第48話『襲撃、不律の牙』
──午後。
春の陽射しに包まれ、街は穏やかな賑わいを見せていた。
ユウトとミナは、並んで歩いていた。
互いに言葉は少なかったが、その空気は心地よかった。
ミナがふと、横のクレープスタンドを指さす。
「ねえ、お兄ちゃん。あれ、食べたい!」
ユウトは短く頷いた。
「……いいよ。食べよう」
ミナは嬉しそうに微笑み、列に並んだ。
ミナは苺生クリーム、ユウトはチョコバナナ。
手にしたクレープをかじると、甘さが口に広がる。
「ん~、やっぱりおいしい!」
ミナが笑い、ユウトも無言でクレープを口に運んだ。
甘すぎる。
けれど、それが悪くはなかった。
ミナは歩きながら、景色をきょろきょろと見渡す。
「こうやってのんびりできるの、嬉しいな」
「……ああ」
短い返事。
だが、それだけでミナは十分だった。
──穏やかな、日常。
それが、何よりも大切なものに思えた。
◇ ◇ ◇
クレープを食べ終え、人気の少ない路地へ入る。
途端に、空気が変わった。
ミナが立ち止まる。
「……なんか、暗くない?」
ユウトも肌を刺すような違和感を感じ取っていた。
何かが、おかしい。
自然と、ミナを背後へと庇う。
◇ ◇ ◇
一方、街中。
無言で歩く真堂レイコ。
ポケットに手を突っ込みながら、
周囲の情報を、風に乗せて感じ取っていた。
(如月ユウト。登録異能は、衝撃波と身体強化。それと──断片発現の兆候)
静かに観察していた彼女の感覚に、何かが引っかかった。
(……気持ち悪い風だな。しかも、危険なタイプ)
レイコは顔を上げる。
放っておけば死人が出る──
そう判断し、迷わず足を向けた。
向かう先は、ユウトたちのいる方角だった。
◇ ◇ ◇
──路地裏。
黒い影が、地面から蠢く。
そして、そこから男が現れた。
黒コートをまとい、顔には狂気の笑み。
「よぉ。シェルターのやつだな?
動くなよォ……」
ミナが小さく息を呑んだ。
ユウトは即座に前へ出る。
男の手元から、黒い影が伸びた。
刃、鎖、槍。
影は自在に姿を変え、襲いかかる。
──不律。
無秩序を掲げる、異能犯罪者集団。
ユウトは、即座に、衝撃波を出した。
重心を落とし、力を込める。
──ズンッ。
微かな振動と共に、衝撃波が空気を叩いた。
「えっ?何?」
ミナは呆然と驚いた。
影の槍を叩き落とし、ミナへの攻撃を防ぐ。
だが、男は薄笑いを浮かべたままだった。
「へぇ……やる気、満々ってわけだ」
地面、壁、建物。
至るところから、無数の影が伸びる。
ユウトは衝撃波を連発し、防ぎ続ける。
ミナを守りながら──。
だが、防戦だけでは追いつかない。
影は次第に数を増し、
ユウトの動きをじわじわと封じていく。
(……一人なら、逃げられるかもしれないが)
ミナを、絶対に置いてはいけない。死んでも。
「ミナ、伏せろ」
ユウトが低く命じる。
ミナは素直に地面に伏せた。
ユウトはボロボロになりながら、影を払い続ける。
──それでも、限界は近い。
腕が痺れ、脚が震える。
視界が揺れる。
だが。
「……守る……!」
声にならない声を噛み締め、
ユウトは、最後の一歩を踏み込んだ。
その瞬間。
──ドンッ!!
胸の奥で爆ぜる感覚。
ユウトの体の前面に、分厚い衝撃波の壁が展開される。
迫る影の刃は、すべて防壁に弾かれ、砕け散った。
影使いの男が目を細める。
「──ほう……」
ユウトは震える膝で立ち続ける。
だが──
影使いもまた、さらに巨大な影を作り出していた。
「これで終わりだァ……!」
黒い津波のような影が、今にも押し寄せようとしていた。
ユウトは、
最後の力を振り絞り、ミナを背後に庇った。




