第8話『交わる心』
引きこもり続けた薄暗い部屋に、
微かな光が差し込んでいた。
扉は、わずかに開いている。
少年は、泣き腫らしたような目で、
そっとユウトを見上げた。
「……ほんとうに……たすけて、くれるの……?」
震える声。
怯えきった心。
ユウトは、静かに頷いた。
「もちろん。君を、傷つけたりしない」
その言葉に、少年は戸惑いながらも、
一歩だけ、扉の向こうへと足を踏み出した。
◆ ◆ ◆
部屋の中。
布団が乱れたままのベッド。
散らかった教科書と、折れた鉛筆。
壁には、何かにぶつかった跡が生々しく残っていた。
少年は、
その景色を見せることさえ、恥ずかしそうに俯いた。
「……オレ、……オレ、友達を……母さんを……」
少年の声は、震えていた。
「バリア……勝手に出て……突き飛ばして……
友達は、骨折して……
母さんは……顔を……」
唇を噛み締める少年。
「……それから、
オレを見たみんなの目が、変わったんだ。
怖い、って……気持ちが、バリア越しに、流れ込んできた……!」
リカが、帽子の下からそっと目を伏せた。
少年は、力なく呟いた。
「オレ、……生きてちゃ、いけないんだって……思った……」
◆ ◆ ◆
ユウトは、そっと少年の隣に膝をついた。
「俺も……同じだったよ」
少年が顔を上げる。
ユウトは、遠い目で、語り始めた。
「昔……
空から、赤い雨が降った日があった」
少年の瞳が揺れる。
「俺は、そのとき……
たぶん、自分の力を暴走させたんだと思う」
街が、壊れた。
大切な人が、叫んでいた。
何もできなかった自分だけが、そこに残った。
「怖かった。
怖すぎて、……それから、ずっと、感情を抑えて生きるようになった」
震える拳を、膝の上で握りしめる。
「誰かを傷つけるくらいなら、
……何も感じないほうが、マシだって、思ったから」
◆ ◆ ◆
静かな沈黙が落ちる。
けれど、
その沈黙の中で、確かに”何か”が、交わった。
少年は、
怯えながらも、小さく口を開いた。
「……でも、君は、怖くない……」
「君に触れたとき、感じた……
怖さじゃない。
拒絶でもない。
……あたたかいものだった」
ユウトは、そっと微笑んだ。
「俺たちは、同じなんだよ。
怖がりで、弱くて、
……でも、本当は、誰かを守りたいって思ってる」
少年の目に、
再び涙が浮かんだ。
「……オレ、外に、行きたい」
小さな声。
けれど、それは確かに、
少年が初めて、自分の意志で発した”希望”だった。
◆ ◆ ◆
「じゃあ、一緒に行こう」
ユウトは、そっと手を差し出す。
少年は、迷いながらも、その手を握った。
カチャ――
扉が、完全に開いた。
一筋の光が、
閉ざされていた部屋に差し込んだ。
リカとタケルも、静かに見守っている。
そのとき――
路地の向こうで、
黒い影が、ゆっくりと動いた。
◆ ◆ ◆
「……ん?もしかして...
みんな、気をつけて。」
リカが低く囁く。
量子視で捉えた、異様なオーラの流れ。
(誰かが、近づいている――)
まだ、誰も確信は持てない。
けれど、
確かに、別の”敵意”が、忍び寄ろうとしていた。




