23話 空間の観察②
マルスは落とし穴を掘っている。ネズミより大きな動物を生け捕るためであるがあまり深くすると獲物が死んでしまう恐れもある為、普通の落とし穴ではなく深さは浅く広めに掘っている。穴に落ちたら捕まえる事にしたのだ。穴からすぐに出れないように穴の底を広くしてすぐに登れない様に工夫している。
「こんなもんかな。」
マルスは落とし穴を作り獲物を待っていたが中々かからない。
もう2時間もじっと待っているがまったく動物の気配がしないのだ。生け捕りにすることが目的の為に監視をしていないといけない。
「退屈だな。」
などと独り言が出る事事態もう飽きている証拠である。
するとマルスの後ろから、魔物の気配を感じたマルスは気づかれないように身を隠す。魔物はゴブリンが3匹何かを探しているようだ。まだマルスには気づいてもいない。
マルスは4つ足の獲物を狙っていたがこの際ゴブリンでもいいか考えていた。ロープをほどけないように手をつかえなくすれば歪みにの中に入れる事も出来ると考えたのだ。
ただ生け捕りをすることが出来るかどうかであった。
殺すことは出来ても中々生け捕りにすることが難しいのだ。
マルスは1匹だけ生け捕りすることを考えていた。生け捕りにするゴブリンをまずは確保して他の2匹を倒すことにする。
1匹だけ少し離れているゴブリンに狙いを定め、マルスは剣を抜いてゴブリンに斬りかかった。ゴブリンの両腕を斬り落としたマルスは残りのゴブリンに向かっていく。2匹のゴブリンはぎゃぎゃと騒ぎながらマルスに向かっていくがマルスの剣に心臓を一突きされて死んで往った。
両腕を斬り落とされたゴブリンは瀕死であったがまだ生きている。
マルスはこのゴブリンの腕を火魔法で焼き血止めを行なった。
マルスは絶対に自分はこんな目にはあいたくないと思いながらゴブリンを縛っていった。ゴブリンは抵抗して歩こうとしないためにマルスはゴブリンを引きずるようにしてデリット、レギウスの待つ場所にやっとたどり着いたのである。
「ゴブリンを生け捕りか、やるもんじゃな。」
「レギウスさん、もう大変でしたよ。」
「そうじゃろうなこんなに時間が掛ったのじゃからな。」
そう、もう日が沈みそうであった。
「どうする今日はいったん帰るかのう。」
「そうですね、このゴブリンはどうしましょうか。」
「それなら歪みの前に杭でも打ち付けて一晩歪みの中に入れておいたらどうじゃ。」
「他の魔物に殺されませんか。」
「どうかは分からんがそのままにしても殺されるじゃろう。同じじゃよ。」
「そうですね。」
マルスは歪みの前に木杭を打ち込みロープできつく縛ってゴブリンと繋げて歪みの前に置いて帰る事にしたのである。
翌日またこの場所に来る予定であるがこのゴブリンは間違いなく他の魔物に殺されているだろうと予想が出来ていた。
だが翌日マルスたちがこの歪みに着いたときにゴブリンの姿はなかったが、ロープがかすかに動いていることを確認したのである。
「レギウスさん、ロープが動いています。ゴブリンが生きているんだ。」
マルスは急いで歪みの中にいるだろう、ゴブリンをロープで引っ張っていく。レギウスとデリットも協力して引っ張るが抵抗しているのか中々歪みから出てこないのだ。小さなゴブリンにこれほどの力が有るとは思えない。何か障害物にでも引っかかっているとしか考えられなかった。
マルスたちはロープを引くことを諦め様子を見守る事にした。
「レギウスさん、ゆがみの中はどうなっているんですかね。岩とかあるんでしょうか。」
「分からんな、村長は一度中をみているんじゃろ。」
「真っ暗で何も見えませんでしたよ。」
少しすると歪みから昨日のゴブリンが出てきたのである。そのゴブリンは昨日は無かった腕が生えていた。驚いたマルスたちは剣を構え戦闘態勢に入るが何やら様子がおかしい事になっていた。
そのゴブリンは一回り大きくなっている。腕も新しく生えている。それに縛ったロープがゴブリンと一体化していたのである。
ゴブリンから延びるロープはゴブリンから1メートルぐらいまで緑色の皮膚のようになっていた。
ぎゃぎゃと騒がしかったゴブリンは何も言わないばかりか、落ち着いている。
じっとマルスたちを見つめているだけである。
「レギウスさん、どういうことでしょう。」
「ワシにも分からんな。じゃがこのままこのゴブリンを殺すことはしない方がよいじゃろう。」
「そうですね、少し様子を見ましょう。デリットさんもそれでいいですか。」
「ああそうだな、手が生えるなど聞いたことがない。」
「そうですよね、昨日腕を斬り落としたのは間違いないですから、歪みの中で再生したと言う事でしょうか。」
「そうだろうな歪みの中で何かが起こったのだろうな。それに他の魔物に殺されていなかったことも不思議だな。」
マルスは「あっ」と思った。そうだ1時間おきに魔物が出てくるこの場所でなぜこのゴブリンは生きているのだ。弱い者は殺される。弱肉強食の世界が魔物の世界なのだ。
マルスたちは歪みを観察していると歪みの中から魔物が出てきたオーク1匹である。
歪みの外にいたゴブリンはこのオークに殺されると思ったが、オークはゴブリンの事が目に入らないのか眼中にないのかは分からないが。そのまま森の中に消えて行ってしまった。
「何なんだあれはオークはゴブリンが見えなかったのか。」
「見えないことはないでしょう。実際にあそこにいるんですから見えていると思います。」
「そうじゃろうな。オークは攻撃する意思がなかったと考える事しか出来んな。」
「それほどの知性がオークにあるんでしょうか。」
「村長、オークにはそんな知性などないぞ。」
デリックが強く断言する。
マルスもオークに知性がない事は分かっているが、不思議でならなかった。
するとレギウスが一つの仮説を立てた。
「この歪みの中で生まれた者達は争わないのかもしれんな。時がたてば争う事もあるのじゃろうが歪みの近くでは争いにはならんのじゃろう。」
「ますます分からなくなりました。ダンジョンでもない、この歪みは何なんでしょうか。」
「分かっていることは魔物を生み出す事だけじゃな。」
「レギウス殿、この周りを兵で囲ってしまったらどうでしょうか。」
「デリック殿、そうすべきじゃな。」
マルスたちは監視と排除が出来るように歪みの周りを兵で囲い。見張り台を作る事になった。歪みからは1時間おきに魔物が出てくることは分かっている。そのために魔物を処分して作業に移ると言う事を繰り返し仮であるが一応塀と見張り台が完成した。
これからは24時間体制でこの歪みを監視することになった。
「デリックさん、騎士の方々が監視でいいんですよね。」
「当たり前だ。それが我らの仕事だからな。私はいったん王都へ向かう事になるがな。」
「ですよねー、陛下にこの事を報告しないといけませんね。」
「今まで魔物が人間のように子を育てると考えられていたからな。」
「それもあるかもしれませんね。この歪みから出てきた魔物がこちらで生活しているうちに雄と雌が番になるケースもあるんじゃないですか。」
「そうだなゴブリン、オークなどは集落を作ることも有るからな。だが子供のゴブリン、オークなどを私は見たことは一度もないんだよ。」
「そうなんですか。」
マルスは集落を作るならば人間のように子供がいる事が当たり前と考えていたが、魔物は少し違うようだ。
デリックは報告の為にこの場を離れ、残ったのはレギウスとマルスの二人だけとなった。
マルスとレギウスは一日中歪みの観察を行った。
色々と実験をしながら歪みについて調べていった。




