第62話『重力を操る』
──第三支部・屋上訓練場。
「……またズレたーっ!」
ドスン、と小さな音を立てて、春野ハルが地面に尻もちをつく。
「ったく、さっきいけたのにぃ……なんで止まれないの!?」
浮力で浮きながら、前に動こうとするとブレる。
方向転換しようとすると、体勢を崩して落ちる。
それを何度も、何度も繰り返す。
「うおっと!? 今のヤバッ──!」
バランスを崩し、足元に装着された金属がまた磁力で引かれる。
カシン、と音を立ててハルの身体が空中でストップ。
「……セーフ、ありがとコウジさん……!」
「……もう6回目だぞ、今日だけで」
空中に胡坐をかいたまま、山伏コウジが面倒くさそうに頭をかく。
「ねぇ、お願い!! 見本見せてよっ!!」
「やだ」
「はやっ!? 即答!?」
「めんどくせぇし。だいたい俺がやって見せたところで、
“うわ~すごーい!”って言うだけで、身につかねぇだろ?」
「言わない言わない! 見るだけじゃなくてちゃんと“盗む”からっ!」
「……ったく、うるせぇなぁ」
コウジは渋々と立ち上がり、手をポケットに突っ込んだまま、
身体をすぅっと浮かせる。
そのまま、微動だにせず空中で“立つ”。
「え、ちょ、なにその姿勢!? 全然ブレてないじゃん……!」
「当たり前だ、これが“芯”ってやつだよ。
自分の重力を感じながら、それを中心に浮力をまとわせる」
次の瞬間──
ふっ、と前へ滑るように動いたかと思えば、
一瞬で横へ。さらに斜め上へ跳ねるように浮かぶ。
「うわ、なにそれチート……」
「言ったろ? “立てる”ようになったら、空は自由だって」
コウジは空中でスピンしながら、片手をひらひらと振った。
「けどな、ここまで来んのに俺だって何年もかかってんだぞ。
お前は……そのペースなら、半年だな」
「ちょっっっっ……待って!?
それは励ましなの!? 絶望なの!?」
「前向きに受け取れ。どっちでも合ってるから」
ハルは頬を膨らませたまま、改めて浮かび上がる。
「よーし……今の見たし! 今度こそ!!」
今度は身体の軸を意識しながら、少しずつ進む。
揺れはあるが、さっきまでより明らかに安定していた。
「──うん、絶対いける。いけるってばあたし!!」
空に向かって、力強く声を張る。
それは、まるで“空そのもの”を掴もうとするかのように。




