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SparkingHeros ~聖獣の子守歌~  作者: 如月霞
第二章 盗賊団と騎士団歌
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盗賊団の騎士団歌 その3

 少年が目を覚ますと、視界に入ってきたのは豪華な天井だった。野宿の時に見上げる夜空でもない、ボロボロの小屋の天井でもない、安っぽい宿の天井などでは決してあり得ない、(あで)やかな色彩の天井であった。


「目が覚めたか?」


 メルキドの声に、少年が体を起こすと、宿のベッドの上に寝かされていることに気づいた。そして、少年の隣には、メルキドが少し安心したような表情で少年を見つめていた。


「俺は一体?」


 体の怠さを感じながら、少年はそう問い返した。意識ははっきりしており、なぜか非常に腹が減っている以外は、特に自分に問題はない。


「大変じゃったぞ、お前をここまで運んで」


 メルキドの言葉に、少年は怪訝そうな表情を見せた。


「運ぶ?」


「そうじゃ、覚えておらんのか?」


 問いに問いで返されると、少年は少し考えてみたが、昨晩の記憶がない。運ぶとは、一体どこからどこへ運ばれたのか、そんな事を考えていると……


「あぁっ!?」


 思わず大声をあげてしまった。彼の一番最後の記憶は、温泉に入っていたことだ。


「風呂から出た覚えがない」


 風呂に入って露天風呂を楽しんだ記憶はあるが、そこから先の記憶が全く思い出せない。


「のぼせて、湯船に浮いておったわい」


 呆れた様子のメルキドの一言に、少年は視線を斜め下にそらしてしまった。なんと恥ずかしいことか、穴があったら入りたいとはこのことだろう。できる事なら、そこで隠れて、そっとしておいてほしい気分だった。


「リン殿がおらんかったら、それこそ大変じゃったぞ」


「リン?」


 メルキドの言葉に、聞き慣れない名前が出て思わず問い返してしまった。女性っぽい名前だが、いくら記憶を辿っても、それらしい人物は思い浮かばなかった。


「覚えておらんのか? 昨晩、お前を運ぶのを手伝ってくれた上に、魔法でのぼせたお前を助けてくれた人じゃぞ?」


「どうやって覚えておくんだよ……」


 少年は、少し呆れた表情でメルキドを見ると、そう言い返した。

 そもそも、のぼせて意識を失って湯船に浮いていたのだから、記憶があるわけがない。そんな少年が、どうやって自分を助けた人物を覚えておくことができるのか、問いただしてやりたい気持ちを必死に押さえ込んだ。


「しかしリン殿は、ヒロと温泉で話したと言っておったぞ」


 予想外にも、メルキドが返してきた言葉は、少年を知る人物だという。温泉で話したらしいが、彼の記憶の中にはメルキドとのくだらない会話しか記憶にない。そんな話をした人物など……


「髪が長く、黒い瞳と蒼い髪が印象的な、背の高い綺麗な人じゃぞ?」


「わかった、あの人だ」


 そこまで聞いて、記憶がはっきりした。それでも、少年の記憶にあるのは、髪の長い女性で、確かに蒼っぽい髪をしていたのを覚えている程度だ。混浴だとはいえ、ジロジロ見る勇気も無く、チラリと見ただけだが、それでもかなり印象の強い人物で、まるでテレビに出てくる女優さんかと思わせるほど、綺麗な人だったと記憶していた。

 そんな美人を混浴で見かけてしまい、少年は、ものの見事に醜態をさらしてしまったわけである。


「それで、体の調子はどうじゃ?」


「あぁ、全然大丈夫みたいだ」


 昨日の醜態を思い返しながら、悶絶していると、メルキドが体の調子を尋ねてきた。そこで初めて、少年は自分の体の違和感に気づいた。問われて気づいたが、のぼせて気絶したわりには異常に気分がスッキリしている。体の怠さは少し残っているものの、その程度で、逆に寝起きもすっきり、体中の疲れも消えてなくなっていた。


「そういえば、魔法を使ってくれたってことは、そのリンさんって魔導師?」


「おそらくな。回復系の魔法じゃったから、シスターかビショップ辺りかもしれん」


 メルキドの返答に、思わず悔しい気持ちに襲われた。これまで少年は、魔導師という存在を見かけた事はあるが、実際の魔法を見た事は一度も無かった。自分に魔法をかけてもらえたことには素直に感動できるが、その貴重な体験を見ることができなかったのは非常に残念極まりなかった。


「まぁ、助かったから良しとしよう」


「助けてもらったの間違いじゃろう?」


 少年がそう割り切って口にすると、すかさずメルキドが口を挟んできた。異常に的確な指摘も、年の功なのだろうか、などと考えながらその言葉を飲み込むと、メルキドから視線をそらした。


「それより、朝飯は?」


 気持ちを切り替えるように、少年がそう尋ねた。昨日の夕飯をのぼせて食べられなかったせいで、彼の腹は限界を迎えつつあった。


「……まだ食事は控えた方が良かろう」


 そんな少年の言葉に、メルキドはそっと視線を明後日の方へそらすとそう答えた。


「普通、逆じゃないか?」


 少年のツッコミに、視線をそらしたまま、沈黙するメルキド。そこで、昨晩の温泉で夕飯分の食事代があるかないかでもめたことを思い出した。


「ヒロ、それよりギルドに行って仕事探しじゃ」


「いや、その前に飯を……」


 あえて話をそらそうとしたメルキドの言葉に、少年はすかさず軌道修正を施す。その瞬間に、視線が遠くへと離れていく。つまりは、朝食を食べるだけのお金がないのだろう。少なくとも、1年近く一緒に暮らしている少年には、彼女の表情がそう語っていることは手に取るようにわかった。


「ヒロ、行くぞ」


「いつになく、ばーさんが強引だな?」


 言葉とともに少年へと視線を向けるメルキドだが、少年が言葉を返すとすぐさま視線がそれていく。

 少年はこの世界に来て、初めてメルキドに勝つことができた気がしていた。少し違う気もするが、自分が強くなったことも実感できた。


「さて、ギルドじゃギルドじゃ」


「まぁ、仕方ないか」


 とはいえ、これ以上やりとりを続けていても朝食が食べられるわけではない。諦めることも重要だと割り切り、少年は仕方なくベッドから這い出ると、出かける準備を始めた。


「そうじゃそうじゃ、働くからこそ飯が食える」


 そんな少年を、必死に乗せようと、メルキドは手を叩いて彼を急がせるのだった。






To be Continued...

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