盗賊団の騎士団歌 その5
絶望する2人を見つけた彼女は、ゆっくりと少年達へと近づいていく。そして、少しだけ首をかしげながら、2人に話しかけた。
「何をやってるの?」
突然声をかけられた少年とメルキドは、えっ? と間の抜けた声を上げながら、視線を声のほうへと向けた。
「だから、2人とも何をやってるの?」
声の主が、再び問いかける。その人物は、少年にはどこか見覚えのある綺麗な女性だった。大きな黒い瞳と少し暗めの蒼色をした、腰近くまで伸びた長い髪、スラッとした彼女はお世辞抜きに綺麗な顔立ちをしており、街で見かければ誰もが振り返ってしまいそうなほどの美人だ。しかし、そんな綺麗な女性と面識があるなど考えられない少年は、思わず首をかしげてしまった。
「リン殿!?」
「あっ! 昨日の女の人!」
メルキドがその名を口にすると、少年も同時に昨日の温泉で見た女性のことを思い出した。
「ヒロ君、それ失礼だよ」
リンに注意されると、思わず苦笑いをして頭を下げる。確かに、名前を知らないならまだしも、メルキドに聞いており、しかも助けてくれた恩人に対して、昨日の女の人は失礼な発言だ。
しかし、よく考えると自分が名乗った覚えはない。なぜ少年の名を知っているのか、そこに疑問を持ち、メルキドの方へと視線を向けると……
「お前を運ぶときにわしが教えたんじゃ」
と、聞きたいことを悟ったメルキドから、あっさりと答えが返ってきた。助けてもらった立場からすれば、名前を知られていても当然と言えば当然だが、失態を見られ助けられた上、名前まで覚えられていると考えると、少年は思わず涙が出そうになった。
「それで、メルキドさん達は何やってるんです?」
「いや、ちょっと依頼を受けようと思ってな」
そんな悲壮感に包まれた少年をよそに、リンとメルキドはそんな話を始めた。正確にはすでに受けてあるのだが、内容を考えると請ける前にしておきたかったのだろう。
「へぇ、依頼ですか。どんな依頼を?」
「えっ!? あっ、いや……そのぉ~、のぉ?」
軽い気持ちで聞いたであろうリンの言葉に、メルキドは明らかに焦りながら、少年へと助け船を要求するかのように話を振ってきた。当然だが、彼にどんな答えを求めたかはわからない。
「100Gの荷物の配達」
「ハッキリ言うでない! 恥ずかしいじゃろうが!」
なので、はっきりと内容を答えると、すかさずメルキドが怒鳴り声を上げた。恥ずかしいなら、話を振らなければ良いだろう、とは思うがそれを言っても始まらないので、少年はその言葉を飲み込むと、メルキドを抗議の目で見つめた。
「んなこと言ってもしょうがないだろう、それ以外に誤魔化しようの無い内容なんだから」
「それはそうじゃが……」
少年が抗議すると、メルキドもバツの悪そうな顔をして、視線を泳がせる。少年は、そんなメルキドからリンへと視線を向けると、彼女の様子を窺うが、あんまり気にしてないようで、優しげな表情で2人を見つめていた。
「また、お遣いみたいな依頼を受けられたんですね」
そして、凄まじい威力の一撃を繰り出すと、まともに食らった2人は思わず視線をそらしてしまった。
「仕方ないんじゃ、わしとヒロだけじゃこの程度の依頼が限界じゃ」
メルキドが必死に弁明しようと話すと……
「そっか、ヒロ君はランク無しだったね」
あっさりと、リンが納得してそう返した。しかし、その言葉を聞いた瞬間、凄まじい早さで少年は、メルキドへと顔を向けると恐ろしい形相で睨みつけた。
「コラ待て!? ばーさん、そんなことまで話したのか!」
大声を上げた少年だが、その言葉が出るよりも早く、メルキドは凄まじい早さで少年から視線をそらし、明後日の方向を見ながら、わしは知らんという表情をして見せた。
「ばーさんには敵わないよ……」
思わずため息を零して、少年が諦めるとメルキドがチラリと横目で彼を見てくる。それに気づき、彼がもう一度視線をメルキドに向けると、それよりも早い速度で視線はそらされてしまった。
「まぁ、敵わんのは当たり前じゃな」
視線をそらしたまま、メルキドがさらりと言ってのける。少年はそういう意味で言ってるのではないのだが、説明すると長そうなので、あえてもう触れないことにした。
「それより、リンさんのこと、俺はさっぱり知らないんだけど?」
とりあえず、これ以上、自分の情けない部分から話をそらそうと、少年は気になっていたことを口にした。リンとメルキドは、昨日、少年を介助するのに色々と話していたが、少年は気を失っていたため、彼女のことを全く知らなかった。知っているのは、のぼせる原因になった女性、その程度だ。
「そう言えば、そうよね。じゃあ、とりあえずは自己紹介?」
リンの言葉に、少年が頷いて答えると、彼女は可愛らしい笑みを浮かべてうんっと頷き返した。
「私は、”リン=マリア”って言うの。よろしくね、ヒロ君」
「こちらこそよろしく……って、ばーさん、名前で呼んでたのか?」
リンの自己紹介を聞いて、少年は初めてリンが名前であることに気づいた。
この世界では、英語と同じく、初めに名前、後ろに名字と同じく家族の名が続くのだと習っていた少年は、普通親しい仲でなければ家族の名で呼び合うことを思い出した。
「ああ、それはじゃな……」
「私がそう呼んでってお願いしてたの。マリアって名前はちょっとね……正確には呼び捨てにしてってお願いしてたんだけど」
メルキドが説明しようとしたところを、リンが遮るようにそう説明した。それを聞いて、なぜ呼び捨てにしないのかと思い、少年がメルキドへと視線を向けると……
「まだまだ未熟者とはいえ、わしの弟子でもあるヒロの恩人じゃからな。敬意をはらってじゃ」
という、彼女らしい回答が返ってきた。
「さて、長々とここにおっても仕方ない。そろそろ行くか、ヒロ?」
「あっ、そうか。配達に行くんだった」
そして、メルキドはそんな事を口にして、少年に出発を促した。確かに、簡単な運送作業ではあるが、荷物を預かる以上、れっきとした仕事だ。できるだけ早く届けてやるのが良いだろう。
「お遣いね」
そこへ、リンが悪戯っぽく言いながら微笑みかけてくる。その姿は、少年もドキッとするほどかわいらしく、それでいて少し意地悪な所が、なんとも反則だと思えてしまった。
「じゃあ、私もお供して良いかな?」
『はいぃ?』
突然、何の脈略も無くリンが申し出た為、2人は同時に変な声をあげて尋ね返した。さすがにメルキドも予想していなかった様子で、怪訝そうな顔をしてリンの顔を見つめている。
「だから、私も一緒に言っても良いかな?」
「どうして?」
リンの言葉に、少年がもっともな問いを返した。
「だって、私は1人だから、旅するのも大変なのよ」
笑顔で答えるリンだが、確かに言いたいことはわかる内容であった。女性の一人旅、それは危険かもしれないが、それでもお供にしようとするのなら、相手を選ぶべきである。
「けど、うちのパーティは剣士2名で、金も無いし、ばーさんと俺だけだよ」
あっさりと少年は、このパーティの最大の問題点を並べた。次の瞬間、隣にいたメルキドが鋭い視線を向けてくるが、すかさず視線を明後日の方へと向けると、あえて知らないふりをしてみせる。
「良いの良いの、メルキドさんとヒロ君なら安心だし、それに凄く強そうだからね。とりあえず、王都に行ければいいから、そこまでご一緒させてくれないかな?」
チラリとメルキドの方を見ながらそう話すリンに、メルキドは少しだけ視線を細めたが、あえて何も言うことは無く、小さく頷いて答えた。
「ばーさん?」
「まぁ良い、どうせ王都へ向かう予定じゃし、荷物も王都への配達じゃ」
少年がメルキドに尋ねると、彼女はそう答えていた。幸運なことに、少年達の目的地も、荷物の届け先も、どちらも王都であった。しかし、その都合の良い展開に、少年は少し違和感を感じていた。
「それじゃあ、私も一時的にパーティに加えて貰うってことで良いかな?」
そんな少年の違和感はさておき、リンはまた悪戯っぽく微笑むと、少し首をかしげるようにして少年とメルキドを上目遣いで見つめてくる。そんな姿に、ちょっとだけ意識しながらも、少年は不思議な違和感はさらに大きくなる。
それは、リンがシスターであり、魔導師であり、そして……
「じゃあ、これからよろしくね!」
そして、彼女が剣術使いが身につける、軽量鎧を身につけていたからだった。
To be Continued...




