出会いと旅立ちの序曲 その10
ギルドを後にした2人は、宿に部屋を取り、ひとときの休息を取っていた。
「ばーさん、一体何の依頼受けてきたんだよ?」
少年は、部屋でくつろいでいるメルキドに尋ねた。メルキドは、どうやらギルドで1つの依頼を受けてきたらしいが、その内容を話すことは無く、少し休憩だと彼に告げると1人でくつろぎだしていた。
「大丈夫じゃ、お前が出しゃばる程の依頼は受けてはおらん」
メルキドの言葉に、少年はなんとなく察した。つまりは、自分が必要になるような仕事は初めから受ける気がなかったと……まぁ、普通に考えればそうだろうとは思ったが、どことなくすんなり納得できない。なにせ、ギルドの依頼を初めて請けたのに何もすることが無い。初仕事くらい、自分も何か役に立ちたいと考えてしまったのだ。
「はぁ~、寂しいねぇ~」
どことなく仲間はずれにされたようで、モヤモヤしながら、とりあえず、メルキドの隣のベッドに転がるとフカフカとした感触を味わうことにした。山小屋で暮らしてたときは違い、柔らかいベッドに包まれると、そんなモヤモヤも一気に吹っ飛んでしまう。
「ふあ~ぁ」
急にあくびが口からこぼれると、少年は自分が疲れていたことに気づいた。魔獣の森を抜けてきたのだから、当然と言えば当然ではあるが、そんなこともわからないほど、彼は興奮していたのだろう。
「そう言えばさ、俺って依頼を手伝っても良いのかな?」
「ああ、大丈夫だ。ランクを持っておらんお前でも、わしのパートナーとしてなら手伝いが出来るようになっておる」
少し眠くなってきた気分を切り替えようと、メルキドに尋ねてみると、すんなりと回答がかえってきた。先ほどもめていた時のことも思いだしながら、少年は考え込んだ。
「ふぅ~ん、ランクか……」
そして、少年は小さく呟くと、天井を見つめながら、自分のランクについて考えていた。
この世界には、ランクと呼ばれるものが存在する。それは、様々な種類が存在し、その者の技能特色や職業など得意分野的なものに関連して与えられるものだ。例えば、剣術を主体とする”ナイト”や、魔導師の”ウィザード”、神官の”シスター”など、あらゆる物に関連付けて与えられる。少年の世界で表現するのならば、免許の様な物と考えるのが一番ぴったりくる物だった。そして、そのランクはあらゆる特権に繋がっており、冒険者となるのならば持っておくのが常識とも言える物だ。
そして、少年が目指しているランクは”ナイト”、基本的な剣術と体術を習得している物が対象となるもので、メルキドから剣術と体術しか学んでこなかった彼には丁度良いランクだった。
「とりあえず、パートナーなら仕事の手伝いが出来るわけか」
「そうじゃ。わしの手伝いという形でのみ、仕事に大きく関わることが許されるんじゃ。それ以外での、仕事への口出しや手出しは一切禁じられておる」
てっきり、登録でもすれば仕事を請けられると思い込んでいた少年は、少し残念に思いながら仕方ないと諦めた。さすがに、仕事を請けるにしても、実力の確認や信用は必要になるのだから、そこを見定める方法としては、決して間違ってはいない。そう考えれば、これも当然に思えたからだ。
「んで、今日の仕事の内容は?」
「じゃから、心配せんでもよい」
思わずチッと舌打ちした。会話の流れでさりげなく聞き出せば、間違って話すだろうと思っていたが、考えが甘かったようである。
「そんなことより、少し寝ておけ。今日は随分移動したからな、体を休めておかんと保たんぞ」
「はいはい……って、おいっ!?」
メルキドの言葉に、素直に目を閉じた少年は、思わずツッコミながら勢いよく起き上がった。しかし、言葉を発した本人は、既に布団の中に入り込んで安眠モードに入っていた。まだ外は明るく、太陽も高い位置で輝く午後のひとときであるのにだ。
「何で、こんなに早い時間に寝るんだよ?」
少年が問いかけるが、返事は返ってこない。
「チッ、寝てやがる」
舌打ちしながら呟くと、少年は諦めて再び横になった。さすがに、初めて来た街で1人ウロウロと歩き回るほどの勇気は無く、初めての旅の疲れもある。ここは、体を休めておいた方が良いと判断したのだ。仕事のことは気になる少年だったが、メルキドのことだからしっかりと考えては居るだろうと割り切った。
まぁ、考えて無かったら無かったで、仕方ないで済ませられるんだろうが……
それは、少年がこの世界に来て半年が経った日のことだった。
「何でだよ!?」
「当たり前じゃ、良いわけ無かろう!」
少年が不満げな表情で言うと、メルキドは真剣な表情で返してきた。
確かに、彼は剣術の心得もなく、体術も全然ダメだった。才能があったわけでもなく、突然強くなったりもしなかった、言うなれば普通だった。けれど、彼が来て半年、努力は怠らず日々努力を続けてきた。だからこそ、自分は強くなったと思えた。今までは、メルキドの動きについていくことさえできなかったが、最近は、徐々についていけるようになっている。剣の使い方も、ある程度は様になってきたつもりだった。
なのに……
「どうして、俺は魔獣を相手にしちゃいけないんだよ?」
「お前は、この世界に来て間もない。お前では、魔獣を殺すことはできん」
「できるさ! 俺は、そんなに弱くない!」
必死にメルキドへ訴える少年、それを彼女は大きく首を横に振って否定する。
彼は強くなったはず、ここに来た時に比べれば、遥かに強くなったはずだ。剣術も体術も、そして精神も……
「愚か者、何が弱く無いじゃ!? お前など、まだヒヨッ子じゃ!」
メルキドは、そう言って許可することは無かった。
少年がこの世界に来てから、もう1年が経ようとしている。彼は、あの小屋から離れたことはなかった。そして、魔物を斬ったこともなかった。彼はまだ、木以外を斬ったことが無く、メルキド以外を相手にしたことはない。彼はどれくらい強いのだろう?
「おい、起きろ」
ぼんやりとした意識の向こうで声がする。
「起きんか!?」
次の瞬間、耳元で大声をだされて、半分意識が覚醒しないまま、少年は起こされてベッドから起きあがった。
「ここどこ?」
そして、目の前に広がる見知らぬ景色に、困惑してしまう。いつもの小屋ではなく、知らない部屋に寝かされていた。
「馬鹿者、目を覚まさんか! ここは宿屋の中じゃ、家じゃないんじゃぞ!」
「宿屋?」
メルキドの言葉に、怪訝そうな顔をして問い返した。
何故、自分がそんな所に居るのか全く理解できない。いつもの山小屋ではなく、宿屋にいるのか。
「おいっ、いい加減にせんか!」
再び叱られ、何故理不尽に怒鳴られるのかを考えた時……
「あっ!? そっか、俺達旅に出たんだ」
ようやく記憶が繋がってきた。そんな少年を見て、メルキドは大きなため息をつくと、肩を落とした。その気持ちはわかるが、当の本人としては良いわけができないため、少年はさりげなく視線をそらした。
「それよりも、そろそろ行くぞ」
「こんな時間に、どこに?」
そう言われて、窓の外を見ると既に日は落ちて暗く夜が訪れている。そんな中、一体どこに出かけると言うのか?
「どこにじゃない、昼間請けた仕事じゃ」
その言葉を聞いて、初めてギルドで請けた仕事が夜に行う内容だと理解した。まさか、初仕事を夜に行うことになろうとは、思ってもみなかったが。
「ほれ、さっさと準備せい!」
「マジかよ……」
思わず愚痴を口にしてみたが、メルキドは1人準備を進めていく。その姿を見ると、これは疑いようが無い。
「マジみたいだな」
仕方ないと諦め、ベッドから這い出て支度を始めた。どうせなら、初めての仕事くらい昼間にしてくれればよかったのに、とは思うがそこは口にしないでおいた。
「ヒロ、ほれっ!」
そんな事を考えながら準備をしていると、メルキドが先に準備を済ませて彼の剣を投げてくれた。それを慌てて受け取ると、腰に下げて準備を整えた。
「お仕事なんですなぁ」
色々と文句やケチをつけても始まらない。そう気持ちを切り替えると、せっかくの初仕事をやり遂げるため、気を引き締め直した。
「準備は良いな?」
「あいよ」
その問いに、もう一度チェックするかのように、自分の足先から順番に上へと視線を移して確認する。鎧も着たし剣も持った。一体何の依頼かは知らないが、それでも心の準備も整った。そして、彼は返事をする。
それは、同時に少年がこの世界に来て、初めての仕事の始まりを意味していた。
「行くぞっ!」
「おぅっ!」
宿を出る前からワクワクが止まらなかった。楽しみで楽しみでたまらない心を、必死に押さえながらメルキドの後を追っていった。
これから始まる、依頼という大変な戦いのことなどまったく知らずに……
To be Continued...




