第32話『命の異能──動き出す影』
──戦場に、一時の静寂が訪れていた。
◆ ◆ ◆
ユウトは、肩で息をしながら
地面に倒れたカイを見下ろしていた。
拳を握り締めたまま、
震えた体を無理やり支える。
──でも。
心は、戦いの最中も一度も折なかった。
◆ ◆ ◆
「ユウト、ハル、ターゲット、こっち来て!」
リカが呼びかける。
瓦礫の陰に隠れていたハルとターゲット──
小柄な少女が駆け寄ってきた。
「……よかった、無事で」
ユウトが、安堵の声を漏らす。
ハルもふらつきながら笑い、
ターゲットの少女も、戸惑いながらも小さく頷いた。
◆ ◆ ◆
リカは、少女に優しく声をかける。
「ねえ、君、名前は?」
少女は、少し緊張した様子で、
それでもはっきりと答えた。
「……朝比奈ツムギです」
──朝比奈ツムギ。
これが、今回守り抜くべきターゲットの名前だった。
◆ ◆ ◆
リカはさらに穏やかに尋ねる。
「ツムギちゃん、君の異能も教えてほしい」
ツムギはぎゅっと胸元を掴みながら、
震える声で答えた。
「……私は……植物を、育てる力です」
「場所とか、季節とか……関係なく。どんな環境でも、植物を育てられます」
──命を繋ぐ力。
ただの便利な異能じゃない。
世界を変える可能性を持った、特別な力だった。
リカもユウトも、それをすぐに理解した。
◆ ◆ ◆
──だが、その一方で。
廃ビルの瓦礫の影に、
黒い影が潜んでいた。
「……やはり、動きがあったか」
シェルター所属の黒環監視役。
静かに、冷酷に、次の行動を見定めていた。
◆ ◆ ◆
同じ頃、シェルター本部。
通信員が緊迫した声で報告する。
「黒環、別働隊がターゲット確保に向かってます!」
指揮官、加賀見シンイチは即座に指示を飛ばす。
「現場に待機してるヘリに出発がいつでも出来る様に準備しろと伝えろ!」
静かな戦場に、
再び、新たな波紋が広がり始めた。




