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狼-ROW-  作者: 深河優雨
1/1

1話

深河優雨です。中学生の時に書いていたラノベのようなものに友人が興味を示したために文字起こしする運びとなりました。1話はあんまり説明がなく2話からこの世界に説明が着くのですがそれでもよれけば。というわけで、ハイファンタジーをご覧下さい。



1人の武人が、足首ほどの草の生い茂る森に佇んでいた。細身の躰からは彼の人が武人であることなんて読み取れない。けれど、ここら一帯を護る、ギルドの戦士の紋章が襟にきらりと光るのが見え、その黒い皮の手袋をはめた手には、短槍が握り込まれている。

美しい武人だった。真っ直ぐに伸ばされた長い赤毛はポニーテールにまとめられていて、そよ風に数束、キラキラと煌めいていた。

けれど、その武人は人間では無い。どこからどう見ても、獣の尾と耳が武人にはくっついていて、時折その耳がぴるぴると揺れる。

と、ひときわ強い風が吹く。木陰に佇む武人へと木の葉が落ちていった。

また違う、一陣の風が吹いた。槍を振るう鈍い風切り音が響いて、武人が閃くように槍を振るう。

木から離れた木の葉が、地に着く頃に、真っ二つになっていた。

ゆっくり、ゆったりとした動きから、閃くような鋭い動きまで、その武人の躰から人間離れした動きが繰り出される。

その武人がゆっくりと動きを止めようとした、その時。

武人の短槍が何かを弾いた。

1拍遅れて銃声が尾を引いて消えてゆく。

武人がその場から飛び退けば、先程まで武人の立っていた場所が、突風に襲われた。

「覚悟!!」

と、飛び退いた武人に何者かが襲いかかる。

「いかずちソーォォォド!!!!!!」

ダサい。何がどう、と言えないほどダサい。

何者か───金髪で額に十字架のタトゥーが入った青年かがダサい技名を叫びながら武人に剣を振るう。

そのダサさからは比べ物にならない程の剣技だ。武人はだんだんと後ろへ後ろへと追いやられていく。

と、木陰からまた別の何者かが飛び出した。この距離なら武人はひとたまりもない。

水色の美しい髪をした少女が、手にトンファーを握って武人へと距離を詰める。

武人の足元がよろけてしまう。それを見た金髪の青年と水色髪の少女は武人に一撃を加えるために武器を振りかぶった。

が。

フッとしゃがんだ武人が、2人の足元を短槍で薙いだ。避けようとバランスを崩した2人の肩を掴んだ武人は、2人の勢いをそのままにし、衝突させる。

「い"ッッッッだぁぁあ!!!!」

「ぃっ……………!!!!」

ごちん!!!と派手な音が響いて、よろよろと2人がよろける。これで戦闘は終わりに思えた。だが、赤毛の武人は足元の石を蹴り上げ、短槍でそれをとある木の方へと打った。

と、木陰から呻き声が聞こえ、最初の銃声の主だろう、エメラルドグリーンの髪色のメガネをかけた青年が銃を取り落とす。

赤毛の武人が、ふ、と息を吐いた。ところが武人は何かを警戒するようにピタリと動きを止めた。

「Quietly put your hands up!」

赤毛の武人の背後に立った何者かが、武人に何かを突きつけ、鋭く言い放った。

「put your weapons down!」

赤毛の武人が動かずに居れば、何者か───ピンク髪の青年はさらに声をはった。

「Hurry up! put your weapons down and put your hands up!」

武人が足元に短槍を置いて、両手をあげようと立ち上がり直すのを見たのを見て、ピンク髪の青年に隙が生まれた。

それを見逃さず、武人は足元の短槍の先端を踏み、跳ね上げて手に取り、ピンク髪の青年の突きつけていたものを薙ぎ払った。

甲高い音を立てて、何やら液体の入ったビンがころころと転がっていき、なにもそこにはなかったかのように溶け消える。

しばらく、静寂が場を支配した。

「……86点。及第点だ」

赤毛の武人が、服のホコリを払いつつ襲ってきた4人を見回す。その声は、凛々しい見た目からは想像出来ないほど幼い子供のようだ。

「レーーーイ!!!! さっきのわざところんだろ!!! ひどいじゃねーか! こんなにおでこがズキズキいたんで……! ってか、今日も異能使わねえの? やっぱ、すごすぎて見せらんないとか?」

しくしくと大袈裟に泣き真似をしてみせる金髪の青年は赤毛の武人をレイと呼んだ。この言い方では、まるでこの5人が知り合いかのようだ。

「鋼夜。だが、手練と戦うのならこういう事態も想定せねばならない事もあるだろう。……まさかあんな攻撃の仕方をされるなんて……」

金髪の青年はメガネの青年に鋼夜と呼ばれた。

「う〜ん、時雨に同感。僕も手加減したつもりはなかったんだけどな……。麗、おでこ大丈夫?」

ピンク髪の青年はメガネの青年を時雨、と呼んで、水色の髪の少女に麗、と呼びかける。

「うん、竜……。ちょっとたんこぶ、できちゃっただけだから」

麗と呼ばれた少女がピンク髪の青年を竜と呼んだ。

「ちょっと待っててね。今治してあげるから」

竜が麗のおでこに手をあてて、聞き取れない程の声量で何かを呟いた。

手を当てたところが優しく光ったと思えば、麗のおでこにあったたんこぶは消えてしまう。

「竜! 俺のも治してくれよ〜」

わちゃわちゃと戯れる4人。と、レイが鋭く声をはった。

「時雨!獲物がそこに来るのを待つ手段をとったな? 動かないオレのような獲物はさほど居ない。動ける獲物を確実にとらえろ。」

時雨は自分の隠れていた木陰を見上げる。確かに、レイがここで訓練するのをわかっていて自分は少し前からここに待機していた。

「鋼夜! お前は少し大雑把すぎる。剣技の腕は9日前より重さが落ちたな。スピードをつけるのも良いが、お前の一番の強みは重さだ。重さ・速さ・異能のバランスをつけろ。あとは防御を少しくらい覚えろ。オレのように受け流すだけの敵ばかりじゃない」

鋼夜はゲ、と空を仰いだ。気づかれたくないところに気づかれた、というふうだ。

「麗! お前はもう少し前に出ろ。いつだって防御できる体制でいるのは良くない。お前は身体のしなやかさと速さが強みだ。筋力をつけるのも良いが、少し動きが硬かった。トレーニングとともにストレッチも増やせ。……後、もう少し自信をつけるのも良い」

麗は、自身の手に握ったトンファーを眺める。

「竜、最初の風は当てるためではなく誘導も兼ねているだろう。そこは十分だ。だが、その後だ。お前のアルカナを理解しない者は小瓶を突きつけられたとてもっと抵抗する。そうすれば傷つけられない者だった場合お前は為す術がない。武術と暗器の扱いも学べ、アレは便利だ」

竜は「あはは……どこまで見透かされてるんだろ……」と、遠い目をする。

そんな4人に、レイは黙って背を向けた。

「レイ、帰るのか?」

時雨が呼び止めるも、レイはお構い無しだ。

「えっ! レイ帰んの? じゃあ、紅玉館まで競走しよーぜ! 木の上だろーと獣道だろうと早く帰った奴が勝ち!! 訓練にもなるしいーだろ?」

鋼夜がニヤニヤと腕をばたつかせた。レイが反論する前に、麗や竜が立ち上がる。優しげな顔をしていたって、この5人は武人だ。負けず嫌いな奴らしか、どうせ集まっていない。

「じゃあ、あの木の木の葉が落ちたら競走開始な!」

勝手にしろ、と言いたげにレイが構えに着く。

ヒラ、と木の葉の付け根がポロリと取れたのを視認するかしないか、最早反射のレベルだろう。皆が駆け出した。

草原を駆け抜けるその姿は、まるで狼のようだ。

殺気立ったその気配に、ケモノは皆隠れてしまう。

と、彼らの持つクロス型の紋章が熱を持ち、紅く輝いた。

「うわっ、収集じゃん!」

「仕方ないよ。……最近、多いから」

「ホント、そうだよねぇ。昇華させてもさせてもキリがない」

「竜! 収集場所は何処だ?」

「えーっとね、中央区……オストワールの街だ。広場の噴水近くに出たらしい。……って、みんなのクロスだって獲物探知できるんだから、こういうの得意な僕に丸投げしないでよ〜! みんなの基礎アルカナに合わせてあるってこないだ聞いちゃったんだからね!?」

「いやぁ〜、俺ってほらぁ、大雑把なの得意だからさ? んな怒んなって」

「鋼夜、足元」

「ん? どぅぁぁあ!?!!」

鋼夜が木の根を避けるために失速する。

「ふふ! コレでチャラね!」

「こんにゃろ、お前アルカナ使ったろ!」

彼らはめいめい、高い木立の枝枝を移り、あるいは木の根を飛び越え、まるで遊戯かのように進んでいく。

と、高い壁が見えた。

よく見れば、それは城壁だ。

「我ら、汝を守護する者。 Sleep the sheep《眠れる仔羊》の名において汝を害す者を許さじ、我らを迎え入れよ!」

声高に謳うレイの声に応えるように城壁までへと導くように空に硝子のような階段が現れ始めた。これは、この城壁に護りを施したかつての世界の賢者達が遺したものだと、この城の中に住むものなら一度は聞いたことがある。

「行くぞ。音からして、分裂するようなモノだ。いつもより忙しくなる。竜はいつも通り治癒と街人を守ってもらう。時雨、お前は長距離援護だ。街人を護りつつ、小物を片付けてもらうことになるが、やれるか。麗、鋼夜。お前たちはオレと共に本体を叩く。だが小物を昇華させねば街人にも被害が行く。分散して戦うぞ。皆、得物の用意は?」

段を飛びつつ、レイが問いかける。

「じょーとーだァ!」

「大丈夫だよ!」

「わかった、」

「やれるに決まっているだろう!」

「では、crimson lotus wolf一同………───殺れ」

レイの一声と共に、いつの間にか小瓶を手にしていた竜が小瓶の蓋を開ける。

途端に中で輝いていた銀色の液体がドロリと溶けだし、一陣の風となって彼らにまとわりつく。

賑やぐ街々が下に見える、硝子の階段から大きく空へと飛び出した彼らの翼のように風が巻き起こって、黒い瘴気が蠢いている広場へと導いていく。

悲鳴がここまで響いて来るのが聞こえた。レイの唇が引き結ばれて、彼は胸元につけていたクロスを乱暴に手に取った。

「Γίνε το όπλο και η δύναμή μου!」

レイの言葉は、異界の言葉のようだ。それもそうだろう、このクロスはレイの所属する"ギルド"の長がそのアルカナで異能を施した、それぞれの得物に変わったり情報伝達などをしたりするものだ。得物に変える際の言葉は重要な意味を成す。

レイのクロスが、持ち手の細い大斧に変わる。

「……アイツら、運が悪いな。今のレイ、相当強いぞ」

時雨のつぶやきをよそに、風をまとった5人は空から瘴気の元へと飛び降りた。


「仔羊のメンバーだ!! ギルド戦士が来たぞ!!」

「もう大丈夫だ……!」

「でも誰だ! その辺で修練してるだけの仔羊じゃ意味ないんだぞ!!」

5人に気づいた街人達がレイ達を見上げる。

「へへっ、じゃあいっちょ行きますか!! 」

鋼夜が、クロスを長剣に変えると、大きく振りかぶった。

「Irascimini, tonate!!」

鋼夜の長剣が、バチバチと光を帯びていく。

「降れ!!!」

鋼夜が長剣を振り下ろせば、稲光があちこちに分裂した瘴気達に細いながらも稲光が空から降る。

「 !!!!!!」

断末魔の悲鳴が尾を引いて、本体であろう大きな瘴気が苦しむように身悶える。

「もう大丈夫! 僕達が来たからね」

竜が小瓶の蓋を開ければ、一陣の風が街人達をつつみ、安全な所へと連れ去っていった。

「紅狼だ、紅狼が来てくれた……!!」

誰かが呟いた一言に、ささやかなざわめきが波のように街人達のあいだへと広がる。

「行くぞ!」

レイが大斧を片手に瘴気へと走る。

「おうよ! 遅れんなよ、麗!」

鋼夜と麗がレイに続けば、突然足元の地面が、グラり。揺らいだ。

「コイツ、地面に根を張って……」

麗の声に、鋼夜は麗を振り仰いだ。

「あそこ、なんか出てる」

のろ、と這い出たナメクジのような瘴気の触手に麗はトンファーで打撃を撃ち込む……が、何故か、霧散しない。

「こいつ、物理攻撃が効かない」

「は? 麗の力が弱ぇんじゃなくて? ……時雨! この、コレ撃ってくれ!」

時雨がその声に、地面からのろりと突き出した瘴気へ弾丸を撃ち込んだ。

ぐぁば。

「ひえ」

瘴気に何か口のような物が開いて弾丸を包んだと思えば、弾丸をごく、と飲み込む。と、1拍遅れて瘴気が撃ち抜かれて霧散した。

「何こいつ、キッモ!!! 食った!!! 時雨ちゃんの異能でどうにかできないの!?」

「煩いぞ鋼夜!! 私のアルカナだって弾だって無限じゃない!! アレじゃないのか、ダメージを蓄積していくタイプじゃないのか!?」

ぎゃあぎゃあと喚く2人に、レイがきょろ、と辺りを見渡し、一言、呟いた。

「ここら一帯は、""電気"" を扱っている」

「電気? 」

鋼夜が繰り返せば、レイはくるりと向きを変えた。

「オレがアイツを食い止める。アイツは見たところなんでも""喰らう""ぞ。お前と麗が力を合わせれば、きっとアイツを昇華させられる」

「はァ!?てか、ここでもいつもみたいに異能使わねェ気か!?Sleep the sheep随一の能力を持つレイさんはどうしたよ。さぞ強い異能持ってんだろ!?マジで何言って………」

鋼夜の話も聞かず、レイが揺らぐ地面を駆け出した。

「ちょ、おい待てよレイ!!」

鋼夜が止めようとしたって、その細い体躯はもう瘴気の元へと飛び込んでいく。

「アレじゃ自殺行為にしか見えないぞ。どうするんだ? 麗、鋼夜。お前たちに託されたんじゃないのか?」

時雨が他人事のように問いかけるのを、麗がキッと睨みつける。トンファーを握る手に痛いほど力がこもるのを見ても、時雨は何処吹く風だ。

「文句でもあるか? レイはお前たちにしか倒せないと思ったから捨て身で時間を稼いでいるんだ。レイが死ぬかどうかはお前たちの手腕だろう」

冷ややかなメガネの奥の瞳を、これ以上やったところで無駄だと麗が視線を切り離した。

「レイは""電気""と言ったぞ、鋼夜」

「だからそれがどーしたってんだ! 電気が通ってたところで意味なんかねーって! どーすんだよ、なんでも食うっつったって感電でもさせんのか!? そんな量の電気がどこにあるってんだよ時雨ちゃんのバカ!!!」

「は!? 誰がバカだこの単細胞!! お前の言葉が全てだろうが!!」

「全てってなァんですか〜!? 時雨ちゃんの言う通り単細胞にゃわっかりっませェーーーーん!!!」

「じゃあレイが死ぬのを黙って見てろ阿呆!!」

「はァ!? この冷徹メガネ!!」

ギャーギャーと喧嘩なんておっぱじめた2人に、竜が街人を護りつつ怒号を飛ばした。

「そこ!! 喧嘩なんてしてる場合なの!? レイが死ぬって言ってんだけど!! 僕の異能で援護してるけどこのままじゃ僕が尽きてレイが喰われるよ!? レイが喰われたらこの先僕らだけでやってけると思ってんの!? 市民を不安にさせるな!!どっちがバカとか関係ない 2人ともバカだよ!!」

と、突然麗が走り出した。近くの道脇に店を構えていた電気家庭魔具店の、たくさんのコードが繋がった高級そうなシャンデリアを、トンファーを重りの着いた鎖に持ち替えて付け根目掛けて投擲した。

「麗、何してんだよ!!」

慌てて鋼夜が止めに入れば、麗はそれを振り払って思い切り突き飛ばした。

「ッて……」

「鋼夜」

麗が、突き飛ばされて尻もちをついた鋼夜の胸ぐらを掴んで、鋼夜の碧眼を覗き込んだ。

「このままじゃ、レイは死んじゃう」

「わぁーってるよ!! だから……」

「だから、コレを使う」

麗が、シャンデリアの付け根に繋がった鎖をぐいと引く。

「ちょ、おい、落ちる……」

「鋼夜、コレのコードは地面に接地してる。アイツは、なんでも喰う。外面からの攻撃が効かないなら、内面からしかない」

鋼夜の頭に、カッと血が昇った。さっきから、なんなんだ。と。自分の分からない言語みたいな話をして、分からない鋼夜自身が悪いのか、と。

鋼夜は、「離せよ!」と、胸ぐらを掴んだままの麗の頬をはりとばした。

「だから!!! コレのコード喰わしたって感電なんかしねえだろ! 家庭用電気魔具だぞ!? 魔法の使えないヤツにも使えるようにそりゃアルカナの伝達度は上がってる!! けどそれだけでどーしろってんだよ!! レイが喰われるのが先だろ!!」

「鋼夜が、いる」

麗は、鋼夜がはりとばしたことを気にもとめず、目もそらさなかった。その淡いマゼンタの目は、真っ直ぐに鋼夜を射抜いている。

「鋼夜の異能、雷。家庭用電気魔具は新しいものならアルカナの伝達度も、高級品なら量も質も高くなる。鋼夜のへぼっちい雷だって、このコードを通したら、10倍に、鋼夜が本気を出した異能なら100倍にだってなる。きっと、レイが切り刻んだってアイツに与えるべきダメージには、届かない。だから、お願い。レイが、喰われる前に。ボクじゃ何も、できない」

何も言えなかった。鋼夜が言った言葉がそっくりそのまま答えに繋がっていて、あの口振りでは時雨も竜も、レイも、みんなこうすればいいと最初からわかっていた。頭を巡らせるのがあまり得意ではないこいつにだって先を越された。鋼夜自身が何も分からないのが悪いのか。いや違う、そうじゃない、言い訳をしたいんじゃない。

自分はただ、悔しいんだ。

「レイ!!」

竜の叫びにハッとレイの方を見やれば、レイは蠢く瘴気に片脚を取られていた。

「レイ!!」

咄嗟に呼べば、次の瞬間には、レイは瘴気を切り刻んでまた瘴気へ立ち向かっていく。

脚だって、切り傷だらけだ。腕だって、何度瘴気に絡め取られたのか。

「鋼夜」

麗が、自分の胸ぐらをぐい、と一際強く引いてから、突き放した。

と、同時にシャンデリアが地面へ向かって落下する。

耳が壊れるかと言うほどの音が響いて、ギュッと目をつぶれば、麗はもうそのシャンデリアの方へと駆け出していた。

「竜! 風を、貸して!」

「わかってる、でも、もうあと数回しか出せないよ! 打ち損じたら、風に切り刻まれる……」

「わかってる、でも」

真剣な麗の様子に、竜も諦めたようだ。どこからともなく小瓶を出して、蓋を開ける。

小瓶から無重力かのように溢れ出た銀色の液体は、麗の持つ鎖に繋がったままのシャンデリアを取り巻いて、風に変わった。

「鋼夜」

麗がくる、と振り返って鋼夜へ少しだけ口の端を吊り上げた。

「遅れないでね」

『遅れんなよ、麗!』

そう言った自分への皮肉だろうか。

麗は風を引き連れ、瘴気へと向かっていく。

いくら風でも、自分達を浮かせるよりもシャンデリアの方が重たい。麗の頬や腕を、ピシピシと風が打ち付ける。

(こうするしかない、でも、俺が雷の使い方を間違えれば、このコードは地面に接地しているんだ、簡単だ、街の人だって俺らだってタダじゃ済まない)

瘴気がいっそうと酷く暴れた。

「鋼夜!! もう弾がない、援護ももう後がないぞ!」

「鋼夜、僕ももう障壁は持たない!」

(でも、だけど、俺がみんなを殺しちまったら、)

「いつまでぼゥっとしている! 鋼夜! ""答え""はわかったんだろう!?」

レイの怒号が響いて、鋼夜は顔を上げた。

「歳下の麗がここまでやったんだ、麗の頬を殴り飛ばしただけの落とし前はつけられるだろう! お前は考えるのが苦手だ、それがどうした、お前の異能で見返せばいい!! それともなんだ!? お前の力が及ばずに人が死ぬのを、黙って見過ごすか!?」

レイの大斧を振るう腕が、精度が低い。震えている。それでもレイは大斧を振るうのをやめない。

麗が、風に翻弄されつつも、瘴気へ確実に迫っていく。

「お前の異能に、私たちパーティーとこの街の人々が賭けられたんだ!! 誇れば良いだろう!? お前の異能はそれほどに価値があるんだと!! みっともなくうずくまっているだけのヤツに、このパーティーにいる資格は無い! やればいい、お前の力を見せつけてやればいい!! お前は、crimson lotus wolfの、墨村鋼夜だろう!!」

その声が。

いつも涼しげに自分達を圧倒するその声色が。

「るっせぇ……」

鋼夜は、クロスに戻ってしまっていた紋章を手に取った。

「復活が遅いぞ、鋼夜!」

「やれるんじゃん!」

「あと10数える、そしたらボクがこいつの口に突っ込む!」

「カウントダウンは必要か? 単細胞」

「要らねえ!!」

麗が、グッと脚に力を込め、上へ跳んだ。それに合わせて、時雨が最後の弾倉を銃へ補填する。

「汝名のついた護りなり、名をつけた者を護らずはただの壁なり!汝を犯す者を我は許さず、昇華されよ悪しき者共!」

竜が大幅に障壁を展開させる。

麗が、ガバ、と空いたその口にシャンデリアを叩き込むその瞬間、鋼夜は地面へと長剣を突き刺した。

「Irascimini, tonate!!」

先程の非ではないほどの火花が飛び散り、 瘴気へと、目が眩むほどの雷が落ちた。

「     ───〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

断末魔の悲鳴が、目が眩んだ間に、溶けて消えた。

視界は霞んで、脚は踏ん張るのが精一杯だ。

「は、はは………、やっぱ、俺って、すげェ、」

霧散していく瘴気を眺めつつ、ぐら、と傾いだ鋼夜の躰を、誰かが受け止めた。

「ァ、あれェ………? し、ぐれ?」

見上げれば、豊かな長い白髪が目に入る。

「鋼夜くん、よく頑張ったね」

「白魔、師長?」

梟の半面をしたその男は、薄桃色の唇に薄く笑みを刷いた。

「うん。そうだよ。…………遅れてごめんね」

頷いたその白髪の中性的な男は、白魔と言う。ギルド、Sleep the sheep を率いる、張本人だ。

「白魔師長、レイ、と、みんな……」

鋼夜を横たえつつ、白魔は優しい声色で教えてくれた。

「……麗くんは疲れきっていて、躰への切り傷が目立つけれど無事だよ。竜くんはアルカナの使いすぎだったけれど、休めば大丈夫。時雨くんは迅速に状況を対応してくれている。街の人々はみんな無事だ」

白魔の言葉に辺りを見渡せば、ここから少し遠くにあるギルド本部からの応援だろう、対応に追われるギルド隊員達が見えた。

麗はあちらの方で治癒異能を受けていて、竜は座り込んでいる。時雨は対応におわれる他の隊員たちと共にあれそれと指示をしている。が、肝心の彼が見当たらない。

「白魔師長、レイ、れい、は?」

「……ここに」

白魔が自身のマントを捲れば、傷だらけのレイがその胸に躰を預けていた。

「レイ?」

静かに目を閉じるその横顔はゾッとするほど美しくて、鋼夜は背筋が冷えるのを遠くで感じた。

「……こぅ、や、」

レイの口が、自分の名を呼んだ。

億劫げに開けられたそのまぶたから覗いたエメラルドの瞳がゆっくり自分を捉えて、レイの口が優しく微笑んだ。

「やれば、できるじゃない、か」

何度も瘴気の触手に絡め取られたその腕や脚の隊服は破れてしまって、切り傷だらけの腕がむき出しになっている。

アザや擦り傷に、何度も地面に叩きつけられただろうことが伺える。

その細腕で大斧を振るい続けるのはたいそうキツかっただろう。筋肉なんてコブにもならないほどの細腕だ。

「おまえ、オレに、異能を使わないのか、問うただろ、?」

そういえば、鋼夜は言った。何故異能を使わないのかと。ギルド1の戦士を謳われたほどのレイは、強さの秘訣をバレるのを恐れているのでは、と思ったから出た言葉だ。

「オレに、使える異能は、ないんだ」

いっしゅん、頭が真っ白になった。

「オレの家系は、異能者だけしか居ない、が、何故か、オレには、まだ、異能が、使えなくて……」

「レイくん、それ以上は」

白魔がレイの情報を遮るものの、レイは虚ろに鋼夜を見ながら、続けた。

「不安に、させたかもしれない……でも、お前ならやれると、思っ、たんだ。ッ、! げほ、」

レイが乾咳を繰り返す。

じゃあ、なんでコイツはこんな細腕であんなに重たい武器を持てるんだ。コイツが人間より優れている亜人だって言っても、犬の亜人はそんなに強くは無いはずだ。限度がある。いくら強化異能の施された装具だって、使い過ぎれば反動が来る。

「オレは、狼の、耳付きだから、その力を、少し増長することしか出来ない……は、はは、失望したか? 所詮は、ただの耳付きだ……」

耳付きとは、レイのような獣とヒトのあいだの亜人を指すスラングだ。それを、ギルド随一と言われたレイが自ら。

「お、狼の耳付きって言ったって、そんなのもう居ないはずだろ……? そんな冗談笑えねぇよ」

狼、白蛇、白烏………。血が途絶えたと言われる、強力な力を持つ亜人。その種族を名乗ると言うことは、相当なことだ。

「………はは」

レイは軽く嘲笑して、なおも続けようとした。

それでも、その声は上手く声にならない。

「ぉれ、は…………な、………だ、」

「レイ。レイ。もう良いんだよ。もう言わなくていい。……眠りなさい、大丈夫だ。私がいる」

「はく、ま、………せ、わ、…しは、」

「うん。大丈夫。大丈夫だよ。………おやすみ、レイ」

白魔が、レイの目をその真っ白な骨ばった大きな手で覆う。その手がそっと外れる頃には、レイはすっかり寝息を立てていた。

「白魔師長、今の………」

鋼夜が白魔を見上げても、目元を覆う面をつけた白魔の表情はさほど読み取れない。

「鋼夜くん、今のは忘れなさい。この子が正気の時に自分で話していいと思うまで、この話は明かされるべきじゃない。それに、この子は………きっと未だ独りぼっちだ」

白魔のアルカナを持ってすれば、鋼夜の今の話の記憶だけを塗り替えてしまうことも出来るかもしれない。それでも白魔は鋼夜自身が口を噤むことを要求した。

「………わかりました」

鋼夜がそう言えば、白魔は口元に笑みを浮かべた。

「疲れただろう?」

白魔の手が鋼夜の目を覆う。ヒヤリとしたその感触に目を閉じれば、奥底の方から眠気が混み上がってきた。

「………今はお休み、私の可愛い仔羊達」

白魔の声を遠くに聴きながら、鋼夜はゆっくりと意識を手放していく。最後まで脳に残っていたのは、素性も、能力も、その性格でさえ全く何も分からない、自分達のリーダー……レイのことだった。

いかがだったでしょーか。これから不定期に話数が上がります。気が向いたら読んでやってください。

Good night and have a nice dream……

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