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SparkingHeros ~聖獣の子守歌~  作者: 如月霞
第二章 盗賊団と騎士団歌
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盗賊団の騎士団歌 その2

 オープルへとやってきた少年は、どんどん進んでいくメルキドの後を追いながら、ファンデル王国における第二の都市が誇る街並みを堪能していた。大通りには多くの人々が行き交い、色々な商店が並び、露店も多く見られるとても活気に溢れる街だった。そんな中を、上機嫌で歩いていくメルキドと、キョロキョロと辺りを見渡しながら楽しむ少年、その行き着く先……


「………」


 宿に辿り着くと、少年はメルキドの機嫌が良い理由を理解した。随分と簡単だった。そこからは、流れるように話が進み、今に至る。


「あのさ」


「なんじゃ?」


 少年の言葉に、いつもの声が返ってくる。そう、たった1枚の板切れの向こう側から、声だけが。


「気になってたんだけど……もしかして、ばーさんさ、これが目当てだったんじゃない?」


 少年の問いに、答えは返ってこなかった。湯気の立ち込める中、石で作られた湯船に、少年の問いだけが溶けていく。そして、同時に少年はメルキドの目的を悟った。


「まぁ、良いけどさ。俺も、温泉が嫌いなわけじゃないし」


 そう付け加えると、少年は湯気でうっすらとしか見えなくなってしまった夜空を見上げた。この世界にも露天風呂があったことに驚きながら入った温泉を堪能しつつ、旅に出てからの日々を思い出し、頭の中に残っていた悩みや(しこ)りが溶けていくような感覚を味わっていた。


「温泉の街、オープルねぇ」


 そう言って、少年は手のひらですくい上げた少し濁ったお湯を見つめながら、先ほどのメルキドの言葉を思い出していた。

 少し悩んでいるようだから少し休んでいく。そう言っていたが、本当の目的は絶対に温泉だっただろうと心の奥で確信した。さっき宿の若い店員に尋ねた所、このオープルの街は有名な温泉街で、ファンデルでも有数の温泉宿が揃っているらしい。これはもう確信犯だろう。


「まぁ、悩んでおるときは温泉にでも入ってゆっくりするのが一番じゃ。これで、ヒロの悩みもすっきり爽快にじゃな」


 板切れでできた壁の向こう側から、メルキドの言葉が聞こえてくる。すでに、自分の行動を正当化しようとしているようだ。


「けど、ババくさ……」


「なんか言ったか?」


「いや、別に」


 ボソッと口にした言葉に、メルキドがすかさず尋ね返してきた。地獄耳とはこの様な人物に当てた言葉なのだろう。


「それより、こんな豪華なところに泊まって、お金は大丈夫なのか?」


 とりあえず、メルキドが地獄耳なのはさておき、少年がこの宿に泊まることになった際に、一番気になっていたことを尋ねてみた。豪華なこの露天風呂、先ほど案内された広い客室、おそらく豪華であろう夕食、どれも半端な金額ではないと思われたが、自分達が泊まって良い場所だったのか、それが気になっていた。


「ヒロに言われずとも、それぐらい分かっておる」


 少年の言葉に、メルキドが自信ありげな声で応えた。そんな言葉が返ってくるのでは無いかと考えていた少年は、肩を落として気を抜くと、改めてゆっくりとお湯を楽しもうとふざけて鼻先まで温泉の中に浸かって……


「ないに決まっておろう」


「コラ待て!?」


 メルキドの言葉で、勢いよく湯船から飛び出した。そして、そのままの勢いで、女湯の方へ向かって怒鳴ってしまった。


「大丈夫じゃ、今日の分は残っておる」


「そういう問題じゃないだろうが!」


 少年は、思わずツッコミながら、大丈夫の概念がかなりねじ曲がっていることに肩を落としつつ、壁の一番上をじっとりとした目で睨みつけた。


「心配するでない。明日、ギルドに行って仕事を探すぞ」


 そういう問題ではないのだが、メルキドの満足そうな声が返ってくる。少年は、もはや呆れて何も言う気になれなくなり、大きなため息とともに湯船に戻った。


「温泉なぞ、滅多に入れるものではないんじゃぞ! ため息などついておらんで、十分に温泉を満喫せんか」


 誰のせいでそうなっているのか問いただしたい所だが、それを言う気力さえ失せてしまっていた。


「へいへい、分かりましたよ。俺は、今日の夕飯の事でも考えながら、ゆっくりと温泉を堪能させてもらいますよ」


「おっ!?」


 その言葉に、メルキドの驚いた様な声が響いた。少年は、何か向こう側であったのかと思い、耳を澄ませて次の言葉を待つと……


「夕飯を食うんじゃったな。いかん、金が残っておったか?」


「オイ待て!」


 想像を斜め上に駆け抜けるような発言が女湯側から返ってきて、少年は思わずツッコミを止められなかった。そういう意味の、おっ!? だったのかと、呆れてしまう。夕飯を食べることを忘れていたとは、どれだけこの温泉に入りたかったのかと問いただしてやりたくなってしまった。


「まぁ、温泉を堪能できたんじゃ。飯なぞ、1日食わずともどうにもならん」


 全く焦ったような様子もなく、ゆったりと温泉を堪能しているメルキドの言葉に、どうにもなるかならんの問題ではないというツッコミさえ、出てこなくなってしまった。


「もう言い、想像を凌駕したよ。ばーさん、あんたは大物だ」


「何を言っておるんじゃ?」


 少年の言葉に、全く理解していないメルキドの言葉が返ってくる。もはや、言い返すのも疲れてしまった少年は、敢えて返事をすることなく、ぼんやりと湯気でかすれた露天風呂の景色を眺めていた。


「そう言えば、奥の方ってどうなってるんだ?」


 ふと露天風呂の奥が続いていることに気がついた。向かって右手側には脱衣所がある建物があるが、左側は湯気でかすれているが、建物は見えない。湯気のおかげか、薄らと岩や木々が浮かび上がっているように見え、幻想的な風景が続いていた。


「んっ、奥か?」


 メルキドが少年の問いに気づくと、そう返してくれたが、当然わかるわけもなく、しばらく考えると……


「オープルは、温泉が多いことでも有名じゃからな。おそらく、奥も温泉があるんじゃろう」


 という、投げやりな返答が戻ってきた。確かに、一番大きいと思われるこの湯船の他にも、奥には小さな湯船も見えていた。その奥は湯気でよく見えないが、塀が見えない所から、さらに続いていると考えて間違いなさそうだ。


「なるほど、なら行ってみないと損だよな?」


「おぅ、行ってこい」


 少し興味がわいた少年が、共に奥に行ってみようと声をかけたつもりだったが、メルキドからはその意図を理解されていない言葉が返ってきた。どうやら、彼女はこの湯船で楽しむらしい。


「へいへい、行って来ますよ」


 少年が小声でつぶやきながら、奥へと進んでいく。その奥は、小さな木々や大きめな岩が立ち並び、その間に小さな湯船がいくつも並んでいた。決して人が入れる大きさではなく、風景として楽しむ為のものだろう。それは、とても幻想的で、まるで別世界にいる様な感覚になるほどだった。


「凝った作りをしてるよな、さすがは温泉で有名って言うだけはあるな」


 さらに奥へと進んでいくと、そこには大きな湯船が広がっていた。湯気のせいで全てが見えるわけではないが、おそらくさっきまで入っていた湯船より大きそうだ。てっきり、出入口の側にある湯船が一番大きいと思い込んでいた為、思わず感嘆の息が零れてしまった。


「奥にこんな大きな湯船があるとは……」


 そう呟きながら、少年は早速湯船へと浸かり大きく息を吐いた。先ほどより大きいためか、より空の星空が大きく見える気がする。そんな時だった。


「あれ?」


 聞き覚えの無い声が聞こえて、少年が視線を向けると脇に人影があることに気づいた。湯気のせいでよく見えないが、どうやら先客がいたらしい。


「えっと……良い湯ですね」


 相手も気づいているのだから、とりあえず話しかけてみたが、出てきたのは随分と年寄り臭い台詞だった。


「やけに年寄り臭い台詞のわりには、声は幼いわね?」


 案の定、相手も同じ認識を持ったらしいが、それ以上に、少年の背中に嫌な寒気が走った。


「まぁ、私も良い湯だと思うけどね」


 少年が反応することもできずにいると、相手はどんどんと話しかけてくる。その声を聞く度に、少年は段々と血の気が引いていくのを感じてしまった。


「どうしたの? 大丈夫?」


 少し澄んだ綺麗な声に、少年はしっかり温まっているはずなのに、顔面蒼白になりながら、その声の方から視線を落として自分の使っている湯船を見つめた。


「こんにちは……って言うか、こんばんはの時間ね?」


 ちゃぷちゃぷとお湯の音が近づいてきて、明らかに声が近づいてくると、湯船にゆらゆらと映っていたのは髪の長い女性だった。大きなタオルを巻いているものの、明らかに女性らしいボディラインが見えている。


「すっ、すいません!」


「はぃ?」


「おっ、俺! その、まさか女性風呂に紛れ込んじまうなんて!」


 少年は、必死に絞り出した言葉とともに、視線は下に落としたまま、頭を下げていた。今までの人生で、女性にモテたことはなく、親しくもなった事はない、あくまでクラスメイト程度が限界だった。それでも覗きのなんて真似をしようなんて考えたこともなかった……それなのに!


「君、勘違いしてない?」


 そう言いながら、さらに女性が近づいてくる。水面に映る姿が、どんどん鮮明に、かつ大きくなっていく。


「すいません、すいません、すいません」


 慌てて目をつぶると、少年は必死に謝った。許してもらえるかどうかはわからないが、それでもここは全力で謝るしか無い。メルキドにも、両親にも、心の奥で必死に土下座をしながら謝り続けた。


「あのさ、ここね、混浴よ?」


「すいません、こんよくだって知らなかったんです!?」


「いや、知らなかったら知らなかったで良いけど、何で謝るのかな?」


 女性の言葉に、ひたすら謝り続けるが、頭の中でこんよくという言葉が漢字に変換された所で、ようやく少年は停止した。


「……混浴?」


「そう、混浴」


 ゆっくりと視線を上げると、タオルを巻いた長い蒼髪の美しい女性が少し笑みを浮かべながら、少年にそう答えた。


「早とちり、恥ずかしいかな?」


 その言葉を聞いた瞬間、少年は、目の前の美しい女性の姿を見てしまったことと、自分が勘違いしていた恥ずかしさで、全身に火が付いたかのように熱くなってしまった。


「そう赤くならないで、別に気にしないから」


 そう言いながら、彼女は少年の横に座ると、ゆったりと湯船を堪能し始めた。しかし、そんな状況、今までの人生で起きた事が無い少年にとっては、どのような行動を取るのが正解なのかわからず、とりあえずその場にしゃがみ込んで、女性とは別方向へと視線を向けて必死に意識をしないようにしてみる。


「………」


 しかし、意識するなというほうが無理な話だった。


「顔真っ赤だよ? あんまり長い間浸かってると、のぼせるんじゃない?」


 女性の顔が視界いっぱいに現れたかと思うと、そう尋ねられて、自分がのぼせかけていることに気づいた。メルキドと共に来たのだから、結構な時間入っていた上に、彼女が来てから、緊張して余計に頭に血が上っていたのだろう。


「あっ、上がらないと……」


「君、大丈夫?」


 慌てて立ち上がろうとすると、女性の声にエコーがかかったような不思議な声に聞こえて、次の瞬間、体が言うことを聞かなくなり、視界が湯船に向かって勢いよく突っ込んでいく。


「わっ!? 君!」


 そして、お湯の中に勢いよく落ちたかと思うと、凄まじい勢いで視界が歪み、少年の意識は……






To be Continued...

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