盗賊団の騎士団歌 その4
ギルドと呼ばれる機関は、全ての国々とつながり、国家間を超えた巨大な組織である。しかし、その街々で規模や雰囲気は違い、様々である。そして、そこにある依頼も、周辺の人々からの依頼や、国からの大規模な依頼まで、様々なものが揃っている。つまり、街の規模や状態からもギルドの依頼が大きく変わってしまう。
「これはまた、この街のギルドはずいぶん整ってるな」
オープルのギルドへとやってきた少年のこぼした第一声はそんなものだった。セレモニに比べると、天と地の差があるほどしっかりと整えられており、受付を行うカウンターには女性の受付嬢が立っており、壁の掲示板には沢山の張り紙が貼ってある。セレモニで植え付けられた無法地帯なギルドイメージが、一瞬で吹き飛ばされた。
「ファンデル王国は、南北で大きく分かれるからな。南を管轄する最大のギルドが、このオープルのギルドじゃ」
「なるほどね、通りで綺麗なわけだ」
メルキドの言葉に納得しながら、ギルドの中をキョロキョロと見て回る少年。清掃もしっかりと行き届いており、床や壁も木ではなく煉瓦や石のタイルが使われ、随分と金のかかっているのが想像できる。観葉植物らしい木々まで並べられており、清潔さや見た目の良さもしっかりとアピールされている。
「この街には、王都より派遣されてくる騎士団などもあるくらいじゃからな。他の街のギルドに比べ整理されておる、そのおかげで大きな仕事なども受けやすいんじゃ」
街の規模もそうだが、王都によりしっかりと管理・制御されている南の拠点と言われ、ギルドの質もダントツに高い様に思えるのはそのせいなのだろう。セレモニのギルドを酒場と例えるなら、オープルのギルドは銀行の様な雰囲気を漂わせていた。
「さて、問題はどんな依頼を受けるかじゃな」
「金が稼げるやつ」
その言葉に、即答で少年が答えると、メルキドは目を細めて呆れた顔をしながら彼を見つめてきた。
「単に金を稼ぐだけなら、無限にあるわい。問題は、今のわしらの力でどうにかなる仕事を厳選せねばならんということじゃ」
ごもっともな意見を言われ、思わず苦笑いをしてみせる少年に、メルキドは小さくため息をこぼした。
確かに、この規模であれば、多くの仕事があるのだろうが、普通に考えれば、技術や知識、専門的な能力が必要なものの方が報酬が高いのだろう。そう少年も考えながら、掲示板に貼られた紙切れを遠くから眺めた。
「それに、あまり長い期間ここにとどまる気もない。それに、わしらのパーティーには魔導師もおらん」
「そうだよな、2人とも剣使いで、ばーさんはナイトだもんな」
少年に釣られるように、メルキドも掲示板へと視線を移しながらそう零した。
2人が旅を始めて少し経つが、既に致命的な欠点が発覚していた。このパーティーには、魔法関連に精通した人物がいないのだ。メルキドも、基本的な知識がある程度で、詳しくはわからず、ましてや、魔法を防ぐことや魔法攻撃をすること、実際の魔法を見ても、それがどんな魔法なのかということさえ殆どわからない。
「そういうことじゃ。それを考えながら、わしらにできる仕事を選ばねばならんから難しいんじゃ」
少し諦めたようにそう話すメルキドに、少年も納得しながら考えたが、そんなに選り好みしていては、仕事を請けることなど難しいのではないかと思えてしまう。
「まぁ、一番良いのは、あやつらの誰かを捕らえることが出来れば一番なんじゃがな」
チラリと横目で掲示板を見ながら、メルキドはそう話した。その視線の先を追うように、少年も掲示板へと視線を移すと、そこには大量の張り紙がされている。
「あやつらって?」
「あの壁に掛かっておる絵の連中じゃ」
メルキドの言葉通り、大量の張り紙の横、受付の隣に位置するあたりに数枚の絵が飾られている。1枚に1人、人物が描かれており、古いものもあれば新しいものもあるが、どれもこれも人の人相が悪そうな人物達だ。
「これって?」
「賞金首じゃ」
そう言われて、少年は納得した。西部劇などに出てくる賞金首のビラが、この絵なのだろう。少年も指名手配犯の張り紙を見た事があるが、賞金首というものは初めてだった。
「こいつら全員、賞金首なのか?」
「そうじゃ、殆どが盗賊の頭ばかりじゃがな」
そんな話をしながら絵を見ると、そこには、人物の似顔絵と名前、そして地名と金額が記されている。とはいえ、少年には、その地名がどこなのか、金額も高いのか安いのかさっぱりわからない。どんな大悪党なのか、さっぱり見当がつかなかった。
「高いのか安いのか、さっぱりわからん」
「凄く高いぞ、言っておくが」
少年の言葉に、ツッコミを入れるようにメルキドが応えた。紙には100,000Gと書かれており、桁数的には結構な額な気がするが、物価の物差しが無いためさっぱり見当が付かない。そのまま円だと考えると、10万円は社会人の給料より安く、高額には思えない。
「昨日の宿屋は、1人50Gじゃな」
「凄く高くないか?」
続けて出たメルキドの言葉に、真顔で少年が振り向いてそう言葉を投げていた。
少年の知る世界の相場で考えた時、高級宿は数十万円すると、彼は聞いたことがあった。それを考えれば、昨日の宿が高級店だった場合、10万Gは恐ろしい額になってしまう。数年遊んで暮らせる額を遙かに超えるレベルだ。
「ちなみに、お前の剣は4,000Gする」
「ぬぁぁにぃぃ!?」
さらに続けて出たメルキドの言葉に、思わず腰に下げている剣を二度見してしまうほどの金額が出て、少年は思わず一歩後ずさってしまった。なにげに下げている剣が、恐ろしく高い代物であった。先日、邪魔だったという理由で部屋の隅っこに向けて蹴り飛ばしたことを激しく後悔してしまう。
「まぁ、剣の中ではかなり安物じゃがな」
「そうなの?」
「そうじゃ」
すかさずメルキドの言葉が付け加えられ、少年は複雑な表情を見せた。高級品を乱暴に扱ったことに一瞬反省してしまったが、安物だと言われるとその反省ももったいなかった気がしてしまう。しかし、物価の物差しを知ってしまうと、どう取るべきか悩んでしまった。
「それはさておき、こいつらを捕まえるのはそう簡単なことでもないしのぉ。まぁ、頭の片隅にでも覚えておく程度で良かろう」
「見つけたときに、覚えてれば幸運ってわけか」
「まぁ、そんなところじゃ。それに、見つけても返り討ちに遭う可能性もあるわけじゃしな」
少年もその言葉には納得であった。それだけの金額が付く凶悪犯だ、そんなのを相手にして自分が勝てるなどとは思っていない。メルキドであればやり合えるだろうが、自分の身を案じるなら、できれば会いたくは無い相手だと判断したのだ。
「さて、お前はここでまっておれ」
そう言い残して、メルキドは受付へと歩いて行ってしまった。それを見送りながら、その姿を眺めていると、たまにうなずいてみたり、首を振ってみたり、あまり雲行きが良さそうには見えなかった。
「俺達の理想に合うような依頼、なんていう都合の良い依頼ってあるのか?」
少年が呟くように独り言を口にするが、自分で言っておいて不安になってしまった。そもそも、少年はランクも持っていない、実質的にはメルキドのみが戦力として認識されるわけで、1人で請ける依頼などたいしたものにならない気がしてしまう。
不安を抱えながら、メルキドの後ろ姿を眺めていると、どうやら話が付いたらしく戻ってきた。その表情は、いつもと変わりなく、そこから状況を読みとることはできない。
「依頼は?」
「大した依頼はもらえんかった」
メルキドの答えに、少年は、やっぱりかと思いつつ、それでいていつも通りの表情で居られるメルキドに感心してしまった。
「それで、内容は?」
「小荷物の配達じゃ」
思わず口が開いたまま、呆然としてしまった少年は、慌てて首を左右に振って意識を取り戻した。一瞬真っ白な世界が見えた気がしたが、それは気のせいだろうと必死に自分に言い聞かせる。
「依頼料は?」
もはや冒険者の仕事とは思えない。郵送を行う機関や商会がありそうなものだが、それもあえて頭の奥底へ追いやって、依頼料を尋ねてみる。
「100Gじゃ」
昨日の宿屋、一泊分……そう考えると、意外に高い気もするが、絶妙な金額に頭が混乱してしまう。
「他になかったのかよ?」
「仕方あるまい! お前はランクなしじゃから、戦力として認められんかったんじゃ!」
メルキドの詰める声に、少年は、思わず苦悩の表情をしながら顔面を手で覆って天井を見上げた。予想したとおりだ、そんな気はしていたが、やはりそうなってしまった。正式な依頼を請ける以上、その戦力を測るのはランクであるのは妥当な考えだ。そう考えれば、こうなることも当然と言えば当然、しかし、ここまで予想通りになるとある意味諦めも付くというものだ。
「どうしようもないな、こればかりは」
「この絵の連中のどれでも良いから、ひっ捕まえることが出来たらなぁ~」
「そうじゃのぉ~」
そう言って、賞金首が描かれた絵の前で、深いため息をつく2人。そんな悲しい光景を見つけたそれは、ゆっくりと近づいてくる。それは、ある意味偶然であり、ある意味必然でもある出会い、いや再会であった。
To be Continued...




