表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユウキ・ノ・カケラ  作者: ハキ
第1部
1/67

第1話『目覚めの断片』

初投稿です!

現代異能×感情進化バトルファンタジー、始まります。

読んでくださってありがとうございます!

朝の光が、薄く揺れるカーテンを通して室内に差し込んでいた。

その光は、静かな団地の一室をほんのりと照らし、畳の目を金色に染めていく。


 


ピピッ、ピピッ。


 


スマートフォンのアラームが、控えめな音で鳴った。

布団の中から手が伸びてきて、それを止める。


 


ゆっくりと体を起こしたのは、高校二年生の少年――如月ユウト。

無造作な黒髪と整った顔立ち。そして、どこか感情の読み取れない瞳。


 


彼は静かに立ち上がると、隣の部屋の襖をそっと開けた。


 


そこには、少女が眠っていた。

彼の妹――如月ミナ。

病弱な彼女は今、自宅で療養している。


 


枕元には加湿器と薬のボトル。

机には、ユウトの字で書かれたスケジュール表が置かれている。


 


《8:00 起床・薬(青)》

《12:00 軽食・ストレッチ》

《18:00 薬(白)+安静》


 


ミナが微かに寝返りを打つ。

ユウトは一瞬だけ口元を緩めて、襖を閉じた。


 


「……今日も、何も起きませんように」


 


そんな言葉を、誰に聞かせるでもなく呟いた。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


キッチンで朝食をとりながら、テレビをつける。


ニュースキャスターの声が真剣な調子で響いていた。


 


――昨夜、新宿区にて異能犯罪が発生――


 


画面に映るのは、崩壊したビル群と逃げ惑う人々。

その中に、巨体の男が映る。


 


フードを被り、顔の下半分をマスクで覆った大柄な人物。

拳を振り下ろすたびに、地面が爆ぜ、瓦礫が舞う。


 


『異能集団“紅眼”の構成員。通称“烈震”。本名・獅堂カイ。』


 


ユウトは無言で画面を見つめた。

数秒後、リモコンを手に取り、テレビを切る。


 


「関係ない……俺には」


 


静かな声。

けれど、目元にはかすかな緊張が残っていた。


 


制服のポケットに、保冷バッグと薬局のメモを入れて、玄関を出る。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


イヤホンから流れるのは、ミナがよく聴いていたピアノ曲。

春の風が制服をなびかせる。


 


(ミナの薬、忘れないように……)


 


スマホに通知が表示される。


 


【速報】“紅眼”構成員、再出没の可能性――


 


画面を消す。

表情は変えずに、ただ歩く。


 


けれど、胸の奥で、ほんのわずかに何かが揺れていた。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


昼下がりの教室。


周囲の騒がしさから浮いたように、ユウトは静かにノートをとっていた。


他人と話すことはない。

誰も近づかない。

それが彼にとって、一番心地いい“距離”だった。


 


(誰かと関われば、無駄な感情が生まれる。

感情は、俺には――危険すぎる)


 


「如月、次、答えてみろ」


 


「x は……3、です」


 


正確で、何の色もない声。


だが、ノートの片隅には、こう書かれていた。


 


《ミナ薬:18時 忘れずに》


 


たった一行だけが、彼の心に残された“熱”だった。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


昼休み、屋上。


ユウトは、コンクリートの片隅に腰を下ろし、パンを食べていた。

耳にはイヤホン。ピアノの旋律が流れる。


 


その音が、彼の感情を鎮めていた。

昨日までの静けさを、保つためのリズム。


 


(……あの夜みたいには、ならない)


 


ミナの泣き声が、記憶の奥から微かに蘇る。


それをかき消すように、音量を上げようとしたその時。


 


「やっぱり、ここだと思った」


 


突然、背後から声がした。

振り返ると、風に揺れる長い黒髪――東雲リカが立っていた。


 


鋭く観察するような目。

どこか人の心を覗くことに慣れているような、そんな空気。


 


「……俺に、何か用?」


 


「ないよ。ただ――君、無理してるでしょ」


 


「……は?」


 


「感情。全部押し込めて。

でも、それ、限界近いよ?」


 


一瞬、ユウトの目がわずかに揺れた。


 


「……放っておいてくれ」


 


「うん、そう言うと思った。

でもね、覚えておいて。感情ってのは――

“押し込んだままじゃ、消えない”よ」


 


それだけ言って、彼女は立ち去った。


 


ユウトは、なぜかイヤホンを外すことができなかった。


 


(俺は……何を怖がってるんだ?)


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


放課後。

ユウトは薬局で薬を受け取り、保冷バッグにしまう。


空は夕焼けに染まりはじめていた。


 


帰宅途中、近道の裏路地に入ったその瞬間――


 


ドンッ!


 


爆風が吹き抜け、風が巻き、視界が灰色に染まった。


 


「ッ……なに、これ……!」


 


視界の奥に、フードを被った巨体が現れる。

見覚えがある。


テレビで見た顔――紅眼の構成員、“烈震”の獅堂カイ。


 


カイは、周囲の瓦礫の中に倒れている誰かを踏みつけると、

こちらに顔を向けた。


 


「……通りすがりか? まぁいい、どっちにしろ踏み潰す」


 


風に煽られ、ユウトの手から薬袋が落ちる。

中身が、コロリと地面を転がった。


 


「――!」


 


手を伸ばす。

だがその瞬間、カイの拳が空気を裂いて飛ぶ。


 


「消えろや、小僧!!」


 


強烈な衝撃が、ユウトの体を吹き飛ばした。


背中を地面に打ちつけ、視界がぐらつく。

肺に空気が入らない。音も、光も、ぐしゃぐしゃに混ざっている。


 


(また……守れないのか?)


 


妹の笑顔が、ふと浮かぶ。


 


『お兄ちゃん、わたし……信じてるよ』


 


涙の跡が残る笑顔。

それだけが、ユウトの胸を強く締めつけた。


 


「……いやだ……また……!」


「俺は……ミナを守るために……!」


 


感情が、爆ぜる。


怒りと恐怖、悔しさと願い――

そのすべてが、心の奥から溢れ出した。


 


――断片、発動。


 


衝撃波が走る。

カイの巨体が、吹き飛ばされる。


ユウトは、ただ立ち尽くしていた。


震える手。荒い息。

でも、その目だけは、確かに“何か”を宿していた。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


粉塵が舞い、しばらくしてから――


瓦礫の山の中で、カイの腕がゆっくりと動いた。

擦れたフード越しに見えたその目は、怒りと戸惑いに満ちていた。


 


「チッ……なんだよ、あのガキ……」


 


唸るような声。

拳を握り、立ち上がろうとするが、その動きは鈍い。


 


「まだ……終わっちゃいねぇからな……」


 


その背後から現れた仲間の“紅眼”構成員が、静かに撤退の合図を出す。

カイは渋々従い、瓦礫の影に姿を消した。


 


 


◆ ◆ ◆


 


 


その場に、ひとりの少女が音もなく降り立った。


長い黒髪を風に揺らしながら、東雲リカがこちらを見ていた。


 


「やっと目覚めたね、如月ユウト」


 


彼女は、微笑む。


 


「ようこそ――“断片”の世界へ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
初投稿おめでとうございます! そしてお疲れ様です^^ 設定もしっかりとしてて、長すぎないので読みやすく、引き込まれる1話でした! SF好きにはたまらない!! 2話読んできまーす( ˆᴘˆ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ