第60話『浮かぶための重さ』
──第三支部・屋上訓練場。
朝からずっと、春野ハルは空中に浮いたり、落ちたりを繰り返していた。
すでに何十回目かの試行。
足元には何度も着地した跡が残っている。
山伏コウジは空中に座ったまま、あくびをかきながら言った。
「おーい、そろそろ感覚掴んだか?」
「まだーっ!! でもなんか、近づいてる気はする!」
ハルは肩で息をしながら、必死に浮かび直す。
「これ、重力に逆らってるんじゃなくて……
“重さごと受け止めてる”感じなのかも」
「ほう?」
「なんかこう、浮こうって思うとブレるの。
でも、“重さの糸を針に通してる”ってイメージだと、止まりやすい!」
コウジの目がほんの少し鋭くなる。
「……いい線いってるぞ」
ハルは再度、深く息を吸って目を閉じる。
体の中心に、見えない芯が通っていると想像する。
浮力はただ上に向かうんじゃなく、その杭のまわりに柔らかくまとわりついている。
そして──
「……ふっ」
体がふわりと浮いた。
今度は揺れない。
空中で──止まっていた。
「……や、やった……! 止まってる……!?」
本人が一番驚いて、声を上げる。
「コウジさん見て見て!! 止まってる!! 浮いてるのに止まってる!!」
「おい、騒ぐとブレ──」
「うわわわわっ!!」
案の定、テンションが上がりすぎてバランスを崩し、
ハルは着地しながらも、笑い転げた。
「でも、できたよ……! ほんの一瞬だけど、あたし、空に立てた……!」
コウジは鼻で笑う。
「ったく、うるせぇな。けど、よくやった」
「芯ってのはな、浮力操作の“根っこ”だ。
そこを掴めたなら、次は──“空中で動く”をやる段階だ」
「動く……?」
「ああ。空に立てるなら、そこを“歩ける”ようになる」
「やっば! それってもう……超ヒーローじゃん!」
「いやいや、“超訓練”だ」
コウジがぐいっと伸びをしながら言う。
ハルは小さく笑いながら、真剣な目で次を見ていた。
「……もうちょっとだけ、自分のこと好きになれそうかも」
それは、彼女にとって“強くなる”ことの、
本当の意味の一歩だった。




