第54話『静観と研磨』
──第七支部、訓練棟・第零観測室。
静寂と、人工光。
この部屋は、情報と観測に特化した訓練空間だった。
東雲リカは、その中心で、目を閉じていた。
「──始めろ」
加賀見シンイチの声が響く。
目を開けた瞬間、リカの視界が開く。
──量子視、発動。
膨大な情報が脳に流れ込む。
対象の体温、筋肉の収縮、呼吸の乱れ、視線の動き──
「……攻撃は、右から。0.2秒でくる」
そう予測し、身を引く──が、
バチンッ!
足元から閃光が走り、肩にかすり傷が走る。
「っ……!」
回避は成功、だが──完全ではない。
「おかしい。見えてたはずなのに……」
リカが悔しげに呟く。
シンイチは、静かに言った。
「君は、“全部”を見ようとしすぎている」
リカは眉をひそめる。
「視えるなら、それを使わない理由は?」
「“視える”ことと、“見極める”ことは違う」
「君の情報処理は早い。だが、焦点が絞れていない。
たとえば今の攻撃は、初動がフェイントだ。君はそれに反応しすぎた」
「視る範囲を広げろ。だが、“何を捨てるか”も考えろ。予測できる見方をしろ。」
リカは唇を噛む。
──私は、見えているはずなのに。
なのに、結果が出ない。
「……君は優秀だ。だが、優秀な者ほど“見えることに溺れる”」
「情報に呑まれたままでは、真に動く者の未来は読めない」
静かに、しかし鋭く突き刺さる言葉。
リカは言い返さなかった。
ただ、その瞳の奥で──焦りと、苛立ちと、自分への問いが渦巻いていた。
(私は……できるはずなのに)
その思いと、現実の“誤差”が、今の彼女にとっての壁だった。
──ここから、彼女の研磨が始まる。




