第61話『空に立つ者』
──第三支部・屋上訓練場。
朝の澄んだ空気の中、春野ハルは空中に浮いていた。
足元は地に着かず、重力に逆らっていながらも、ブレはない。
前日、彼女がようやく掴んだ“芯”の感覚は、まだ体の中にしっかり残っていた。
「じゃあ、今日は“動く”ぞ」
空中で胡坐をかく山伏コウジが、指を立てて言う。
「静止はできた。次は、その芯を保ったまま“動く”ってやつだ」
「おっけー! やったる!」
ハルは気合十分で返事をする。
その体には、四肢と腰に細く巻かれた金属パーツが装着されていた。
「ちなみにそれ、俺の磁力で制御できる“緊急用ストッパー”な。
落ちても反応で引き上げるから、安心してブッ飛んでいいぞ」
「うわっ、マジで!? じゃあ安心して飛べるわ!」
「……あんま安心すんなよ」
ハルは深呼吸し、再び浮力を展開。
今度は、わずかに“前”へ力を向けた。
重力の芯を維持したまま、ほんの少し──
──ふわり。
「……動いた!」
体がわずかに前進し、彼女は興奮したように叫ぶ。
「動いた! やった!!」
「落ち着け、止まれ!」
「あっ、わっ──!!」
制御が効かず、体がバランスを崩す。
「うそ、落ち──」
その瞬間、足首の金属が強く引かれた。
バチンッと磁力が弾け、彼女の身体がピタリと空中で静止する。
「っ……セーフ……?」
「……っはー、心臓止まるかと思った……!」
ハルは半笑いで息を整える。
「バカ、だから言ったろ。落ちても助けるっつったろ」
「そりゃそーだけど、やっぱビビるって!」
コウジは軽く笑いながらも、目は鋭く。
「けど今の、“芯”は保ってた。
力の方向をズラしたあとに、戻す練習をすれば安定する」
「……なるほど~、って言いたいけど──マジでむずいね、これ!」
「だがな、ハル」
コウジがゆっくりと言った。
「“落ちそうになった時に、戻れる”やつが──
本物の浮力使いだ」
ハルは深く息を吸って、再び姿勢を整える。
「よーし、もう一回! 今度はちゃんと止まってみせる!」
芯を中心に浮力を展開。
その先には、空の中の“戦場”が広がっていた。




