これが私達の答えです。
白い魔法弾の正体は番外編で。
「フェイキッド……!? お前まで僕に逆らうのか!? 僕の力を知らないわけじゃないだろう!?」
「んなもん、俺が一番よく理解してるっての。だけどよ、クーリアを馬鹿にすることだけは許せねえんだよ……!」
シケアル殿下は驚きながらも、白い魔法弾を放ったマリアックを睨みつけている。
マリアックもまた、左手に持った"ファルコン"の銃口を向けながら、シケアル殿下を睨みつけている。
「……フェイキッド。お前が僕に放った白い魔法弾が何かは分からない。だが、それで僕を倒せると思ってるのか?」
「思ってねえさ。そもそもテメェを倒すのは、俺の役目じゃねえ。ここにいるクーリアの役目だ」
「……残念だ。僕の傍で言う通りに動いていれば、お前の未来は約束されていたのにな」
「はぁ? テメェの用意したクソみてえな未来なんて、俺の方から願い下げだ。テメェに感謝だなんだをする義理なんて、何一つとしてねえよ」
シケアル殿下とマリアックは睨み合ったまま、お互いの気持ちを述べられている。
シケアル殿下の方は自らの力と絶対性を揺るがせず、マリアックの方はそんな兄であるシケアル殿下への恨みを吐き続ける。
実の兄弟が争っていると思うと心苦しいものがあるが、それでも私はどこか嬉しさを感じてしまう。
――マリアックは確かに、私に味方してくれている。
その事実だけが、ただただ嬉しい。
「……いや、一応、俺も兄貴に一つだけ感謝することがあるな」
「え……? わわっ!?」
睨み合っているお二方だったが、ふとマリアックが空いていた右手で私の体を抱き寄せてきた。
かなり密着する形になるが、なぜだか恥ずかしい。
そしてマリアックは左手に持った"ファルコン"の銃口をシケアル殿下に向けたまま、私を抱き寄せながら語り始めた――
「こいつと――クーリアと引き合わせてくれたことにだけは、素直に感謝してやるよ! テメェの行いで良かったと思えるものなんて、それだけだ!」
――それは私にとってとても嬉しく、私も同じように思える気持ちだった。
数奇な運命ではあったが、私もこうしてマリアックという友人が傍にいてくれることには、素直に感謝することができる。
「お、おのれ……! どこまで僕を馬鹿にするつもりだ……!?」
「シケアル殿下。いい加減諦めてください。あなたは一人だけです。この周辺はすでにジーキライ陛下を始めとした、ウォッシュール王国の最高戦力で包囲されています。潔く諦めて――」
「黙れ! だ、だったら、お前が僕の下につくというのはどうだ!? 同じ転生者同士、ともにこの世界を塗り替えないか!?」
なおも諦めないシケアル殿下に私は降伏を促すが、やはり聞き入れてはもらえない。
それどころか、私に対して『部下になれ』という都度の発言をされてきた。
私は一度マリアックの顔を見て、その様子を伺う。
マリアックは言葉には出さないが、私のことを心から信頼してくれていると分かる笑顔で察してくれた。
――マリアックも思ってくれている通り、シケアル殿下の提案はあまりに素っ頓狂極まりないものだ。
私はシケアル殿下へと目線を移し、その思いを口にする。
その中で語るのは、私のこれまでの経験も含めた思いだ――
「私はいつも失敗ばかりします。ですが周囲の方々はそんな私を許してくださり、そのおかげで私もまた、次につなげることができます。お掃除しか考えられない私にも、多くの方々が優しく手を差し伸べてくださりました。いつも泣いてばかりの私のことを、皆様は気遣ってくれます。私の周囲の方々は、本当に慈悲深くて尊敬できるお方ばかりです。そんな方々を無視してあなたの部下になるなど、それこそありえない話です」
「クーリア……」
――そんな私の心からの感謝を込めた言葉を聞いて、隣で聞いていたマリアックもふと声を漏らしている。
今の私になら分かる。
私の内にある思いは、決して偽りでも独りよがりでもない。
そんな気持ちを胸に、私はさらに言葉を紡いだ――
「私が年齢に不相応なディアンドル風の衣装を着た時も、マリアック達はドン引きながらも許してくれました」
「うん。ちょっと待ってくれ。あれは違うんだ。その……逆だから……」
――ついでに学園祭の時の謝罪も述べたのだが、何やらマリアックが眉を引きつらせながら顔を強張らせている。
私の謝罪に何か問題点があったのだろうか?
こんな時にまで失態を犯すとは、私は本当にまだまだ成長する必要がある。
だが、今はシケアル殿下の相手をしなければいけない――
「私はファインズ公爵家の従者、公爵令嬢であるココラル・ファインズお嬢様を主とし、同時に家族とする者。マリアック・アリビュートの友人にして、前世より清掃魂を受け継ぎし……誇り高き"超一流"の<清掃用務員>です。そんな私があなたのような人間に従うことなど、ありえません」
「わ、訳の分からないことばかり言いおって……! おい! フェイキッド! 本当にこんな頭のおかしい女に従ってていいのか!? 僕に従っていれば、未来は約束されるのだぞ!?」
私はシケアル殿下に対し、覚悟を決めながら改めて自らの立場を名乗り出た。
それを聞いたシケアル殿下は私に気圧されたのか、狼狽えながらマリアックに再度提案を持ち出す。
――だが、そんなことは無意味だ。
もう言葉も態度も交わさなくても、マリアックの気持ちは分かる――
「いい加減にしろつってんだろ、クソ兄貴。第一、テメェは俺に『異世界転生』だのなんだのって話、ずっと隠してただろ? クーリアは自分が転生したことに気付いた時、真っ先に周囲に話してくれたぞ?」
「はぁ!? なんだそれは!? 完全に馬鹿の行動じゃないか!?」
「ああ、俺もこいつのことは馬鹿だと思うぜ。……だけどよ、テメェみてえな嘘つき野郎よりも、俺にはずっと信頼できる」
――マリアックもまた、シケアル殿下の提案を跳ねのけた。
少々私のことを馬鹿にされたような気もしたが、そこはとりあえず置いておこう。
――もう、私達は迷わない。
今この場においてするべきことは、『シケアル殿下のお掃除』のみ。
これが私達の答えだ。
「……フハハハ。いいだろう。そこまで僕に逆らうというのなら、この僕自らが引導を渡してやるよぉお!!」
とうとう完全に悪い方向に吹っ切れてしまったのだろう。
シケアル殿下は腰に携えていた剣を引き抜き、地面へと突き立てる。
その剣は漆黒の刀身を持ち、私には<暗黒魔法>が滲み出しているのがよく見える。
「この剣はかの名工、スミスピア・ガンランスが作りし最高傑作だ! この僕の<暗黒魔法>を最大限に活かし、あらゆる人間の心を塗りつぶす最強の力だ! そこに僕が今に至るまでに磨き上げたスキルの力があれば、この世界に敵などいない!!」
シケアル殿下は地面に突き刺した漆黒の剣の刀身から<暗黒魔法>を溢れさせ、この誓いの大樹周辺を覆い隠していく。
地面だけでなく、空をも覆い隠す程の<暗黒魔法>――
――正直に言うと、規模が大きすぎて怖い。
それでも私はお掃除しなければいけない。
<清掃用務員>クーリア・ジェニスターとして、この最大の<暗黒魔法>の根源を清掃業務完了してみせる。
「クーリア……準備はいいな?」
「はい。覚悟はできています」
その様子を見て、マリアックは私の体から右手を離し、しまっていた"ホーク"も取り出して構える。
私もまた、箒天戟を強く握りしめて清掃魂を昂らせる。
――今この時こそ、最後のお掃除の時だ。
「さあ、来い! 『魔王のデスティニー』の主人公たるこの僕が持つスキル、<魔王>の力でお前らを葬り……この国も世界も、僕の色に塗り替えてやるぞぉおお!!」
さあ! 始めよう!
ラストダンスだ!!




