この世界の全てを語っていただきます。
だから私は最初に言ったんです。
「これはよくある転生物の異世界」だって。
「な、なぜそれを!? いや、それ以上に……『私と同じ』だと!?」
私の問い掛けに対し、シケアル殿下は肯定ととれる態度をとられた。
何よりもそのお言葉から『私と同じ』という部分に、強く反応されていることが分かる。
「シケアル殿下。私は先日マリアックから、あなたのメモの内容を見させていただきました。ここから先は私の推測になりますが――」
さらに私はシケアル殿下に対して、考えられることを尋ねる。
シケアル殿下は私と同じ転生者だろうが、一つだけ大きな違いがある。
私も前世で話に聞いた程度だったが、もしその話が今目の前で『現実』として起こっているのなら、全てに筋が通ってくる。
本来ならばありえない話だが、私だってこうやって転生しているのだ。
今更『ありえない』などという言葉も通用しない。
私はその推測を、シケアル殿下へと話した――
「あなたは前世の記憶を持った転生者であり、同時に『この世界の元となった物語』をご存じなのではないでしょうか?」
「フ……フフ……フハハハ……!」
――そんな私の話を聞くと、シケアル殿下はうつむきながら不気味に笑い始めた。
そして――
「ああ……その通りだ! 僕は前世の記憶をもってこの世界に転生し、ここが何の世界かもよく理解している……!」
――私の質問を完全に認められた。
「僕は前世である日、トラックに撥ねられて死んでね。そして気が付くと、この世界に転生していたんだ。……このゲーム『魔王のデスティニー』の世界にな! そして僕は自らが主人公である、シケアル・スクリームであることも生まれた時から理解していた!」
さらに私とマリアックに対し、ご自身の置かれていた境遇について語られ始める。
私も現実にこんなことが起こるとは思わなかったが、現にシケアル殿下は私の思った通りにこの世界へ転生した人間だった。
「な、なあ、クーリア。兄貴の言ってる、『ゲーム』だの『魔王のデスティニー』だのってのは、どういう意味なんだ?」
「私が生きていた前世の世界には、『異世界転生』という物語の法則がありました。その法則の中には『自分の愛した物語の中に転生する』というパターンが存在します。私は知らないゲームのタイトルですが、おそらく『魔王のデスティニー』というのは、シケアル殿下が愛した物語のタイトルでしょう」
「マ、マジかよ……!? それじゃあ俺達の世界は、作り物だったってことか……!?」
マリアックはシケアル殿下の口から話される真実を聞いて、唖然としている。
それもそうだろう。これまで自分達が生きていた世界が、果ては自分達の存在が、『誰かによって作られた作り物』だと言われたのだ。
――ただ、私はマリアックの手を握りながら、私自身が思うことを伝える。
「マリアック。この世界は確かに誰かが作った物語かもしれません。ですが、決して作り物や紛い物の類ではありません。シケアル殿下と同じ世界から転生した私が断言します。この世界は、紛れもない『現実の世界』です」
「クーリア……ああ、そうだな。あまりに急なことを言われたから、俺も思わず動揺しちまった。……大丈夫だ。世界の創造者が存在してることに、そこまで驚く理由もねえ。俺はお前の言葉を信じるぜ」
私がマリアックを見つめながらその思いを伝えると、軽い笑みを浮かべながらマリアックが手を握り返してきた。
元々この世界の住人であるマリアックにとって、シケアル殿下が語る真実は衝撃的だっただろう。
だが、この世界は決して作り物なんかじゃない。
私がこの世界でクーリア・ジェニスターとして生き、前世の記憶を取り戻して<清掃用務員>として覚醒しても、私の周囲の方々の思いもこの身に感じる感触も、決して嘘ではない。
私にとってもこの世界の誰にとっても、この世界は作り物ではないと断言できる。
「フン! お前らがどう思おうと、この世界が元々ゲームの世界であることに変わりはない! そして僕はこの『魔王のデスティニー』の世界を、徹底的にやりこんで知り尽くしている!」
そんな私の言葉を聞いても、シケアル殿下はご自身の意見だけを押し通してこられる。
あまりこういう態度は好ましくない。
私としては<清掃用務員>の流儀に則り、意見の照らし合わせをしたいところだが、シケアル殿下にそれは通用しそうにない。
「僕は生まれた時から前世の記憶を覚えていた! 僕にはこの世界にどのような力があるのか、どのようなキャラがいるのか、どのようなことが起こるのか……それら全てを、完全に記憶してたんだ!」
シケアル殿下はただひたすらに、ご自身のこれまでを語り続けられる。
その中で聞かされた、私とシケアル殿下という同じ転生者としての大きな差――
私は『前世の記憶をこれまで思い出していなかった』ことと、『この世界の元となった物語を知らなかった』こと。
シケアル殿下は『前世の記憶を赤子の時から思い出していた』ことと、『この世界の元となった物語をよく理解している』こと。
――もしかするとこの差が、私とシケアル殿下の運命を分けたのかもしれない。
「それを理解した僕は、かねてより前世からの推しキャラであったファブリ・フレグラを攻略することを決めた。やりこんでいたからルートもフラグ分岐も完璧に管理できる。そのためにも、まずはシナリオ通りフェイキッドには死んだことになってもらい、"フェイキッドの亡霊"となってもらった」
「テメェ……! よくもそんな勝手な都合で、俺の人生をメチャクチャにしやがって……!」
「怒られるとは心外だな。僕の知識があったからこそ、お前は<アブソリュートアクター>としての才能を開花させられたんだ。むしろ、感謝してもらいたいところだ。フハハハ!」
さらに語られるシケアル殿下の話を聞いて、マリアックは怒りを露にする。
つまりマリアックは――フェイキッド・スクリーム様は、シケアル殿下がファブリ様と結ばれたいがために利用され続けていた。
そんなことのために利用されていたと聞いて、マリアックが怒らないという方が無理な話だ。
――私も怒りがこみあげてくる。
マリアックの立場を考えれば友人として、とてもではないが許せない。
「さらにはファブリとのフラグ成立のためにも、ココラル・ファインズには『悪役令嬢ルート』に入ってもらう必要があった」
「……ッ!? やはり、ココラルお嬢様が"汚れ"で――<暗黒魔法>でワガママになってしまったのも、あなたの仕業だったのですね?」
「ああ、その通りさ。それに『悪役令嬢ルート』になる要素として、あの令嬢の母親にも僕の<暗黒魔法>で流行り病を演出し、退場してもらったよ」
「な、なんてことを……!?」
そんな私の怒りに油を注ぐように、シケアル殿下は更なる真実を語られる。
私が敬愛するファインズ公爵家の奥方様は、シケアル殿下によって殺された。
私を愛してくれる家族の一員を、シケアル殿下が奪った。
事前にマリアックに見せてもらったメモから、大体の予想はついていた。
それでもこうしてシケアル殿下の口から直接、しかもこんな罪悪感の欠片もないような言われ方をして、私は怒りを押さえずにいられない。
「なんだ? 二人して僕をそう睨むなよ? 元々この世界は『魔王のデスティニー』というゲームの世界なんだ。そう考えると一番おかしいのは……クーリア・ジェニスター、お前の存在だ」
「私の存在がですか?」
そんな内心怒り狂う私の耳に、シケアル殿下の語る更なる真実が入ってくる――
「お前はどのルートであろうと、『絶対に途中で死ぬはずのモブキャラ』だったんだ。そのため、僕の計画に沿う形で死んでもらうはずだったのに、お前はことごとく生き延びてきた。クッコルセに襲われようと、フェイキッドに狙われようと、お前は死ななかった。なぜかは分からなかったが、ようやく合点がいった。まさか、お前も僕と同じ転生者だったとはな」
――その真実は、私個人にとって衝撃的なものだった。
もし私が転生者でなかったら、私はシケアル殿下の思惑通りに死んでいた。
もし私が前世の記憶を取り戻していなかったら、私はその計画通りに殺されていた。
もし私に<清掃用務員>としての力と清掃魂がなければ、私は何もできなかった。
その事実を理解した時、私は心の底から震えあがった。
私の身に起こりえた死という可能性もそうだが、それ以上に恐ろしいことがある――
――シケアル殿下は私も含めたこの世界の方々を、『自分に都合のいい物語のキャラクター』程度にしか考えておられない。
「なんだ? 本当のことを知って怖気づいたか? 所詮お前はこの『魔王のデスティニー』という物語において、ただの脇役に過ぎないんだよ。フハハハ――」
ギュォオンッ!!
「――ッ!? な、なんだ!?」
シケアル殿下が私を嘲り笑っていたその時、突如そのシケアル殿下の身に『白い魔法弾』が放たれた。
シケアル殿下ご自身は咄嗟に腕で庇ったためにダメージはないようだが、その魔法弾は魔法に疎い私にも神聖なものであることが不思議と感じ取れた。
そしてその白い魔法弾を放ったのは、私の隣にいる人物――
「いい加減にしろよ、クソ兄貴が……! それ以上クーリアのことを侮辱するんじゃねえよ……!」




