11話 王への報告
騎士デリットは驚いていた。こんな辺境で人も住めないような場所で、温かい食事が出来る事と食事が上手い事である。一緒にきている騎士たちも料理に夢中になっている。
デリットは村長のマルスと冒険者のガレイス、モレガ、商人のメイスンの4人で囲みながらの食事である。
「マルス君少し聞きたいのだが、この食料はどこから手に入れたのだね。」
「それはこの村と12村からです。ジャガイモは西12村で専門につくっていました。」
「そうかジャガイモはどのくらいで収穫出来るのかな。」
「大体100日ですね。春先に植えたジャガイモは収穫してしまいました。ですから今植えている物は10月の終わりぐらいに収穫できる予定です。本当はやりたくなかったのですが冬を前に食料が尽きる事を考えて植えました。でも畑を広げる事が出来ましたから。良かったのかもしれません。」
「君は凄いな。その年でそこまで考えられるなんて本当に素晴らしいな。」
「そんなことないですよ。食べないと死んでしまいますから必死なだけですよ。」
「いやいや、マルス君、それは違うよ、私たち親子を受け入れてくれたり、普通は食糧難の時に6人も受け入れないよ。それも12人しかいない場所で6人だよ。1.5倍になってしまっているんだよ。」
「まぁそうですけど、子供だけだと力が足りない場合がありますからね。」
「メイスンさんたちが住んでくれて助かっています。ありがとうございます。」
「こちらこそありがとう。スキル迄貰って恩を返せるか不安だよ。」
「そうだな、坊主にスキルを貰っているから、恩を還すまでは俺たちも此処に居るかな。」
「そうだなガレイス。」
「本当にスキルを貰ったのか。」
「そうです騎士様、この坊主、いや村長は本当にすごいやつです。」
「マルス君、私にもスキルを貰えないか、魔法が使えるようになればより強い敵と戦えるようになる。」
「いですよ、明日森に行きましょう。」
「な、何か軽いな。いいのかい。」
「いいですよー、そのくらい。今は一人でも戦力が必要なんですから。デリットさんだけでなく他の方たちもスキルを手に入れられるようにしましょう。」
「いや、私と数人だけにして貰おう。これはかなり大変なことだからね。」
「そうなんですか。分かりました。」
翌日、デリットと他の騎士3人の合計4人がマルスと共に森に入っていった。他の者達は周辺を見回る事になっていたようだ。朝早くにもう村を出て行っていた。
デリットは信じられない憧憬を目にしていた、スライムと人間が融合している。そして離れたときにはスキルを持っている。まさか自分が魔法使いになれるなどとは思っていなかった。憧れはあったがまさかである。
他の連れてきた騎士たちも魔法が使えるようになるなど半信半疑であった。だが実際に使えるようになると目の色を変えてスライムを探して回っていた。
騎士だけあってみんな剣のスキルを持っていた。マルスは騎士たちなら魔物との戦闘になれていると思い他も魔物を生け捕りにしてスキルを取ろうと提案してみた。デリットも実験に意味があるからと賛成してくれた。マルスと騎士たちはゴブリン以外の魔物を探した。だが見つからなかった。まだこの森にはゴブリン以外はいないようだ。それでもゴブリン以外いないと分かったのだから成果はあった。そして騎士たちも火魔法と水魔法、土魔法を手に入れた。
なんだか騎士たちはソワソワしている。嬉しさを隠しきれていない。
だがデリットだけは違った。魔法が使えるこの事はもの凄く嬉しい。だが国に報告しなければいけない、こんなことが出来る等、国にとっては一大事であった。.
デリットは騎士二人をこの村の護衛として残し村を手伝うように指示を出していった。残される騎士のデリックから事の重大性を聞かされ納得していた。魔法を使えるようにしてくれた村長を守るためである。騎士二人も重大な事としてとらえていた。
デリットともう一人の騎士は急ぎ王都へ戻る事になった。
残る二人に他の騎士たちの指示を任せモズの町に待機させるようにしていた。この西13村に近づけないようにしたのであった。
村にはいつもの光景が戻ってきた。違うのは騎士が2人増えたことである。この騎士たちには門や近隣の監視などをしてもらい、大いに助かっていた。
一方、デリットは馬を乗り継ぎ最速で王都へ戻っていた。
スレイト王国の国王に謁見を願い出るためであった。
「早急に謁見を頂きありがとうございます。」
「よいよい、お主とワシの中だ。どうした急に戻ってきた、何かあったのか。」
「はい、まずはお人払いをお願いします。」
「それほど重大な事か。」
「はい。」
王は謁見の間にいるすべての者を部屋の外へ出した。側近の者は不満顔であったが。文句を言う者はいない。
広い謁見の間には王とデリットの二人となっていた。
「陛下は私が魔法を使えないことはご存じですね。」
「もちろん知っているぞ。お主が魔法にあこがれていることもな。」
「なっ、そんなにあこがれてはいません、使えたら便利だなぐらいは思っていますが。」
「ほー、そうなのかで人払いまでしてどのようなことだ。」
デリットは自分の手のひらに炎を創った。
「なっ、デリットいつから魔法を使えるようになった。」
「陛下、私はスタンピードの調査で西地域を廻っていました。そこで・・・・・」
「誠の事なのだろうな。」
「はいすべて真実です。」
「信じられんな。スタンピードで生き残る事もそうだが、それ以上に鑑定、融合、分離のスキルを使うとスライムからスキルを獲れるというのは信じられん。」
「ですが私はそれでスキルを手に入れました。私以外の騎士3人も魔法を使えるようになっています。」
「そうだな、目の前にお主がいるのだからな。信じるしかあるまい。人払いをしたのは正解だな。」
「ですがいずれはばれるでしょう。本人の自覚がない事と村を守るために村人にスキルを与えていますからいずれ知れ渡るでしょう。」
「そうだな、その前に手を打つか。」
「陛下どのようにいたしますか。」
「デリット、確かその者は村長の息子と言ったな。」
「はい、マルス・ケントレーと言いました。家名持ちですから間違いなく爵位なしの貴族です。」
「そうだな、西13村を後で調べてくれ。それよりもそのものを今回のスタンピードの村の壊滅を逃れた功績で騎士爵にしよう。爵位があればワシと話せるようになるしな。村の生き残りと他の6人全員に騎士の称号を与える。平民にしていたら貴族どもの餌食になるからな守らねばなるまい。」
「さようです、あの子供たちは凄いですよ。あんな状況でイキイキと農作物を作っているのですから。」
「そうだな、西13村だけでは足りないな、どうせ開拓村にいく者はいないだろう。マルス騎士爵に西13村の周辺も管理させよう。もちろん領地としてな。」
「他の貴族もスタンピード後の土地にはいかないでしょう。ですが誰かに管理させなければなりません。貴族達は管理する者が貧乏くじを引いたと思うでしょう。」
「そうであろう。デリット急ぎ準備を進めよ。マルスを大至急連れてまいれ。」
「はっ。」
「おっと、その前に皆を呼び戻そう。少し演技に付き合ってくれ。」
スレイト王は側近の者達と大臣たちを呼び戻した。そこでスタンピードの生き居残りの者達がいる事。森に魔物が戻ってきていることを強調して伝える。そこで生き残りの村長の息子にスタンピードで破壊された一帯を復興させることにする。復興資金と5年の税免除、騎士爵への陞爵を決めたと言った。
貴族達は反対も何もなかった。爵位なしの貴族ということも有り、すんなりと受け入れられた。貴族達は壊滅した村の復興などやりたくないのであった。スレイト王は近くにいた貴族に打診したりしていたがどの貴族も自領の復興を優先する事を上げて断っていた。
演技の終わったデリットは急ぎ西13村へ向かう手配をしていた。王から言われたのはマルスを王都に連れて来る事とスライムを何匹かもってこいと言われていた。
デリットは王の騎士である。私利私欲の命令でも従うのが騎士である。デリットはため息をつきながら準備をして、騎士10人と急ぎ西13村へ向かうのであった。




