05
お越しいただきありがとうございます。自分なりに調べたのですが問題があれば教えて頂ければ嬉しいです。
◇時間は遡り 吉田城内◇
吉田城上代、酒井忠次から留守の城を預かっていた異母弟、酒井恒城は狼狽えていた。
突然に襲われた激しい衝撃音と暴風により、北西の櫓が半壊したのだ。
武田の進軍に備える為の指揮を取っていた恒城は、たまたま櫓から外に出た事で難は逃れたが、暴風の後に訪れた眼前の惨劇に足が竦み狼狽する。
「叔父上。何があったのですか」
忠次の長男の小五郎が駆け寄る
「こッ………小五郎か。なにがあったかワシにも分からん」
狼狽えた叔父は放っておき、小五郎は近くに居た家臣達へ指示を飛ばす。
「目撃者を洗い出せ。武田の別働隊かもしれん対岸の探索も忘れるな。損害状況の確認に、負傷者を一箇所に集めよ。些事でも報告を怠るな」
元服前の小五郎の凜とした采配に驚いた家臣たちが、一斉に動き出した。
以後の事を考察している小五郎の下に目撃者を連れた家臣から報告が上がる。
「この者たちが目撃者です」
小五郎が目撃者たちに目をやると、何かに怯え震えていた。
「何故にこの者たちはこれほど怯えているのだ」
家臣が困ったように答える。
「余りにも人を食った内容でして」
「構わぬ。申してみよ」
怯えていた中の一人が思い切って口をひらくが、その唇は震えていた。
「あぁ・・あれは化け物です。化け物が襲ってきました」
確かに人を食った内容だと小五郎は思うが、大掴みすぎて詳細が分からないのでは困る。
「化け物とは何だ。武田の兵器のことか」
「あれは兵器ではありません。化け物………いえ妖怪です。七色に光る巨大な妖怪でした」
他のものが口を挟む、その者も怯えていたが他の者とは違うように見えた。
「あれは妖怪ではありません。りゅ………龍神様です。七色に輝く白銀の巨大な龍神様です。龍神様の怒りに触れたのです」
一人が龍神様と言うと、堰を切ったように目撃者全員が口を開いた。小五郎に対してではなく、お互いが確認するように話し合っている。
その様に小五郎は声を呑む。武田の攻撃と考えていたが、化け物、妖怪、龍神と目撃者からは信じられない証言が上った。目撃者も一人二人でなく、この場には十名以上いる。その全員が龍神だと言い始めた。
雲を掴むような思いの小五郎の下に、新たな報告が上がり始めた。
「報告します。西方、南方、東方に敵兵の姿はありません。対岸北方にも敵兵の姿はありませんが、北東に向け幅が半丁ほどの道が切り開かれています」
「その道はいつからあった」
「午の刻には無かったと報告を受けています」
「分かった。以後その道を中心に探索の範囲を広げよ」
指示を受けた家臣がその場を離れると、次に控えていた者から報告が上がる。
「本丸北西を中心に被害は甚大です。二次被害を避けるため一旦二の丸に下がった方が良いと考えます」
「周辺に敵兵の姿はないと報告を受けている。負傷者を優先に全員二の丸に移動せよ」
小五郎の指揮の下に家臣たちが移動を開始する。
家臣団は負傷者たちを囲むように歩いている。ほとんどの者が軽傷の様で痛みに耐えながらも自力で歩いているが、中には肩を借りるものや背負われる者も少なからずいた。死傷者がまだ残されているかも知れないと思うと気が重くなるが、小五郎は先程から驚くような顔をして自分を見る恒城に声をかける。
「叔父上。我々も向かいましょ」
呆けていた恒城は我にかえり気まずそうに答える。
「………そうだな……そうしよう」
僅かに気まずい雰囲気の中、歩みを進めしんがりとして本丸門を通ろうとした時、轟音が上空から轟いてきた。
小五郎が急いで見上げると火球が吉田城を狙うように高速で落下してきた。突然の出来事に立ち尽くしてしまう。その間僅か五秒。初めは赤子の拳ほどの火球が小五郎の視界を塞いでゆく。二割、三割、五割、八割、小五郎の視界が炎で全て覆われた時、後ろから抱えられ地面に押し付けられる。
頭上から恒城の怒鳴り声が聞こえた。
「「「なにをしているっ。全員ふせろぉーーーー」」」
恒城の声をかき消す様に、凶悪な爆発音と熱風が暴風になり無慈悲に襲ってきた。櫓が吹き飛ばされる音と人の叫び声に混じり、陶器が割れるような甲高い音が何十回と繰り返し鳴り響いた。
僅か数秒後には先程までの惨劇が嘘のように一帯が静寂に包まれていた。小五郎は自分が生きている事を確認すると、背中から恒城の重さが消えている事に気付き、ゆっくりと膝をつき立ち上がる。
本当ならば一刻も早く現場の把握と家臣たちの安否の確認をすべき事なのだが、小五郎はそれが出来なかった。
上空に静止する其れから目が離せなかった。報告にあった龍神がそこにいたからだ。
それは言い伝えられている蛇のような身体ではなく、七色に輝く白銀の大きな身体に力強い両脚、背中にからは胴体よりも大きい翼が生えていた。見たことも無いそれを小五郎は龍だと思った、いや違う。あれから「我は龍神だと」頭に刷り込まれる感覚か、なにも疑う事なく小五郎は竜、龍神だと理解した。
耳からは家臣たちの恐怖する声に混じり、恒城が痛みを堪えながらも恐る様に声を発した。
「ウッ・・今日の火球が竜ならば、先月も火球が落ちたと聞いる、ならあれも竜だったのか・・・この世の終わりを告げにでも来たのか」
家臣達は恐れるが、小五郎には美しい龍神にしか見えなかった。心を奪われてしまった。瞬きをするのが惜しいと思う程に、ただ見続けていたかったが、恒城が痛みを堪えていることを知ると無視はできず恒城を見る。
小五郎を庇った事でかなりの怪我をしていた。飛ばされた櫓の破片があたったのか、頭から血が流れ、着物は肩から腰まで裂け背中は深い切り傷を負い、熱風に焼かれたのだろう赤く爛れていた。
「……叔父上。その怪我は私を庇った事で…」
小五郎に最後まで言わせない様に恒城が言葉を被せてきた。
「小五郎。お前が無事ならばそれでよい。どこか痛むとこはないか」
恒城は優しく、慈愛の満ちた眼で小五郎を見る。小五郎は恥ずかしくなる。先程の恒城の情けない姿を見て、叔父を馬鹿にし自分のが優れているのではと思ってしまった事が、恥ずかしく、悔しくなり、両目から涙が流れた。
「……おッ………叔父上………私は…」小五郎は言葉を呑む。自分は何を言うつもりなのか、謝るなど叔父に失礼になる。ただ言葉を呑み、流れる涙を堪える為に俯くのが精一杯だった。
「頭を上げよ」頭上から恒城の語意を上げた声が聞こえ、小五郎は泣いた酷い顔を上げる。
「男子が人前で泣くではない。お前は兄上の跡を継ぐ身なのだから、家臣の前で涙を見せるでない。精進せよ」
その言葉に、小五郎は吹っ切れたように元気よく答えた。
「「はい」」
時を見計らっていたかの様に、小五郎達に緑に輝く小さな粒が小雨の様に降り注ぐと、恒城の傷が癒えてゆく。その様に驚愕する小五郎だが、その時も与えないとばかりに空から龍神の美しい声が鳴き響いく。
小五郎は急ぎ顔を上げ龍神を見ると、龍神はゆっくりと飛び立つ。七色に輝く白銀小さな粒を降り注ぎながら武家屋敷、城下町を旋回し東へ飛び立った。
絵画の様な美しい情景に心を奪われていた小五郎の頭に声が響いたが、その声は嫌な声ではなかった、むしろ心地好く感じた。
『もう良いかしら、そろそろ私達にも気がついて欲しいのですけれど』
小五郎は首を左右に振ると、皆が周りを探す様に首を振っていることから小五郎一人が聴こえている訳でないと分かる。
『ハァ〜〜ぁ』
『アーヤ様はホントに侮れませんわ』
『天然で美味しいところ持っていきますからね、私たちは出鼻を挫かれましたから』
『あの二人が良い感じになっていたので、タイミングを測っていていたのが良くなかったのですよね』
『それなら、多めに振る舞ったら良いのではないですか』
『いいですわね。そうしましょう』
『ではいきますわよ。仕切り直しよ』
先程の情景を心に焼き付けようと、余韻に浸ろうとした小五郎だが、頭の中で聞こえる声達の、上司への愚痴を聴かされ余韻どころか、残念感に満たされ頭を抱えたくなる。
小雨の様に降り続いた緑の光の粒が大雨の様に降り注ぎ、怪我どころか裂けた衣服も修復され、汚れすら無くなっていた。疲労すら取れた様だ、皆の血色が戻り奇跡を喜び合っている。
『皆さま、そろそろ私たちに目を向けて下さいな。身体を北に向け視線を十度ほど上げて頂ければ、私たちはいますよ』
全員が体の向きを変え視線を上げた。そこには見たことのない、黒い衣服を纏い緑色の光に包まれた美しい三人の女性が、地面から二メートルほど上で佇んでいた。
小五郎は今確信した。自分達は人外の者と対面していると、悪魔か神か、それを証明する術は小五郎にはないが、小五郎は目の前の者を神、天女だと自分の中で答えをだすと自然と膝をつき頭を下げていた。家臣達も誰一人文句を言う事なく、小五郎に習い全員が膝をつき頭を下げた。
『皆さま。礼を尽くして下さるのは嬉しいのですが、そこまで畏まらなくても良いですよ。頭を上げて下さい』
『このたびは、こちらの落ち度で皆様に多大なるご迷惑をかけた事、主人に代わりお詫び申し上げます』
『主人も此度の事で大変心を傷めており、主人自身が日を改め謝罪に伺いたいと申しております。その前に賠償のお話をしたいのですが、こちらの長はどなたですか』
小五郎は、なぜ一人で済む事を三人で分けて話すのか、その様な決め事でもあるのかと、つまらない事を考えていたのがいけなかっつたのか、恒城から背中を押され一歩前に出てしまった。
「何をされるのです叔父上」
「今日、お前は立派に長の勤めを果たした自信を持つのだ」
家臣からも声が上がる。
「若が二の丸への避難を御決断されたから、皆が生きているのです。若が皆を助けたのです。我らは小五郎様の下にお仕え出来たことを誇りに思います」
「皆のもの」小五郎が感動に浸る隙を与えないかの様に、アーヤの侍女三人が小五郎の前に降りてくる。
『貴方が長ですの、随分とお若いのですね』
小五郎は踵を返し少年の顔でなく武士として名を名乗った。
「吉田城城代、酒井忠次の子。酒井小五郎と申します」
小声ではあるが三人の本音が漏れてしまう。
『少年だと思っていましたが、これほどとわ』
『なんてかわいらしい子。アーヤ様からご褒美として頂けるよう頑張らないと』
『ショタ。ショタよ〜』
三人の目が妖艶に光り小五郎を捕らえる。
本能が危険を察知し“この場から立ち去れ”と訴えてくるが、小五郎は何とか止まり、様子が変わった三人に尋ねる。
「どぉ…どうかしゃれましたきゃ……」恐怖のあまりどもり噛んでしまった小五郎だった。
『可愛らしいこと』
「な………何か言われましたか」
『何でもありませんわ小五郎様』
『これから賠償の内容を決めて行きたいのですが宜しいでしょうか』
妖艶な雰囲気を消し去り、今は天女の様な微笑みを見せる三人だった。
「その前に聞きたい事があるのですが、宜しいでしょうか」
『えぇ、構いませんよ』
「あなた様達の主人はどなたで、何をされる為にこの地降り、どちらに行かれたのですか」
『まぁ可愛らしい、一度で沢山聞かれるのですね』
『確かに知っているべき事ですわね』
『我主人は世界の始まり神。昊天始神アーと、世の源の神。昊天元神マーャの御子であり、二神から全てを託された。生命を創造し生と死を司る神。光の神アーヤ様です』
小五郎は理解を超えた内容を聞かされて、思考が止まってしまう。
『この地に降りたのは子種…『『この惑星に住む者と同じ時を過ごす為です』』
一人の侍女が本音漏らしたのを他の侍女が誤魔化す様に語意を荒げたが、思考を停止した小五郎に救われていたなど知る由もなかった。
『その地から東で戦があると知ったからです』
戦と言われ飛びつく様に反応する小五郎。
「今、戦と言われましたか」
『四万から五万の人間達が集まり戦をしております』
小五郎は東に身体を向ける。東に戦う父忠次を想い独り言ちる。
「戦国の世が終わる時が来たのか」
最後まで読んで頂きありがとうございます。ログイン設定は解除していますので感想を頂ければ嬉しいです。




