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SparkingHeros ~聖獣の子守歌~  作者: 如月霞
第二章 盗賊団と騎士団歌
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盗賊団の騎士団歌 その6

 旅は道連れ世は情けとはよく言ったもので、リンを加え、3人となった少年とメルキドの旅は、ファンデル山脈へとやってきた。

 登山道と言うほどの険しさは無いが、王都へと繋がる街道は、緩やかな上り坂で、連なる山脈の間を縫うように進む道であった。


「ヒロ、あんまりボーっとしておると落っこちるぞ?」


「誰が落ちるか!」


 メルキドがそんな声をかけると、前を歩く少年は怒鳴り声とともに振り返った。冗談で投げられたであろう言葉だったが、振り返った先のメルキドは真面目な表情で少年を見つめていた。


「こんなに広くて落ちたら、それこそ馬鹿だろ」


 真面目な表情のメルキドに、少年は小声で呟くように愚痴をこぼすと、再び視界を前に移して歩き出した。

 そもそも、山間の街道と言っても道幅は10mはあるような大きな街道である。ファンデル山脈を抜けるように作られたこの道は、相応の交通量にも耐えられるように、しっかりとした広さを確保されていた。その為か、少年の想像とは大分違う道のりとなり、登山では無く街道を歩く散歩のような状況となってしまっていた。


「だから、お前に言っておるんじゃ」


 少年の小さな声を聞き取った地獄耳は、すかさずそう言ってくる。それを納得のいかないという表情で聞きながら、少年は口先まで出てきた文句を飲み込むと、右手側に見えている山々と森の広がる景色を見つめた。

 確かに、ファンデル山脈に入った後、しばらく進むと、右手側は崖になり、周辺の山々や下に見える森の景色が広がるようになっていた。今は、崖の下には川が流れており、少年が見た限りでは、結構な激流のように見えた。下手に崖側を馬車が走ろうものなら、誤って落ちることもあるだろう。


「まぁ、ばーさんの話は置いておいて、リンさんは……」


「ヒロ君?」


 少年がリンに尋ねようとした途端、その本人から声をかけられて、少年は彼女の方を振り向いた。


「リンって呼んでね」


 振り向いた瞬間、視界をリンの顔が埋め尽くすほど近くに迫ってきており、思わずビクッと肩を震わせて驚いてしまった。しかも、ニッコリと微笑んではいるが、声は笑っていなかった。


「……はい」


「うん、素直な子は好きだぞ」


 少年が引きつった表情で答えると、リンはいつもの澄んだ声に戻り、少年にそう話しながらゆっくりと離れていった。その瞬間、少年はメルキドと同じ感じがすると察し、あえて何も口にしないことにした。


「恐怖だな」


 小さな声で呟くと、少年は、生まれて初めて女性の恐ろしさというものを知った。そして、綺麗な女性であろうと、それがどんなに可愛らしい笑顔だろうと、真意が別にあると、あそこまでの恐怖を与えられるものなのだと学んだ。


 そんな事を考えながら、大きなため息をこぼすと、少年は辺りへの警戒へと意識を戻した。大きな街道とはいえ、山道であり、魔獣が出る可能性も十分ある。リンの様子を見た限りでは、魔獣程度にやられそうにないが、それでも女性である以上、自分が守る必要があるだろうと考えていたためだ。


「ばーさん、ここってオープルと王都を結ぶ街道なんだよな?」


 辺りを少し警戒しつつ、歩を進める少年が、メルキドにそう尋ねた。


「そうじゃぞ、それがどうした?」


 メルキドが答えると、少年はさっきから気になっていたことを口にした。この街道を歩き出して、比較的早い段階で気になっていたことだ。


「もっと人通りが多いかと思ったけど、そうでもないんだな」


 王都とオープルを結ぶ街道、それはファンデル王国でも1番の貿易路だと聞いていたが、共に王都へ向かう者も、逆に王都からオープルへやってくる者も見当たらない。ここまでの道のりで、1人もすれ違わない。異常な程、人通りが少なかった。


「いや、本来ならこの辺りはかなり人通りの多いはずなんじゃが……」


 少年の言葉に、メルキドも不思議そうな顔をして答えた。その姿を横目に見ながら、少年は辺りの気配に集中した。


「それなら安心して」


 2人が警戒を強めたタイミングで、リンが口を挟んだ。しかも、笑みを浮かべながら、口元に人差し指を当てて話しかけてきた。


「ここ最近、この辺りに盗賊が出始めてね。そのせいで、旅商人達が通らなくなってるのよね」


『なるほど!』


 リンの言葉に、少年とメルキドは納得した言葉をこぼすと、ちょうど重なってしまった。しかし、内容は人通りが無いのも納得できるもので、2人は緊張を解いて肩の荷を下ろすと……


『ぬぅあにぃ!?』


 大声を上げて、リンへと視線を向けた。


「だからね、あんまり人通りが多くないわけ」


 2人の視線を向けて、リンは可愛らしいポーズを取りながらそう話すが、少年もメルキドもそんな事を気にする余裕などなかった。


「盗賊が出るから、人通りが少ないだって?!」


「ええ、そうよ」


 さらりと冷静に返答されてしまい、少年は開いた口が塞がらなくなってしまう。普通の反応は違うだろう、盗賊が出るんだぞ、と問い詰めたくなるのを必死に堪えつつ、自分の衝動をどこにぶつけるべきか悩みながら、メルキドの方へと視線を移した。


「ファンデルの騎士団はどうしておるんじゃ?」


 今度はメルキドが(もっと)もなことを言い出した。確かに、王都へ向かう最大の貿易路に盗賊団が出れば、騎士団が討伐に出てもおかしくは無い。たとえ大規模な盗賊団だろうと、王国の騎士団となればすぐに片が付きそうなものである。


「それが、大神殿(だいしんでん)の方で厄介事を抱え込んでるらしくて、出兵が遅れてるわけ♪」


「笑顔で言うでない!」


 問いに満面の笑みで答えたリンを、メルキドは大声で怒鳴り付けた。しかし、リンは至って涼しそうな笑顔で少年達を見つめていた。


「ってことは、もしかして、盗賊団の巣の中にたった3人で踏み込んだってわけか?」


「そういうことね」


「だから、笑顔で言うでない!」


 またもや、メルキドの怒鳴り声が響く。もはや、漫才のやりとりにも見える内容だが、その中身は全く笑えない。

 突然のリンの加入に少し違和感を感じていた少年だったが、まさかこんなことに巻き込まれるとは考えてもみなかった。


「どうするよ、ばーさん?」


「わしに聞くでない」


 少年は、大きなため息をこぼすと、すがるような思いでメルキドにそう尋ねたが、返ってきたのは予想通りの言葉だった。


「じゃあ、どっちが近い?」


「進んだ方が近いが、戻った方が出会う確率は低いじゃろうな」


 今度は、王都とオープルのどちらが近いか少年が尋ねると、これも予想した中で一番最悪な回答が戻ってきた。結構進んでいた気がしていた為、少年ももしやと考えていたが、やはり進む方が近いという。しかし、今まで出会わなかったのだから、戻った方が危険性は低いと言えるが、当然盗賊しか知らない隠し通路があり戻っても出会う確率は十分にある。つまりは、どっちにしても絶対の安心はないということだ。


「どうする?」


「わしに聞いて、答えが出るとでも思っておるのか?」


 少年の再びの問いに、メルキドはあっさりと答えた。


「少なくとも、俺だけで考えるよりは良い答えが出る確率はあると思う」


「なるほど、確かにな」


 その言葉に納得しながらも、メルキドは腕を組んで考え込んでしまった。経験豊富なメルキドの意見を待つ少年だったが、答えは想定とは違う方向から返ってきた。


「とりあえず、進みましょう」


 そう言い出したのはリンだった。その言葉に、少年もメルキドもリンを見ると、先ほどとは違い真面目な表情を見せるリンの姿があった。


「リンさん、その根拠は?」


「ヒロ君?」


 少年の問いに、鋭い視線で睨みつけてくる。そこはもうどうでもいい気がするが、どうしても気に食わないのか、先ほどまでの能天気さもなく、辺りの空気を冷たく凍りつかせた。


「リッ、リンの話の根拠は?」


 少年は思わず訂正してしまった。


「私1人じゃないから」


 リンは、メルキドと少年を順番に見た後、自信ありげにそう告げた。しかし、それは根拠でもなんでもない、少年の問の答えにはなっていない。けれど、リンは再び、先ほどまでと同じ可愛らしい笑顔を見せた。


「さぁ、メルキドさん、ヒロ君! 先を急ごう!」


 そう言うと、元気ハツラツと歩き出したリンだが、少年ははじめの一歩が出せずにいた。そして、横目でメルキドを見ると、彼女の判断を待った。

 その視線に気づくと、メルキドは少し呆れた表情をしてため息をこぼすと……


「仕方なかろう」


「だろうな、そう言うと思ったよ」


 メルキドの言葉に、全てを理解した少年は、仕方ないという表情でリンの後を追って歩き出した。とりあえずは、何も起きないことを祈りながら……






To be Continued...

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