第64話『空の中で戦う』
──第三支部・屋上訓練場。
「じゃ、今日は“動きながら攻撃”な」
山伏コウジが片手を上げながら、軽く言った。
「止まったまま浮いてても、的にされるだけだ。
空中でも攻撃、回避、全部こなせるようになって初めて──“空中機動”だ」
春野ハルは、小さく拳を握る。
「ついにきたかぁ……!」
彼女の背後には愛用のハンマーが浮かんでいる。
浮力操作で軽くし、戦闘中に使いやすくした武器だ。
今までは、浮いて止まる訓練ばかりだった。
けれど、今日からは──
「戦うよ、空の中で!」
「まずは回避だ。俺が飛ばす鉄球を避けろ」
「ひぃ! ちょ、いきなり鉄球って怖いってば!」
「当たっても死なないようにしてある。どーんとこい」
「はいはい……うぅ、怖っ!」
コウジが軽く指をはじくと、数メートル先から金属球が浮かび、
ふわりと宙を進んできた。
ハルは反射的に体をひねって回避──
だがバランスを崩して、くるんと回転。
「わーわーわー! 回りすぎた~!」
磁力で止められ、空中でぷらんと揺れる。
「……酔うぅ……」
「回避は“芯”を残して動け」
「芯を……あっちに置いたまま、身体だけ逃がす……みたいな?」
「そう。体を空中に浮かべてるんじゃない。
“芯”を中心に、力で周囲を動かしてるって感覚でやれ」
「オッケー……ちょっとずつ、慣れてきたかも!」
何度か失敗を繰り返しながらも、ハルは空中での反応を少しずつ掴んでいく。
──そして次。
「今度は攻撃だ。浮かせた武器で、空中から俺を叩け」
「えぇ!? それ絶対当たんないでしょ!」
「当てなくていい。狙って、動いて、構えて、撃つ──
その“流れ”を空中でできるようにしろ」
ハルは深呼吸をひとつ。
「浮力、展開……」
自分の体を空中で止めたまま、ハンマーに力を送る。
それがふわりと前へ、滑るように進んだ──
「よしっ、せーのっ──!」
ブン、と軽く空気を裂く音。
だがコウジは簡単に横に避ける。
「……ははっ、やっぱ当たんないや!」
「いいんだよ。当てるのはその次」
ハルはもう一度、体勢を整えながら、静かに呟いた。
「浮かびながら戦うって、こんなに難しいんだ……でも、」
「──すっごく、楽しい!」
その笑顔は、まるで空を味方につけたかのように、
まぶしかった。




