清掃対象:シケアル・スクリーム
決戦のお掃除!
クーリア・ジェニスター & マリアック・アリビュート(フェイキッド・スクリーム)
VS
シケアル・スクリーム
シケアル殿下は地面に突き刺した漆黒の剣を握りながら、ご自身の能力について語られた。
スキル――<魔王>。
前世からゲームにはそこまで詳しくない私だが、それでもその名称だけで嫌というほど恐ろしさが伝わってくる。
「この<魔王>のスキルは僕が長年<暗黒魔法>を研究し、その果てにこの身と同一化させるに至ったスキルだ! <暗黒魔法>を完全に使いこなすことができる、『魔王のデスティニー』における最強のスキルだ!!」
シケアル殿下は自信満々に語りながら、突き刺した剣の先から地面に魔法陣を描き始める。
黒い紋様で描かれるその魔法陣は私とマリアックの足元にまで広がり、誓いの大樹周辺を取り囲むように広がっていく――
「領域展開――<征服・魔王>!!」
――シケアル殿下のそのお言葉と共に、黒い魔法陣の描かれた範囲全体が、<暗黒魔法>のドームで覆われてしまった。
直感的に分かる。
今この<暗黒魔法>のドームで覆われた空間は、完全にシケアル殿下のテリトリーだ。
私とマリアックはシケアル殿下が用意した牢獄に囚われたと言っても、過言ではない。
「こ、これがシケアル殿下の持つ、<魔王>スキルの力……!?」
「くっそ!? ここまでの力を隠し持っていやがったのか!? 俺の想像以上だ……!」
私達は驚きを隠せない。
思わず怖気づいてしまうが、どのみち逃げ道もなくなったのだ。
それならば、元よりやるべきことを果たすまで――
「マリアック! お願いします!」
「ああ! 任せろ!」
――シケアル殿下のお掃除だ。
私の呼び声よりも早く、マリアックは"ファルコン"と"ホーク"の二丁拳銃を構えながら、シケアル殿下へと挑みかかる。
私も左手に地気霧吹を持ち、まずはマリアックの援護へと回る。
「愚かだな、フェイキッド! お前如きの力で、この僕に勝てるわけがないだろう!? たとえ<アブソリュートアクター>であっても、この<魔王>スキルまでは真似できまい!」
「真似する気なんかねえよ! そんな気色悪いスキル、こっちから願い下げだ!」
マリアックはシケアル殿下の挑発にも惑わされず、二丁拳銃の銃口をそれぞれシケアル殿下へと向ける――
ズバギュゥウン!!
――そしてそこから放たれる、"ファルコン"による白い魔法弾を纏った、"ホーク"の実弾。
マリアックのあの白い魔法弾の正体は分からないが、おそらくマリアックの<シスター>としての聖女魂が可能にした、神聖な魔法の類だろう。
私にもその聖女魂を不思議と感じられる。
バギンッ! バギンッ!
「ば、馬鹿な!? 僕の<暗黒魔法>による防壁を、貫いてくるだと!?」
マリアックが放った<白き聖女の弾丸>は、シケアル殿下が周囲に展開していた<暗黒魔法>の防壁さえも撃ち砕いている。
シケアル殿下も<暗黒魔法>を操り、マリアックに反撃しようとするが――
ヒュンッ! ヒュンッ!
「くそ! くそぉお!? 何故当たらないんだ!?」
「<アブソリュートアクター>を舐めんじゃねえよ。俺は<アサシン>に<シーフ>に<武闘家>……。あらゆる回避特化スキルを習得してるんだぜ?」
――マリアックにはまるで当たらない。
マリアック自身も述べている通り、あらゆる回避特化スキルを模範して習得したマリアックに、単調な攻撃は通用しない。
シケアル殿下の操る触手のような<暗黒魔法>をかいくぐりながら、マリアックは<白き聖女の弾丸>での攻撃を続けていく。
だが――
バギンッ! ブゥウン!
「くそ!? どんだけ再展開が早いんだよ!?」
――シケアル殿下は撃ち砕かれた防壁に代わる新たな防壁を次々に生み出し、自らの身に<白き聖女の弾丸>が届かないように防いでくる。
「言っただろう? 僕はこの<暗黒魔法>を、『この身と同一化させる』レベルにまで磨き上げている! 僕にとって<暗黒魔法>は手足も同然! お前がその二丁拳銃で貫いてきたのには驚いたが、所詮は僕の敵ではない!」
やはりシケアル殿下は想像を絶する強敵だ。
<暗黒魔法>をここまで攻守において完璧に使いこなすなど、これまで私がお掃除してきた相手の中でも誰もいなかった。
間違いなく最強にして、最悪の清掃対象――
「それにフェイキッドよ。お前は僕一人に気を取られていて、いいのかな?」
「ま、まさか!? クーリア!!」
――そんな時、シケアル殿下は目線を私の方へと変えてきた。
マリアックも慌てて私に声をかけるが、狙いを私に変えてくるのだろう。
シケアル殿下が地面に突き刺した剣から、<暗黒魔法>を弾丸のように私目がけて飛ばしてくる――
――だが、そんなことは私も承知の上だ。
「地気霧吹。お願いします!」
私はすぐさまポケットから取り出した地気霧吹を左手で構える。
マリアックとシケアル殿下の戦いの最中に、<暗黒魔法>の成分は<用務眼>で分析しておいた。
酸性とアルカリ性が様々に分かれた成分だが、私にはその対策をとることができる――
シュゥウ! シュゥウ! シュゥウ!
――<暗黒魔法>の弾丸の成分はバラバラだが、私はそれぞれに合わせて地気霧吹から射出する溶液の成分を即座に切り替え、素早く撃ち落としていく。
「な、何だそのオモチャのような拳銃は!? なぜそんなもので僕の<暗黒魔法>を撃ち落とせる!?」
「拳銃ではありません。霧吹きです」
「余計に意味が分からん!!」
シケアル殿下は『信じられない』といった表情をしているが、私には何も驚くことなどない。
<暗黒魔法>も私にとっては所詮は"汚れ"。
<清掃用務員>である私になら、落とせない"汚れ"はない。
シケアル殿下の剣と同じく、スミスピア様によって作られたこの地気霧吹があれば尚更だ。
「へへっ、流石はクーリアだぜ。俺の心配は杞憂だったな」
マリアックもその様子を見て、納得の笑みを浮かべている。
――ようやく私は確かな自信を持つことができた。
今の私になら、シケアル殿下をお掃除することができる。
「シケアル殿下。<清掃用務員>である私に、<暗黒魔法>は通用しません。大人しく降参してください」
「黙れぇえ!! くそぉ! 本当に全く意味の分からない女だ! ただのモブキャラのくせに、こんな意味不明な能力で僕の計画を台無しにしやがって! そんなスキル、『魔王のデスティニー』の中にもなかったぞ!?」
シケアル殿下は私に対して、これ以上ないほど狼狽えている。
とにかくシケアル殿下にとって、私の存在は最大のイレギュラーなのだろう。
本来なら死亡ルート確定のモブキャラが、こうして生きて目の前にいる。
ただのモブキャラなのに、ご自身と同じように前世の記憶を持った転生者である。
そんな自分と同じ転生者が、自分の存在を脅かす能力を持っている。
シケアル殿下からしてみれば私の存在はあまりにイレギュラーで、脅威でしかないのだろう。
だが、今の私はそれで同情するつもりは毛頭ない。
私がクーリア・ジェニスターとして生きてきたこの世界の安寧のため、私が愛する人々のため、私はなんとしても清掃業務完了してみせる。
それが今この世界で生き続ける、クーリア・ジェニスターという人間の在り方だ。
「くうぅ……!? ……フン。だが、まだ甘いな。この僕の領域展開<征服・魔王>の中でなら、僕は<暗黒魔法>の力を最大限に発揮することができる……!」
一度はその狼狽えぶりから追い詰められたように見えたシケアル殿下だったが、冷静さを取り戻したのか、私に不気味な笑みを浮かべながら、次なる一手を口にしてくる。
領域展開――<征服・魔王>。
私ではよく分からない能力だが、この空間をシケアル殿下が支配しているということだろう。
周囲はシケアル殿下によって張り巡らされた<暗黒魔法>で覆い隠され、私とマリアックに逃げ道はない。
そしてシケアル殿下は地面に刺していた漆黒の剣から手を離し、両腕を広げ始めた――
「クーリア・ジェニスター! お前は僕の<暗黒魔法>に対抗する術を持っているようだが、フェイキッドまではそうもいかないだろう!?」
「ッ!? ま、まさか!? マリアック! 逃げてくだ――」
――シケアル殿下の目論見を理解し、マリアックに声をかけようとしたその矢先だった。
周囲の<暗黒魔法>が触手のように伸び、とても回避できない数でマリアックへと襲い掛かる――
シュルルルゥ! ギュゥゥウウ!!
「あぁ!? ぐうぅ……!?」
「マ、マリアック!?」




