第10話『心の火種』
金属の破片が宙を飛び、
地面が震える。
狭い路地裏で、二つの異能が交錯していた。
前方――
ゴーグルの男が、鋼鉄化した体でタケルに向かって突進する。
後方――
フードの男が、異様に伸びる腕をしならせ、
遠距離から鋭く狙いをつける。
紅眼の二人が、完璧な連携で畳みかけてきた。
◆ ◆ ◆
「次、右から!」
リカが即座に叫ぶ。
量子視による未来予測。
彼女は、ほんの数秒先をオーラの流れで読み取っていた。
「了解ッ!!」
タケルが即座に応じる。
足元のアスファルトを拳で砕き、
飛び散った石片を熱で赤熱化。
ジュゥゥ――ッ!!
真っ赤に焼けた破片を、拳にまとわせ――
「もらったァ!!」
ゴーグルの男に向けて一気に叩きつけた!
ズガンッ!!
熱と衝撃が一体となった打撃。
ゴーグル男が一歩、二歩と後退する。
「オーラが歪んだ。今、隙ができた!」
リカがさらに指示を飛ばし、
タケルが即座に反応する。
――完璧な信頼。
言葉よりも速く、互いの動きが繋がっている。
◆ ◆ ◆
ユウトは、動けなかった。
目の前で繰り広げられる異能の応酬。
タケルとリカの、鮮やかな連携。
敵の、容赦ない攻撃。
そのすべてに、
ただ立ち尽くすことしかできなかった。
後ろには、少年が小さく身を縮めて、
自己防衛本能のようにバリアを張って震えている。
「……ッ」
拳を握りしめる。
悔しい。
情けない。
(俺は……何もできないのか)
心の奥が、軋むように痛んだ。
◆ ◆ ◆
そのとき――
少年が、震える声で呟いた。
「……どうして……あの人たち、
……信じられるんだろう……」
ユウトは、振り返らなかった。
ただ、前を見たまま答えた。
「信じてるんじゃない。
信じ合ってるんだ」
リカはタケルを信じ、
タケルはリカを信じて、
互いに命を預け合って戦っている。
「だから、怖くても……前に進める」
少年は、ユウトの言葉を黙って聞いていた。
震える手で自分の胸を押さえた。
小さな、
本当に小さな火種が、
心の奥でくすぶり始めていた。
◆ ◆ ◆
バチッ――!!
タケルが、また金属の看板を拳で赤熱させ、
即席の火矢のように蹴り飛ばす。
リカが、腕を伸ばしてくるフードの男に向かい、
寸分違わぬ射撃で軌道をずらす。
完璧なコンビネーション。
敵が苛立ったように動きが乱れ始める。
◆ ◆ ◆
少年は、そっとバリアの壁に手を当てた。
(こんなオレでも……)
オレを怖がらず、
オレを拒絶せず、
手を伸ばしてくれた人たちがいる。
(オレも――)