第59話『浮力の芯』
──第三支部・屋上訓練場。
高所にある訓練場で、春野ハルは浮力操作の練習に挑んでいた。
目の前で、山伏コウジが空中に胡坐をかいたまま、だるそうにこちらを見ている。
「で、お前。浮くのは慣れてんだっけ?」
「ん、まあね!」
ハルは得意げに答え、ふわっと浮き上がる。
地面すれすれを滑るように高速で前進し、
ターンしてぴたりと止まってみせた。
「こういうのは超得意! スイスイーって感じ!」
けれど──
今度は高めに浮いて、そのまま空中で止まろうとすると……
身体がふらつき、思わず着地してしまう。
「うーわ、またズレた……」
軽く舌打ちしながらも、苦笑する。
「ずーっと前にもやったことあったんだ、これ。
でも、どうしても止まれなくて、結局“あたしにはムリだな~”って諦めてた」
山伏はポケットに手を突っ込んだまま、小さく言う。
「浮くのと、止まるのは別モンだ。
浮力で上がるだけじゃ、空じゃ立てねぇ」
「……芯がねぇと、ただ浮いてるだけになる」
「芯……?」
「体の軸。空中に立つには、自分の中に“地面”を作らなきゃならん」
ハルは真剣な顔でその言葉を聞いていた。
「……そっか。芯か。
……じゃあ、それ見つけたい」
「みんなと“強くなって帰る”って約束したし──
あたし、やるよ」
「よし、じゃあまず浮け。止まろうとすんな。
どこに力が逃げてるか、それを感じるとこからだ」
ハルは頷き、呼吸を整えた。
浮力を展開。体がふわっと浮かび、足が地面を離れる。
でも──
「わ、ちょ、待って……!!」
微妙に傾き、姿勢が崩れる。
「ああもう、うまくいかないってば……!」
それでも──ハルは降りなかった。
「……でも、これ、わかってきたかも。
なんかこう……内側でグラついてる感じ?」
「おう、それだよ」
山伏が口元だけで笑う。
「そのグラつきが“浮くだけ”の証拠。
“立てる”ようになったら、揺れはなくなる」
何度も浮き、揺れて、また浮く。
ハルは根を上げなかった。
「よーし、次は……絶対止まってみせるから!」
その目には、ギラギラとした情熱が宿っていた。
山伏は、空に座ったまま静かに言った。
「──なあ。お前さ、
素直って、強いよな」




