ざかることになるんじゃ?」


 そこまで少年が言いかけたところで、今度は2度目の爆発音が響いていた。正確な場所まではわからないが、明らかに先ほどと比べて音が大きく、近づいてきたような気がした。


「移動してる?」


「ああ、間違いなかろう。爆発音は移動しておる。ならば、なお更、高見の丘に出た方が状況を掴みやすかろう」


 目標が移動していると考えると、見晴らしのよい場所に上がるのは良い方法と考えられた。だからこそなのか、メルキドは自慢げに胸を張って嬉しそうな表情を見せてくる。少し勝ち誇ったかのような表情に、少年は納得がいかないという表情をして、彼女を見つめた。

 そんなことをしつつも、2人は高見の丘へと急いでいた。


「ばーさん、一体何が起きてるか想像はつくのか?」


「いや、全く想像もつかんな。一体何が暴れておるのか? それ以前に、あんな爆発音を出せる魔獣など、あまり想像がつかんが……」


 そんな事を話しつつ、真剣な表情で木々を避けながら森を突っ切っていくメルキドと、その後を必死に追いかける少年。2人が心配を胸に駆けるその間に、辺りには3度目の爆発音が響いていた。


「やばそうだぜ、ばーさん!」


 少年が先を行くメルキドに話しかけたところで、だんだんと地面が上り坂になっていく。そして、少し急な坂道になったかと思うと、いきなり森を抜けて蒼空の下へと放り出された。そう、高見の丘は、麓部分しか木々は無く、丘の上は広い草原になっている。そのため、辺りが綺麗に見渡せるようになっていた。


「どこじゃ、どこで爆発が起きておる?」


 丘の上を目指して走りながらも、辺りを見渡しているメルキド。そして、少年もキョロキョロと辺りを見渡して、音の発生源を探していた。この丘から見えないほど遠くではないと考えていた2人は、必死に辺りを探すが、炎が上がっている様子は無かった。


「一番上まで来たけど、変わった様子は……」


 丘の頂上まで登ってきたところで、改めて辺りを見渡して見るも、それらしい光景は見当たらない。超大型魔獣同士の争いなら、周辺の木々はへし折られているだろうし、火が使われれば燃えている炎が見えるはずだ。しかし、辺りはいつもの森と変わらないように見えた……そんなとき、4度目の爆発音が響き、一瞬煙が上がる。


「あれだ! 煙ってことは炎か、魔法?」


「違う、色が黒く濁りすぎておる。あれは、火薬じゃ!」


 少年の考えを、メルキドは的確に訂正すると、お互いに顔を見合わせた。その答えを聞いたとき、考えは最悪の原因を連想させる。


「人が居るってことか!?」


 少年の言葉に、メルキドはうなずいて答えると、すぐさま煙の上がった方向へと走り出した。それを追いかけるように、彼も急いで丘を駆け下りていく。

 黒く濁った煙は、確かに火薬を使った煙だが、それは同時に人が火薬を使ったことを意味している。そして、火薬を使わなくてはならない状況だということであり、この森の中でそんな状況は、何かに襲われていることを意味していた。それが魔獣相手なら、尚更、襲っている魔獣以外にも伝染して森中が大騒ぎになってもおかしくは無い。


「やばいぜ、ばーさん」


「分かっておる。ヒロ、お前は南の崖側から回り込め。わしは北の方から回り込む」


 そう少年に指示すると、メルキドは一気に速度を上げて丘の坂道を駆け下りていった。対する少年は、僅かにブレーキをかけながら駆け下りていく。全速力で坂を下りる様な、人外な芸当をできる程、少年は人間性を逸脱していなかった。


「早くせんか!」


 メルキドの怒鳴り声が響く。無茶言うなよ……なんて口が裂けても言い返せないが、とにかく極力急ぎなら、猛スピードで駆け下りていく彼女の後ろ姿を、追いかけた。


「ばーさん、音が動いてたけど、こっから南側の崖で良いのか?」


 先ほどの爆発音と煙の場所を考えると、少年が想定していた方角と少し違っていた。それを考えれば、一方向へ向かっている訳ではなく、おそらくは逃げ回りながらあちこちへと進んでいるのでは、と考えた少年が前を走るメルキドに尋ねると、すぐさま大声で答えが返ってきた。


「大丈夫じゃ、あの爆発音の方向と距離、それからさっきの煙、それらを考えれば、目標の道筋ぐらいなら見当がつく」


 本当か? なんてツッコミをいれてやりたくなるのを我慢して、少年は、メルキドの言葉を信じて、彼女とは逆方向へと走りだした。


「本当に大丈夫なのかな?」


 1人になると、急に不安が湧き起こり、そんな言葉が口から零れた。

 とりあえずは、速度を落とすことなく森の中を走り続けてはいるが、丘の上から見たのはあくまで煙だけ。一体何が爆発しているのか、何に使っているのか、誰が使っているのか、何一つわからないまま、メルキドの言われたとおりに、南の崖へと向かって走り続けている。


「っとと、森を出ちまった」


 急に視界が開けたかと思うと、目の前に巨大な壁がそびえ立っていた。それが、南の絶壁、メルキドの言っていた崖のことだ。この魔獣の森を、南北に大きく裂く巨大な崖である。

 とりあえず、目的地に辿り着くと、そのままボーっと立っているわけにもいかず、少年は、爆発音がした方角へ崖沿いを走り始めた。少しでも原因へと辿り着くために……






To be Continued...

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