14話 奴隷200人
「あのー奴隷は一人幾らぐらいなんでしょうか。」
「奴隷は年や能力によって金額が違いますが、一般的な金額ですと農業をさせる者達であれば金貨1枚ぐらいです。」
「金貨1枚ですか、奴隷は要りません。いいえ買えません。申し訳ありませんでした。」
「マルス村長、金の心配はしなくて大丈夫だ。」
デリックが奴隷商にコインを渡す。
「デリックさんそれは何でしょうか。」
「これはな王家の紋章コインだ。これを城に持っていくと買い物した代金を払ってくれるんだ。今回は王家が奴隷の代金をマルス村長の代わりに払ってくれるから心配するな。」
「あ、ありがとうございます。」
「マルス様、王都はいつまでおいででしょうか。」
「そうですね、二日後には出たいと思っています。」
「では二日後までに奴隷を王都門に集めておきます。よろしいでしょうか。」
「分かりました。では二日後の朝に西の門でお願いします。」
マルスとデリックは奴隷商を出て次の買い物をするために商店街に向かった。
「デリックさん、騎士爵になって祝金としてお金を貰いましたけど、これは自由に使っていいのですか。」
「その金はマルス村長個人の資産となるから自由に使って問題ないぞ。」
「そうですか、ならみんなにお土産を買っていこうかな。」
マルスは子供たちへのお土産と塩や布などを買った。そして二日後王都西の門の前には馬車が並んでいた。中にいるのは恐怖におびえている奴隷たちであった。
奴隷商がマルスに近づいてきて奴隷の人数や色々な手続きを行っていく。マルスは奴隷たちが怯えていることを疑問に持ち奴隷商に質問をした。
「すいません。何か奴隷たちが怯えているように見えるのですが気のせいですかね。」
奴隷商は苦笑いを浮かべながら答えにくそうに「マルス様、これから行く場所はスタンピードによって崩壊した場所です。奴隷たちは自分たちが村の開発をするための犠牲にさせられると思っているのです。私たちは奴隷にきちんと説明を行ないましたが、場所を伝えていますので生き残れないと思っているのでしょうか。」
「あっ、そうですよね。普通はそう思いますね。」
「ではこれで引き渡しは完了となります。第2陣は冬明けになる予定です。」
「約半年後ですね。分かりました色々とありがとうございます。」
マルスと奴隷たちは西13村へ向けて馬車を走らせて行った。護衛には騎士たちがついてくれている。
馬車に乗せられている奴隷たちは不安が増していた。騎士が護衛に着かなければいけない程に危険な場所と思われたのである。王都から離れ辺境へ進むにつれて奴隷たちの表情も余計に暗くなっていく。
マルスは何とも言えない感じであった。自分たちはそんなに危険な場所で暮らしていたのかと思うのであった。
だが奴隷たちにも楽しい時間はある。食事の時間である。今までは一日2食、一食固い黒パンに薄いスープ一杯である。これでは体がもたない。今回の移動では保存食ではあるが干し肉が奴隷たちに与えられている。パンは固いが騎士たちや他の者達と同じ食事になっていることに奴隷たちは驚いていた。
「こんないい食べ物も最後と思うと泣けてくるな。」
「そうだな、辺境に着いたら、魔物がいるんだろうな。」
「でもあの村長とかいう子供もいるんだし、魔物もそんなにいないんじゃないかな。」
「そんなことある訳ないだろう、騎士様が護衛に付かなければいけない場所なんだぞ。」
「そうだよなー、俺も此処までかな。自由になりたかったな。」
「鉱山でも辺境でも同じようなもんだな。まぁ鉱山より少しはましなところなら良しとしないとな。」
「そうだな鉱山では1,2年でみんな死ぬというしな。まともに食事が貰えないみたいだし、ここなら餓死だけはなさそうだな。」
「食べられるだけでもいいよ、平民の時なんか俺はこんな食事食べたことなかった。奴隷になって初めてだ。こんなに美味いスープなんて飲んだことなかった。」
奴隷たちは食事の時に話をしている。騎士も誰も咎めたりはしない。最初はひそひそ話であったが喋ってよいと正式に許可が出たことも有り、奴隷同士で会話をしている。通常の奴隷は許可がないと喋る事さえできないようである。
マルス達一行は10日かけて西13村に戻ってきた。
「やっと着いたーーー。長かった。」
「マルスーーー、おかえりーー。」
「エミーただいまーー。」
「おかえりー。」
「お帰りー。」
「みんなただいまー。留守の間は大丈夫だった。」
「問題なかった、魔物が2回来たけどみんなすぐに殺せたよ。」
「ゴブリンが来たの。」
「うん、ゴブリンだった。」
それを聞き耳を立てていた奴隷たちは絶望したような顔になっていた。
「あっそうだ、奴隷を買ってきたから泊まる場所を決めないとね。」
「それなら騎士の人たちから聞いているわ、男女別々に泊まれるようにしてあるよ。」
「よかった。エミーは女性の方を案内して。男性はバークお願いね。」
「うん分かった。」
「了解。」
「それから今日は歓迎会をしようか。いつもより少しだけ豪華な食事にしよう。色々と買ってきたからそれを食べようね。」
「おおーーーーーーー。」
「マルス、奴隷たちも同じ食事でいいのよね。」
「もちろん同じにして。この村で暮らしていくんだからみんな同じだよ。」
「分かったわ、なら食事の準備を手伝ってもらうわ。」
「うんお願いね。」
「村長、少し話したいことがあるんだいいかな。」
「デリックさんなんですか。話なら家の中でしましょうか。」
「そうしてくれ。」
マルスとデリックはマルスの家に入る。
デリックは今後の事をマルスに説明する。マルスが重要人物になっている事。
そのために騎士を常駐して守る事、西13村を中心に周りにも村を作り西13村が管理する事等を伝えていく。
マルスはそんな事になっていることなど知らずにいたのである。スキルの事は確かに貴重だとは思っていたが、そこまでとは思っていなかった。何故奴隷を買って村で働かせるのかがやっと理解できた。余計な人を村に入れない為であると分かったのである。マルスは村の運営のやり方をデリックと話始める。
まず村の出入りは騎士がチェックして管理する事、耕作地は奴隷を使い作物を育てる。後は家などを修繕する。魔法の使える子供たちは村の外で訓練を始めるなどを決めていく。
冒険者である、ガレイスとモレガは森に入り魔物の調査をしてもらい、狩りをしてもらう。
行商である、メイスンにはモズの町を行き来してもらい必要な物資などの確保をしてもらう。これはマルスも同行する事となった。
メイスンの妻と子供たちは村に残り村の仕事を手伝う事となっている。
大体の話が終わると、メイスン、セリル、ガレイス、モレガ、エミー、バークを呼び話をすることとなった。
マルスは自分が騎士爵位を与えられた事、マルスを除く17人にも騎士の称号が与えられた事とこれからの事を伝えていった。みんな目を丸くして聞いている。
「すると俺はマルス村長の家臣になると言う事か。」
「そうなります、不本意でしょうが承諾してください。」
「ガレイス殿、これは陛下の決めたことだ嫌でも従ってもらう。どうしてもいやであれば数年後ではあるがやめてもらっても構わない。それは私が責任をもって約束する。」
「いいや、嫌だという訳ではない。マルス村長は子供だがしっかりしているし、貴族に使えるならマルス村長がいい。少し驚いたんだ。いや分かっていた。スキルを貰い普通ではなくなると分かっていたが、話が急すぎて驚いただけだよ。」
「あのー。」
「なんですかセリルさん。」
「私たちの子供の事なんですがスキルももらっていませんし、普通の子です。騎士の称号を貰うのは拙いと思うのですが。それにレミはまだ4歳です。」
「・・・・・・・まぁ、それは陛下が決めた事だ、諦めてくれ。」
「デリックさんそれでいいんですか。みんな陛下のせいにしているように聞こえますがいいんですか。」
「・・・・・聞かなかったことにしてくれ、頼む。」
ここにいる者達は事の重大性にやっと気づいたのであった。




