第63話『浮かせるということ』
──第三支部・屋上訓練場。
「じゃ、まずは真っすぐ浮いて、前に進んで、止まってみ?」
山伏コウジの軽い指示に、春野ハルがぴっと背筋を伸ばした。
「おっけーっ!」
彼女の体がふわりと浮かび、前へ滑るように進む──が。
「うわっ、早っ!? あれ、止まれ──」
バランスを崩して回転しながら落下、磁力でストップ。
「……おおお、助かった~。もう一回!」
コウジは頭をかきながらぼそり。
「力はある。制御が甘い。急ぎすぎ」
「うっ……それはあるかも!」
ハルは笑いながらまた浮き上がった。
「じゃあ、さっきのコウジさんのマネしてみよっかな~」
彼女は空中で姿勢を整え、手足を引き締めてまっすぐ立つ。
「……なるほど、こうやって芯を立てるってことか」
「今の感じだ。いいぞ」
「いっくよ~!」
ハルの体が滑るように前進し──
「今度こそ、止まれっ!」
──ピタリ。
わずかに揺れたが、体勢は崩れず、空中で止まった。
「やった! 止まったーっ!!」
「ほぉ、やるじゃん。思ったより早いな」
「えっへん! あたし観察力はあるからね!」
「じゃ、次はそのまま横に移動して──止まれ」
「まっかせて!」
──それからのハルは、失敗と成功を交互に繰り返しながらも、
確実に空中での制御を掴み始めていた。
「ふーっ……芯意識すると、けっこう安定するんだね!」
「その調子。体の中に“重心の柱”を立てろ。空に“自分の足場”を作るつもりでな」
「おおお、それいい言い方~! 今のでイメージできた!」
ふわっ。スッ。ピタ。
ハルが少しずつ、滑らかに動いては止まる。
まるで、空に溶け込むように。
「わぁ……すご……」
自分の動きに、自分で見とれていた。
「空って、こんなに気持ちいいんだ……!」
コウジはその様子を見ながら、飽きたように欠伸をしつつも、
どこかで満足げに笑った。
「ま、空の入り口には立てたな。あとは“使い方”だ」




