第52話『問いかけ、守るために』
──静かな医療室。
ユウトは、目を開けたまま天井を見つめていた。
身体はまだ重く、動かすことはできない。
それでも、周囲の会話ははっきりと耳に届いていた。
その手を握るミナの指先が、少しだけ震えている。
やがて──ミナが小さな声で呟いた。
「……ねえ」
室内にいたタケルたちが、空気の変化を感じ取る。
「教えて……」
ミナの声は震えていた。
「なんで……お兄ちゃんが、こんな目にあわなきゃいけないの……?」
必死に涙をこらえながら、それでもまっすぐに問いかけた。
タケルもシュンも、言葉を失ったまま俯く。
リカも、拳を握り締めたまま目を伏せている。
そんな中、加賀見シンイチが静かに歩み寄った。
「……ミナ」
落ち着いた、しかし真剣な声。
ミナは、涙に潤んだ目でシンイチを見上げる。
彼は静かに口を開いた。
「この世界には──異能という力が存在する」
「その力を持つ者たちは、時に争い、時に守るために、それを振るう」
「君のお兄さん、如月ユウトもその一人だ」
ミナの手が、ユウトの手をぎゅっと握り締める。
「そして……君にも、少しだけ責任がある」
室内の空気が、わずかに揺れた。
「ユウトは、君を守るために全力を使い、無理をした。
その判断は正しい。だが、結果として彼は深く傷ついた」
ミナは息を呑み、肩を震わせる。
ユウトはその言葉を、目を閉じることもなくただ聞いていた。
ミナは震える声で、静かに言った。
「……私……守られてばかりじゃ……嫌だ……」
「お兄ちゃんのそばにいたい。……ちゃんと、そばにいられるようになりたいの……!」
こぼれる涙をぬぐいもせず、ミナは必死に言葉を紡いだ。
「お兄ちゃんと一緒に……並んで歩けるように」
その決意を、誰も否定しなかった。
シンイチは小さく頷き、静かに言葉を続けた。
「第七支部には、高水準の医療設備が整っている」
「医療系の異能者も在籍している。君の病も、回復の可能性は高い」
ミナは涙を流したまま、しっかりと頷いた。
「だから……ここにいたい」
「ここで……お兄ちゃんと一緒にいたいの」
──守られるだけの存在ではなくなるために。
少女は、小さな決意を胸に抱いた。
ユウトは目を閉じなかった。
ミナの声を、言葉を、想いを──最後まで静かに聞いていた。
ただ、心の中で。
(……ありがとう)
そう呟いた。




