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SparkingHeros ~聖獣の子守歌~  作者: 如月霞
第二章 盗賊団と騎士団歌
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盗賊団の騎士団歌 その7

 なにもないことを祈るなんて、日頃行わないようなことをすると、必ず何か起きるものである。嫌な予感は的中し、不穏な想像は実現するという、世の中はよくできており不思議なものである。


「さっきから、人の気配がずっとしてるんだけど」


「ああ。おそらく、盗賊じゃろう」


 少年は、視線を前に向けたままそう話すと、メルキドも彼に視線を向けることなくそう答えた。

 彼が気づいたのはほんの少し前だった。3人を追ってくるわずかな音と気配、はじめそれは、気のせいかとも思われたが、ここまでついてくると気のせいとは言えない。メルキドの言う通り、一番見つかりたくない者に見つかってしまったのだろう。


「リン」


「何、ヒロ君?」


 リンに声をかけると、こちらは至って呑気な顔をして訪ね返してくる。その表情を横目で見ると、少年は彼女が状況をきちんと理解しているのか疑問に思えた。


「来るぞ」


 そこへ口を挟むように、メルキドが小声で2人に知らせた。

 辺りは先ほどまでと変わらない少し下り坂の街道、右手は相変わらずの崖と下には激流が続く一本道、前にも後ろにも街道が続くだけ、そして左手には木々が茂る林になっており、奥の様子は見えない。


「どこから……」


 残念ながら、少年には、気配を感じることはできるが、正確な位置までは把握することができなかった。それが、彼の未熟な点だ。周りの状況から、林の中に潜んでいるのは間違いないとわかるが、木々の茂みが濃く、盗賊たちの姿を確認することはできなかった。だからこそ、メルキドへ問い返そうとしたのだが、それは寸前で遮られた。


「ヒロ! リン!」


 突然、メルキドの大声が響く。それと同時に、前方と後方の林から転げるようにして数人の男達が飛び出してきた。


「マジかよ、本当に出るかね」


「仕方あるまい」


 慌てて剣に手をかけると、少年は男たちに背を取られないように、崖側に背を向けて横目で男たちを睨みつけた。

メルキドとリンも同様に崖側に背を向けると、男たちを警戒しながら、それぞれの相棒に手をかけた。そこで初めて、少年は、リンが少し短めの細身な剣を隠していた事に気づいた。


「こいつらが盗賊?」


 少年は尋ねながら、男たちを観察する。鎧は着ていないものの、肌は一切出さず、革でできた厚手のコートのようなものを着込んでおり、頭にも黒い頭巾とマスクを身に着けて素顔が見えないように隠されていた。その姿は、まるでテレビに出てくる盗賊そのものだった。


「そうみたいね。このまま抜けられるかと思ったけど、やっぱり出てきたわね」


 そう言いながら剣を構えるリンを見たとき、少年は不思議な違和感を感じていた。魔導師だと聞いていたが、その構えは剣士のそれであり、しかも隙を感じさせない一流のものだ。


「旅の者か?」


 そんな中、盗賊達の1人が尋ねてくる。


「そうじゃ、王都に向かう途中じゃ」


 その問いに素直に答えるメルキドだが、この時点でようやく1人が男であることを把握した。全員が、自分の性別がわからないように、厳重に着込んでおり、しかも身につけている衣装も全員が同じに作られている。体格の違いはあれど、似た体格の人物は、乱戦になれば把握するのも難しくなるだろう。

 そんな中に1人だけ違う格好の人物がいた。その男だけは、黒いマントと青い頭巾とマスクを身に着けており、メルキドに話しかけ、自分が男であることを明かしていた。おそらくは、この男がリーダー格なのだろう。


「そうか。悪いが、金目の物は全部置いていってもらおう」


 リーダー格の男は、そう告げて、わずかに重心を下げて腰に身につけていた短剣の柄に手をかけた。隙はなく、まっすぐにメルキド達を見据えて、タイミングを測っている。おそらくは盗賊達の中で実力はトップであろう。


「悪いが出来ぬ相談じゃな」


 そんな彼に向けて、メルキドが渋い台詞をさらりと口にする。


「そうなると、力ずくということになるが、後悔はないな?」


「言っておくが、わしらは強いぞ?」


 僅かににじみ寄りながらリーダー格が尋ねたが、メルキドはそれを突き返すように答えた。

 確かに、少年やリンはともかく、メルキドの実力は群を抜いているのは間違いなかった。それは、盗賊達を含めたとしても、彼女に敵うものは居ないだろう。しかし、その事実を感じ取っているものは盗賊達の中には居なかった。


「そうか。なら、仕方ないな」


 リーダー格の男がそう告げる。それは、この戦いが止める事ができないことを示していた。

 そんな中、少年はどうしても考えずには居られなかった。金がない、身体検査してくれても良い、と正直に話せば、許してもらえないかどうか。やりあえば、当然お互いに傷つく、下手すれば命を落とす可能性はわかっているはずだ。それなら、襲っても意味がない状況であれば、あえて戦う必要もなくなるかもしれない。そう思えたのだ。


「ちょっと待ってもらえな……」


「やれ!」


 少年が切り出すのと同時に、リーダー格の男が盗賊達に指示を出していた。次の瞬間、盗賊達は一気に武器を構えると、3人に飛びかかっていた。


「どわぁっ!」


 一気に距離を詰められて、少年は思わず情けない声を上げながら、体を右にひねるように盗賊の一撃を交わした。寸前のところで、頭を目掛けて振り下ろされた一撃は空を切り、さっきまで少年が居た空間を真っ二つに切り裂く。しかも、続けざまに斜め下から切り上げるように振り上げられ、その一撃を咄嗟に抜いた剣で受け流すと、少年は一歩下がって距離をとった。


「話聞けよ、おいっ!」


 少年は怒鳴りながら、片手で握られていた剣を両手で持ち直した。相手は大人、腕力はどうしても少年よりも強く、1発受け流しただけで、その威力が少年の手に残る。しっかりと力を受け流さなければ、そのうち、力に押し切られてしまう。そう感じ取った少年は、更にもう半歩下がり丁度良い距離を調整した。


「ヒロ、ボサッとするでないぞ!」


「ボサッとじゃない、考えながら戦ってるんだよ!」


 今度は、メルキドの怒鳴り声が響くが、少年にはそちらを見ている暇などなかった。すぐさま盗賊が斬りかかってきたため、その一撃を受け止めると、次の一手を考え始める。相手のほうが力は強いが、少年も押し負けている訳ではない。なんとか力を振り絞り、均衡に保ち、押しも引きもできない状況を維持する。下手に離れれば、また斬撃戦になってしまい、そちらのほうが危険だと察知したためだ。


「いらぬ考え事などをやっておるからじゃ!」


 メルキドの言葉に、悪ぅございましたね、と言い返してやりたいところだが、流石にそんな余裕はない。相手は人間だ、魔獣とは違い相手の先を読んで行動しようと思考する者同士、より戦いが複雑になる。そしてなによりも、悪だとわかっていたとしても、相手は同じ人間、斬りつければ死ぬと考えれば、下手な行動はとれなかった。


「なめるなよ、小僧!」


 そんなとき、盗賊が不意に均衡を保っていた状況を破り、2人の重心が盗賊側へと傾いた。すぐさま、少年は重心を戻すと、咄嗟に半歩右側に下がると、隙をつこうと襲いかかってきた盗賊の一撃を軽く交わしていた。


「おわっとっ!? あぶねぇ」


 少年は、紙一重でかわすと、剣を構え直し重心の位置を戻した。予想以上に相手の踏み込みが大きく、顔面近くを銀色の光が通ったため、一瞬ヒヤリとした少年は、次は少し深めにかわそうと心に誓った。

 そんなことを考えても、結局は、状況は変わらず非常に悪い。反撃するわけにはいかないため、回避一辺倒となってしまうためだ。かわせない訳ではない、だが相手が命を狙ってきている以上、一撃一撃に緊張が走る、それに耐え続けるのは流石に厳しいものがある。


「ヒロ、もう1人そっちに行くぞ!」


 そんな中、メルキドの声が響いた。


「ちょい待ち! 無理、1人で限界!」


 少年の意見を聞く間もなく、いつの間にか後ろに1人の盗賊が構えていた。

 どう対処するか決めかねて考えている最中に、さらにもう1人である。大急ぎで頭を回転させるが、突然解決策が浮かぶわけもなく、少年は体勢を変えて2人の盗賊を交互に見ながら、彼らから離れるようにじわじわと後ずさった。


「その、なんだ……話しあおう」


 正直、2人を同時に相手にするなど、今の少年には難しかった。魔獣相手ならば違っただろう、斬ると決めている相手なら問題はない。しかし、人が相手では斬ることはできない、それでは少年の意識は多方面に飛び隙が生まれてしまう。その前に、少年はなにか答えを出そうと盗賊達に声をかけていた。


 何事も、話し合いで解決させることが大切だ。常に暴力をもって対処することは良くない、というもはやこの状況で通用するはずもない綺麗事を全面に押し出した考えに彼はすがりついた。けれど、それは決して良い選択ではないことを、今の彼は知らなかった。だからこそ、結末は残酷なものとなってしまったのである……






To be Continued...

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