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ユウキ・ノ・カケラ  作者: ハキ
第1部
2/67

第2話『招かれざる訪問者』

視界に、白い天井が広がっていた。

眩しさはない。けれど、どこか無機質な明るさだった。


 


(……ここは……)


 


ぼんやりとした意識が、じわじわと戻ってくる。


シーツの感触、掛け布団の重み。

ただ、病院にしては静かすぎる。


 


「やっと、目が覚めた?」


 


声がした。

振り向くと、長い黒髪を後ろで束ねた少女――東雲リカが、ソファに座ってこちらを見ていた。


缶ジュースを手にしながら、軽く微笑んでいる。


 


「ここは、“シェルター”って呼んでる場所。

君みたいな子を保護するための、ちょっとした秘密基地みたいなもの、かな」


 


「……東雲さん」


 


ユウトは自然にそう呼んだ。

名前は知っているが、まだ距離は遠い。

屋上で交わした短い会話だけが、記憶に残っていた。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


シェルター――外から見ると、ごく普通の一軒家だった。


だが、内部は異様だった。


壁の角にはいくつもの監視カメラ。

玄関や窓には電子ロック。

裏手には、目立たない非常階段と隠し通路。


 


表向きは民家。

だが、実態は異能者たちの“避難所”として密かに整備された施設。


 


「普通に見えるけど、中は結構ゴツいんだよね」

「外から来た人にはバレないようにしてあるから、チャイムもドアもわざと普通の作り」


 


リカ――東雲は、少し冗談っぽく肩をすくめた。


 


「でも、来てほしくない人が来たら、チャイムの鳴らし方でだいたいわかるんだ」


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


しばらくして、ユウトはベッドから身体を起こし、冷たい水を手渡された。


飲みながら、静かに呟く。


 


「……やっぱり、俺には普通じゃない何かがあったんだな」


 


子供の頃。

あの赤い夜。

あの日、自分の中から何かが噴き出した記憶がある。


だから、ずっと感情を抑えて生きてきた。


 


「でも、それが何なのか、ちゃんとは……知らなかった」


 


リカは、優しく頷いた。


 


「無理もないよ。

誰も、そんなの教えてくれないもんね」


 


そして、少しだけ表情を引き締める。


 


「君の中にある力は、“断片フラグメント”って呼ばれてる。

感情をきっかけに発動する、ちょっとだけ特別な異能だよ」


 


「……断片」


 


ユウトは、その言葉を噛み締めるように繰り返した。


 


「怒り、悲しみ、恐怖、希望……。

強い感情が湧き上がったときにだけ、反応するの」


 


「でもね――」


 


リカは、少しだけ視線を落とす。


 


「力を使うたびに、心も身体も、少しずつ削られていくんだ。

だから、無理しちゃダメだよ」


 


言葉の端に、確かな優しさが滲んでいた。


 


ユウトは静かに目を伏せる。


昨日、自分が感じた虚脱感と、震え。

それはただの疲れではなかった。


 


(これが、“代償”……)


 


「けどね、ちゃんと向き合えれば、断片は君の力になる。

抑え込むんじゃなくて、受け止めること。

それが、これからの君に必要なこと、だと思う」


 


リカの声は、優しく、けれど真剣だった。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


数十分後、ユウトは立ち上がれる程度には回復していた。


ソファの上には、保冷バッグと薬袋。


リカが拾い、冷蔵保存してくれていたらしい。


 


「……助かりました、東雲さん」


 


「ううん、気にしないで。

薬、大事なんでしょ?」


 


彼女は、ニコッと笑った。


 


そのとき――


 


ピンポーン……ピンポーン……ピンポーン……


 


玄関のチャイムが、執拗に鳴り続けた。


 


「……来た、かも」


 


リカはすぐに立ち上がり、モニターを見る。


画面には、黒いローブと仮面の人物が映っていた。


 


「“紅眼”だね。間違いない」


 


彼女の声が、わずかに低くなる。


 


「君を追ってきたんだよ。断片を持つ君を」


 


素早く、非常階段へのルートを指し示すリカ。


 


「裏から逃げて。まだ間に合うから」


 


ユウトは、保冷バッグを強く握った。


ミナの顔が、脳裏に浮かぶ。


 


(絶対に……届ける)


 


「……ありがとう、東雲さん」


 


短く礼を言い、ユウトは非常階段へと走った。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


逃げる背中を見送りながら、リカは小さく呟いた。


 


「……ほんと、無茶ばっかり」


 


でも、そんな言葉の奥には――ほんの少し、嬉しそうな響きがあった。


 


「きっと、大丈夫。君なら」

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― 新着の感想 ―
2話投稿お疲れ様です( ˆᴘˆ ) リカちゃん、ユウトについてなかなか詳しいな! これは昔...いや、先を読めば分かること。 3話も楽しみ( ᵕᴗᵕ )
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