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ユウキ・ノ・カケラ  作者: ハキ
第1部
6/67

第5話『約束の地へ』

朝の光が、薄く差し込んでいた。

ユウトは、静かにベッドに近づき、ミナの寝顔を見下ろす。


 


安らかな寝息。

小さな身体は、まだ本調子ではない。


 


そっと、毛布をかけ直す。


 


(……絶対に、守る)


 


ミナに心配をかけたくない。

だから、今日も何も言わない。


 


普通通り、学校に行くふりをして、家を出た。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


団地の入り口で、リカが待っていた。


黒髪ロング。

制服の上に羽織った赤いスカジャン。

帽子を深く被り、表情はよく見えない。


 


「おはよう、如月くん」


 


「……おはようございます」


 


二人は、並んで歩き始めた。

目的地は、シェルター第七支部。


 


「ミナちゃんのことは、安心して」


 


不意に、リカが言った。


 


ユウトは足を止める。


 


「君が家を出たあと、シェルターの人が警護に入ってる。

できるだけ、本人には悟られないように」


 


ユウトは、驚きと、ほっとしたような顔をした。


 


「……ありがとうございます」


 


リカは、帽子の影で微笑んだ。


 


「ミナちゃんも、大切な存在だからね。君にとっても、私たちにとっても」


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


街の雑踏を抜け、二人は地下鉄へ向かう。


 


移動中、リカが小さく呟いた。


 


「……異能者にとって、生きるって簡単なことじゃないんだよ」


 


「……?」


 


「異能を持つ者は、社会からは恐れられ、忌み嫌われる。

同時に、異能者同士でも争いが絶えない」


 


電車の窓に映るリカの横顔は、どこか寂しげだった。


 


「君がこれから向き合うのは、力だけじゃない。

人の心の闇――それも、だよ」


 


ユウトは、黙って前を向いた。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


たどり着いたのは、普通の雑居ビル。

外観はごく普通の、年季の入った建物。


 


リカは、何気ない仕草でドアを開けた。


 


「ようこそ、シェルターへ」


 


中に入ると、そこは別世界だった。


 


壁には無数のモニターと通信機器。

奥には訓練施設らしきスペースも見える。

異能保持者たちが行き交い、それぞれの任務や訓練に励んでいた。


 


ざわざわとした空気の中、

ユウトが入ってきた瞬間、いくつかの視線が集中する。


 


「新人?」


 


「……あれ、断片持ちって聞いたけど」


 


「しかも、固有能力未開花?」


 


小声で囁きあう声が耳に入る。


 


リカは、そんな周囲を気にせず、ユウトを案内した。


 


「大丈夫。君は君のままでいい」


 


その言葉に、ユウトは少しだけ肩の力を抜いた。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


案内がひと段落したころ、リカはふと呟いた。


 


「ねえ、如月くん」


 


「はい」


 


「“赤い雨”って、知ってる?」


 


ユウトは、一瞬だけ眉をひそめた。


 


記憶の奥に、赤く染まった空と、耳をつんざく叫び声――

そんなぼんやりとした映像が浮かぶ。


 


「……なんとなく。昔、何かあった気がする」




「そっか.....」

 


リカは、それ以上は何も言わなかった。

ただ、帽子の影で、目を細めるだけだった。



 


 


◆ ◆ ◆


 


 


夜。

シェルター本部の一室。


 


リカは、机の上に置かれた書類を見つめていた。


 


その中には、如月ユウトのプロフィール。


 


【特例対象:断片保持者】

【固有能力未覚醒】

【危険度:不明】


 


リカは、そっと書類に手を置いた。


 


「君は、きっと――」


 


その先の言葉は、誰にも聞こえなかった。

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