表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユウキ・ノ・カケラ  作者: ハキ
第1部
3/67

第3話『断片の代償』

夕暮れの街。

団地と団地の間に伸びる細い路地を、ユウトは全力で走っていた。


 


制服のポケットには、保冷バッグ。

中には、ミナの命を繋ぐ薬。


 


(届けなきゃ……絶対に)


 


背後から、鋭い気配が追ってきている。

異能を持った敵――“紅眼”。


 


けれど、今のユウトには、戦う余裕などない。

身体はまだ重い。

昨日の断片発動の影響が、抜けきっていない。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


ザリ……ザリ……!


 


瓦礫を踏みしめる音が近づいてくる。


振り向くと、黒いローブに身を包んだ女がいた。


仮面越しに覗く、赤い光の目。


 


「対象確認――断片発動者、如月ユウト。

捕獲対象、確定」


 


感情のない、機械のような声。


 


彼女が手をかざした瞬間――


空気が一気に、ねじれる。


 


次の瞬間。


 


身体が、鉛のように重くなった。


 


「な……に、これ……!?」


 


一歩踏み出すたび、地面に引きずり込まれるような感覚。

呼吸すら、重い。


 


(……空気が……押し潰してくる……!)


 


必死に前へと走ろうとする。

だが、足がもつれ、バランスを崩した。


 


(まずい……このままじゃ……)


 


息が荒くなる。

肺が焼けるように熱い。


重力――そう思い至ったのは、数秒後のことだった。


 


(……これって、重力、か……?)


 


でも、考えている余裕などなかった。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


脳裏に、妹の顔が浮かぶ。


 


『お兄ちゃん、遅いよー!』

『えへへ、待ってたんだよ』


 


笑顔。

無邪気な声。


 


その小さな命を守るために、今、自分はここにいる。


 


(逃げるだけじゃ……駄目だ!)


 


心の底から、熱が湧き上がる。


怒りでも、恐怖でもない。


 


――絶対に守りたいという、ただひとつの願い。


 


 


――断片、再起動。


 


 


ユウトの身体を中心に、空気が震えた。


重力の層が裂け、抑えつけていた力が弾ける。


 


「っ――なに……!?」


 


紅眼の構成員が驚きに身を引く。


 


ユウトは、一気に地面を蹴った。


 


重力の枷を振りほどき、駆ける。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


数分後、団地を抜けた先の広い通りへ。


街灯の下、ユウトは膝をついた。


 


肩で大きく息をして、額から汗が滴る。


保冷バッグは、必死に守ったまま。


 


しかし、異変はすぐに訪れた。


 


手が、震えている。


 


視界が揺れ、耳鳴りがする。


 


「……っ、くそ……!」


 


身体が、自分のものじゃないみたいだ。


 


これが、“断片”の代償。


 


力を使えば使うほど、心も、身体も、削られる。


 


(わかってた、はずなのに……)


 


けれど、後悔はなかった。


ミナのために走った。


それが、今の自分の全てだった。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


遠くで、パトカーのサイレンが鳴っていた。


紅眼の構成員は、気配を消して去ったようだった。


 


ユウトは、震える手で保冷バッグを抱え直す。


 


(もう少し……あと、少しだけ)


 


身体はボロボロでも、心だけは、折れていなかった。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


夜。自宅アパート。


ユウトはドアを開け、靴も脱がずにミナの部屋へ駆け込む。


 


ベッドの上、ミナは目を閉じていた。


 


「……ミナ!」


 


呼びかけに、彼女はゆっくりと目を開けた。


 


「……お兄ちゃん。

遅いよ……」


 


微笑みながら、かすれた声で。


 


ユウトは震える手で薬を取り出し、水と一緒に彼女に渡した。


ミナは、素直にそれを飲み込む。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


しばらくして、ミナの顔色が少しだけ良くなった。


 


「……ちゃんと、守ってくれたんだね」


 


そう言って、彼女は小さく笑った。


 


ユウトは、何も言わずに頷く。


 


胸の奥で、また小さな火が灯った気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
3話投稿お疲れ様です! ミナちゃんええ子や...そりゃお兄ちゃんも頑張れるよ(´;ω;`) ユウトと一緒に守りたい、その笑顔(`・ω・´) 4話へ...ヘ(*¨)ノ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ